【十六FG】M&A支援に参入、りそなHDとの経営統合は?
十六フィナンシャルグループ(FG)<7380>は岐阜県と愛知県を地盤とする銀行持株会社。十六銀行から2021年に持株会社体制へ移行。グループは十六銀行を含む9社で構成され、少子高齢化や労働力不足などの地域課題に対応しながら、M&Aを活用した地域経済の活性化を目指している。
現行の「国立ナンバーバンク」では最古参
同グループの歴史はM&Aの歴史と言ってもいい。前身の十六銀行は西南戦争が起こった1877(明治10)年に創立した国立第十六銀行が源流だ。「国立ナンバーバンク」の一つだが、1873年(明治6)年に設立した新潟県の第四銀行が2021年に北越銀行と合併し、第四北越銀行に改称。そのため十六銀行は、設立当時の名称をそのまま継承する銀行としては日本最古となった。
ちなみに、ここで言う「国立」とは「国法によって立てられた銀行」であって、国の法律に基づいて民間が設立・経営した銀行を指す。国が設立して経営した銀行ではない。
戦前の銀行の多くはそうだったが、十六銀行もM&Aによる再編を繰り返して経営規模を拡大した。同行の場合は明治期に周辺銀行を「合併」することで営業エリアを拡大し、昭和初期には周辺銀行を「買収」することで取り込み、規模拡大を続けてきた。
1940年代前半には戦時統制による一県一行主義に伴い、岐阜県内の私立銀行・貯蓄銀行が同行に集約されている。敗戦間際の1945年には岐阜県大垣市に本店を置く、もう一つの地銀である大垣共立銀行<8361>との合併を進めていたとされるが、岐阜市と大垣市への空襲による混乱で立ち消えとなった。戦後になるとM&Aは沙汰止みになるが、1972年と1998年に信用組合を取り込んでいる。
その後、バブル崩壊後の長引く景気低迷とそれに伴うゼロ金利時代が続き、「銀行冬の時代」に見舞われた。大手都市銀行は1973年からの13行体制が崩れ、金融大再編で5行体制となった。十六銀行も2010年12月に第二地銀の岐阜銀行を株式交換で子会社化し、2012年9月に合併した。
岐阜銀行は岐阜県内で営業していた岐阜無尽、幸無尽など4社の無尽会社を1942年に統合して誕生した岐阜合同無尽が前身。岐阜合同無尽は戦後間もない1948年に岐阜無尽に改称し、1951年には岐阜相互銀行となった。そして1989年に第二地銀の岐阜銀行になった。
十六フィナンシャルグループのM&A年表
「地銀空白県」の愛知への積極展開、M&A支援も
十六銀行が岐阜銀行を合併して規模拡大を図った背景には、隣県の愛知県に地銀がないという事情がある。愛知県には都銀の東海銀行が存在したが、2002年1月に三和銀行と合併してUFJ銀行に、2006年1月には東京三菱UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)となりメガバンク化した。
そのため東海銀行時代ほど地元密着型の銀行サービスが提供できず、十六銀行が進出すれば岐阜県を大きく上回る企業や人口を有する愛知県を自らの地盤に組み込むことができる。
十六銀行は2021年10月に十六銀行単独の株式移転で、銀行持株会社の十六フィナンシャルグループを設立。十六銀行は十六フィナンシャルグループの子会社となる。同グループの発足に伴い、銀行子会社だった主要事業会社を銀行持株会社の直轄事業とした。
十六リースや十六T T証券、十六カード、十六総合研究所、十六電算デジタルサービス、NOBUNAGAキャピタルビレッジなどがグループの子会社に。銀行と並列の企業とすることで「本流」と「傍系」の垣根を取り払い、持株会社が一元的にグループ事業を統括することにした。
同グループはM&Aを新たなビジネスチャンスとも考えている。2023年7月にM&A仲介最大手の日本M&Aセンターホールディングス<2127>と共同でM&A支援会社「NOBUNAGAサクセション」を設立した。社名は岐阜にゆかりのある戦国武将の織田信長から採り、地域を代表する事業承継支援会社として経営者の思いをつなぐ(Succession)会社にしたいという願いを込めた。
企業の買収や合併、会社分割、株式交換・移転、事業譲渡、資本提携、業務提携など、M&Aの企画立案や斡旋、仲介業務、コンサルティング業務などを手がける。同グループの営業基盤ネットワークと、仲介事業者の事業承継ノウハウを活用。岐阜・愛知両県で地元企業の事業承継を支援して、地域経済の持続的成長を目指す。
ライバルの大垣共立に対抗、りそなとも関係強化
一方、ライバルの大垣共立銀行はグループのOKBキャピタルを通じて同4月に、事業承継のための伴走型経営支援ファンド「OKB事業承継ファンドⅢ~ふえきりゅうこう~」を設立した。ファンド総額は20億円で、存続期間は10年。
ファンドの無限責任組合員(GP)はグループのOKBキャピタルで、有限責任組合員(LP)には同行のほか、名南経営コンサルティング、セレンディップ・ホールディングスなどが名を連ねている。十六FGとしては、こうした動きに対抗してM&Aによる事業承継ビジネスに参入したとみられる。
大垣共立を突き放すには、経営規模の拡大が必要だ。2024年1月に十六FGの池田直樹社長は読売新聞とのインタビューで、他行との経営統合について「縁などがあれば可能性を排除せず、タイミングがあれば考えますが、こちらから能動的にやりましょうといった考えはありません」と答えている。
ただ、十六FGは同2月にリテール部門の融資や資産運用、デジタル化、人材育成など幅広い業務で、りそなホールディングス(HD)<8308>と提携した。りそなHDの南昌宏社長は同4月の時事通信とのインタビューで、十六FGとの業務提携について触れ「首都圏、関西圏に続き中京圏にも足場をつくり、大きな経済圏としてつなぎたい」と意欲を燃やしている。
十六FGとしても大株主の三菱UFJフィナンシャル・グループが政策保有株式の削減を急いでいることから、新たな後ろ盾としてりそなの出資を受け入れる可能性もありそうだ。十六FGと、りそなHDによる「東名阪M&A」は実現するのか。両社の動きから目が離せない。
文・写真:糸永正行編集委員
10/24 06:45
M&A Online