日鉄のポスコ株売却、駐日韓国大使はどう見る?日韓関係に影響は?

日本製鉄<5401>が保有する韓国鉄鋼最大手のポスコホールディングス株を全て売却すると発表した。ポスコは日韓国交正常化で誕生し、経済協力の象徴的な企業だけに、売却が政治問題に波及する可能性も取り沙汰されている。韓国政府は今回の事態をどう考えているのか?

駐日韓国大使はポスコ株売却を「日鉄の企業判断」と静観

朴喆熙駐日韓国大使は「日鉄の企業判断だと考えており、その判断にお任せするのが普通のことだと思う」と、問題視しない姿勢を明らかにしている。日本記者クラブ(東京都千代田区)の会見でM&A Onlineの質問に答えた。

ただ、「(株式売却)金額はかなり大きいので、個人的にはなぜ今それを決定したのかという理由は知りたい」と、日鉄の判断材料について関心を示している。

株式売却後の両社のつながりについては「日鉄とポスコの協力関係がなくなるわけでない。株式売却の具体的な影響については分析しなくてはいけないと思うが、(両国関係にとって)否定的な動きとは解釈していない」と、日鉄のポスコ株売却が両国関係に影響を与える可能性は極めて低いと見ている。

ボスコは1968年、日韓基本条約の対日請求権資金(経済協力金)などを元に、事実上の国有企業「浦項総合製鉄」として発足、1973年に操業を始めた。現在の日本製鉄の源流である八幡製鐵と富士製鐵のほか、日本鋼管(現 JFEホールディングス)の技術供与を受けて成長した。

その後、日本の製鉄メーカーと競合するようになり、2012年には新日鐵住金(現 日本製鉄)が、モーターの鉄芯などに使われる方向性電磁鋼板の技術を不正入手したとしてポスコを提訴。2015年にポスコが300億円を支払うことで和解している。

東アジア経済圏構想よりも日韓経済関係の強化を重視

一方、欧米各国が排他的な保護貿易に傾き、ブロック経済化する中で、日韓が主軸となる東アジア経済圏構想の必要性については「日韓の経済的な連携協力は経済安全保障の時代になり、信頼できる同じ考え方の国と協力を深める傾向が続いているため、ますます増えると思う。東アジア経済圏と呼ぶかどうかは別として、日韓の経済的な関係は深まっていくだろう」と、両国間の経済関係強化を重視する考えを述べた。

シャトル外交を再開した岸田前首相(左)とユン大統領

日韓シャトル外交を再開した岸田前首相(左)とユン大統領(Reuters)

日韓関係は安倍首相と文在寅(ムン・ジェイン)大統領時代に冷え込んだが、2023年3月に岸田首相と尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領の間でシャトル外交が復活し、関係改善が進んでいる。

シャトル外交が再開した2023年は前年を2件上回る7件に増加したが、2024年は10月8日時点で3件と低迷しており、ここ10年では最低レベルに近い。日韓の経済関係がM&Aだけで測れるわけではないが、両国関係を強化するためにも両国政府によるクロスボーダーM&A促進に期待したい。

*2024年は10月8日現在

文:糸永正行編集委員

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