トランプ大統領「返り咲き」で、どうなる日鉄のUSスチール買収

接戦が予想されていた米大統領選挙は、ドナルド・トランプ前大統領の大勝で終わった。そこで気になるのが「宙ぶらりん」になっている日本製鉄<5401>による米USスチールの買収だ。選挙戦では「絶対に認めない」と明言していたトランプ氏。日鉄は買収を断念せざるを得ないのか?

買収「反対」が、一転「容認」の可能性も

トランプ氏は選挙キャンペーンで日鉄によるUSスチール買収を、国家安全保障の観点から「私は直ちに阻止する、絶対にだ!」と語気を強めて批判した。買収に反対するUSスチールの労働組合もこの発言を歓迎し、トランプ氏に1票を投じた組合員も多かっただろう。

だが、労組の期待が裏切られる可能性もありそうだ。グレン・S・フクシマ米先端政策研究所上席研究員は「(国家安全保障上)絶対に認めないと言っていても、条件によっては買収を認めるかもしれない」と指摘している。

「トランプ氏はビジネスを重視する人物で、本当の意味での国家安全保障に対して、どこまで真剣に重視しているか分からない。(日鉄による買収が)米国やUSスチールにとって良いと判断すれば、許可する可能性も排除できない」と言うのだ。

事実、トランプ氏は大統領時代の2018年10月にインディアナ州の農業団体集会で「日本が農産物で市場開放をしないのならば、日本車に20%の関税を課す」と明言しながら、2019年3月にトヨタ自動車が米国工場への追加投資を発表すると、「米自動車産業の労働者たちにとってビッグニュースだ!」とコメント。農業団体に約束した日本車への20%課税を反故にしたこともある。

フクシマ氏も「トランプ氏の1期目は外国企業による米国への投資については歓迎していた。同盟国の企業が米国に投資して、雇用を創出したり地元経済を刺激したりすることには反対しないはずだ」と見る。

買収が実現しても、新たな課題が⋯

今回は2期目で次の選挙を気にしなくて良いだけに、選挙期間中の公約を反故にする可能性は1期目よりも高そうだ。

幸いバイデン政権は当初懸念されていた大統領令によるUSスチールの買収阻止に踏み切らなかった。それだけにトランプ氏が一転して日鉄による買収を容認するハードルは低くなっている。

ただ、日鉄にとっては想定以上に「高い買い物」になるかもしれない。トヨタは結果的に日本車への課税を阻止するために7億5000万ドル(約1150億円)もの追加投資をした。日鉄はすでにUSスチールに13億ドル(約2000億円)の追加投資を表明している。

しかし、トランプ氏が現状の条件でUSスチール買収を承認するとは考えにくい。さらなる投資の上積みが「ディール(取引)」の条件となる懸念がある。加えてトランプ氏が掲げる関税引き上げとドル安誘導が物価高を招き、米国景気を冷え込ませるようなことがあればUSスチールの業績も下降するだろう。

トランプ氏の「心変わり」でUSスチール買収が実現しても、それが日鉄の収益につながるかどうかは予断を許さない状況と言えそうだ。

文:糸永正行編集委員

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