買収阻止? セブン&アイのヨーカ堂切り離し、逆効果の可能性も
カナダコンビニ大手のアリマンタシォン・クシュタールから再度、買収提案を突きつけられたセブン&アイ・ホールディングス<3382>が、新たな経営計画を発表した。4年連続で最終赤字のイトーヨーカ堂など非コンビニ事業を切り離す。それは株価を引き上げ、買収阻止を狙った策とも受け取れるが、かえって買収を招き入れる結果になりかねない。
ヨーカ堂売却で株価を引き上げ、買収阻止を狙ったが…。
セブンは2024年8月19日、北米で「サークルK」などを展開するカナダのアリマンタシォン・クシュタールから6兆円規模での買収提案を受けたと発表。これに対してセブンは企業価値が著しく過小評価されているとして「ステークホルダーの最善の利益に資する提案ではない」と拒否回答した。
買収提案の発表を受けて、セブンの株価は前営業日比400円(22.7%)高の2161円に高騰。時価総額も5兆6300億円に跳ね上がった。その結果、アリマンタシォンが提示した6兆円では6.53%のプレミアムしか乗せられないことになった。セブンから「ノー」を突きつけられた場合、TOB(株式公開買い付け)による買収しか方法はないが、1ケタのプレミアムでは一般株主からの応募は期待できない。
ところが10月9日、アリマンタシォンが買収金額を7兆円に引き上げた再提案をセブンに提出したことが明らかに。翌日10日、セブンはスーパーや専門店などの事業を統括する中間持ち株会社「ヨーク・ホールディングス」を11日に設立すると発表。コンビニ以外の事業を分離して、外部パートナーを招き入れ、同社を持ち分法適用会社化する方針を示した。
かえってアリマンタシォンを勢いづかせる結果に
この方針は買収提案の成否を左右する。赤字のヨーカ堂を切り離すことでセブンの株価が上がり時価総額が高騰すれば、アリマンタシォンは買収しづらくなる。例えばセブンの株価が3000円に乗れば時価総額は7兆8000億円となり、7兆円では資金不足となる。
しかし、状況は予想外の方向に動く。事業分離が報道された直後こそセブン株は12%近く急騰したが、その日のうちに4.7%高にまで縮小。セブンの株価は上がっていない。16日には、買収再提案が明らかになった前日の株価を割り込んだ。現在の株価だと7兆円でTOBを実施された場合、20.8%のプレミアムがつく計算に。決して高いプレミアムではないが、成立する可能性は十分にある。
それどころか事業分離の決断が、アリマンタシォンの買収意欲を高めるおそれもある。ブルームバーグによればセブンの米ドルベースでの株主総利回り(TSR)が4.3%とアリマンタシォンの13.8%に比べて著しく低いことから、カナダでは今回の買収を不安視する見方も出ていた。つまり「高値づかみ」ではないかとの懸念だ。
だが、ヨーカ堂の売却を決めたことで、セブンの利益率が向上するのは確実となった。しかも、株価は落ち着いている。クシュタールにとっては、まさに「渡りに船」の状況になったと言えよう。セブンにとって事業分離に対する投資家の評価が予想外に低かったことは大きな誤算だったのではないか。
このまま株価が上がらず、セブンが買収阻止に望みをつなぐなら、日本政府による介入しかない。今回の買収提案を受けて、政府は8月に外資の日本企業への出資を規制する外為法の対象にセブンを指定した。一方で政府は2023年8月に「企業買収における行動指針」を発表。経営陣による買収防衛策を抑制し、「敵対的買収」を「同意なき買収」に言いかえるなどM&Aを活発化する方針を示している。アリマンタシォンが「同意なき買収」に踏み切った場合、政府としても難しい舵取りになりそうだ。
文・写真:糸永正行編集委員
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10/18 06:35
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