【鴻池運輸】M&Aにアクセル踏み、「物流」の枠を超える事業展開加速へ

鴻池運輸がここへきてM&Aにアクセルを踏み込んでいる。6月に2件の買収を相次いで発表した。ターゲットはいずれも海外企業で、このうち1件はメディカル関連。鴻池運輸は社名に「運輸」がつくが、物流事業のウエートは売上高のおよそ3分の1で、物流の枠を超えて製造、エンジニアリング、メディカル、空港業務など幅広い領域に展開している。

医療器材滅菌のインドSPDを子会社化

鴻池運輸は6月半ばに、インドで手術器具など医療器材の滅菌サービスを手がけるSPD India Healthcare Pvt. Ltd.(ニューデリー)の株式82%を取得し、子会社化した。病院業務の外部委託の黎明期にあるインド医療市場でメディカル事業の展開を本格化するのが狙いだ。

SPDは2017年設立で、インド国内で数少ない医療器材の滅菌受託事業者という。取得価額は非公表。

インドでは2013年に、デリー首都圏に子会社のカルナメディカル・データベース(ハリヤナ州)を設立。医療機器・材料や病院・医師に関するデータベース事業をはじめ、海外駐在員向けのオンライン健康医療相談サービス、日系企業のインド医療市場への進出支援などを手がけてきた。

鴻池運輸は現行の中期経営計画(2022年4月~25年3月)の注力事業の一つにメディカル事業とインド事業を位置づける。今回のSPDのグループ化を弾みに、インド全土でのメディカル事業展開を加速する方針だ。

メディカル事業で30年の実績

実は、メディカル事業で鴻池運輸は日本国内で30年の実績を持つ。

病院・クリニックなどの医療機関から手術器具の洗浄滅菌、院内物流、手術室支援業務を引き受ける。また、医療関連メーカー・卸業者に対しては物流センターの設計・運営をはじめ、検体・再生医療品の輸送、医療機器の輸入・製品検査・輸配送などのサービスを幅広く提供している。

こうした取り組みを水平展開する先として選んだのがインドだ。インドは人口増や経済発展に加えて政府の医療拡充政策により人口当たりの病院数の引き上げが進行中で、医療市場の急成長が見込まれている。

鴻池運輸は2008年にインドに拠点を開設し、フォワーディング(輸出入の手配)業務に乗り出した。プラント移設などのエンジニアリング、鉄道コンテナ輸送、自動車の鉄道輸送、メディカルに順次、事業を広げてきた。

なかでも鉄道コンテナ輸送には2017年、日系物流企業として初めて本格参入。西インドの主要3港から北インド内陸を結ぶ約1300キロメートルの区間で展開している。

北米で初のM&A、梱包会社を買収

6月にはもう1件、北米で初となる買収を発表した。対象はカナダ・メキシコで自動車部品の梱包を手がけるPine Valley Packagingグループを傘下に持つカナダ1000868639 Ontario(オンタリオ州)。鴻池運輸は北中米エリアで物流や生産設備の輸送・据え付けを行っているが、梱包を加えることで顧客への提案力向上につなげる。

Pine Valley Packagingグループはカナダのトロント市近郊とメキシコのレオン市に梱包工場を持ち、欧米や日系の自動車メーカーなどを主要顧客とする。

鴻池運輸がM&Aに取り組んだのは2年ぶり。ただ、前回の2022年、その前の2021年はいずれも国内外子会社の売却案件だったので、今年は久々に買収側に回り、攻守所を変えた格好だ。

鴻池運輸の2024年3月期業績は売上高1%増の3150億円、営業利益25.6%の166億円、最終利益36.7%増の113億円だった。売上高海外比率は約12%。

売上高を部門別にみると、複合ソリューション事業2019億円(64%)、国内物流事業539億円(17%)、国際物流事業591億円(19%)。

屋台骨を担う複合ソリューション事業

では、全売上高の3分の2を占める複合ソリューション事業とはどんなものか。鉄鋼、エンジニアリング、食品、生活、空港、メディカル関連などの分野で構成する。

例えば、鉄鋼分野。大手鉄鋼メーカーの製鉄所で原材料受け入れ、製造工程、検査、梱包、配送の出荷工程にいたる複合的な業務を請負う。1900(明治33)年に日本鋳鋼所(旧住友金属工業、現日本製鉄)の工場構内荷役と運搬作業を開始した。これが今日、経営の屋台骨を担う複合ソリューション事業の源流となっている。

食品分野などでも同様のビジネスモデルで長年、顧客メーカーの支持を得ている。今夏のPine Valley Packagingグループの取り込みはエンジニアリング業務の強化の一環をなす。

鴻池運輸は1880(明治13)年に運輸業として大阪で創業。1945年に鴻池組の運輸部門が分離独立し、鴻池運輸が設立された。これに伴い、鴻池組は建設業専業となった。

2030年ビジョンで売上高4500億円を掲げる

複合ソリューション事業の主軸の1つに成長したのが空港業務。国内主要空港で予約・購入、座席指定、手荷物受け入れなどの旅客ハンドリング業務と、航空機の誘導、手荷物・貨物の搭降載、客室清掃などのグランドハンドリング業務を展開している。

こうした空港業務はコロナ禍で一時苦境にあったが、国際旅客便の復便などによる取扱量増加を受けて2024年3月期は4期ぶりに営業黒字への転換を果した。

鴻池運輸は2022年に策定した「2030年ビジョン」で、売上高4500億円、営業利益250億円、ROE(株主資本比率)10%以上を掲げている。

この中で成長戦略の要に位置付けるのがインド、メディカル、エンジニアリング、空港関連の4分野。新たなM&A案件が待機中とみて良さそうだ。

◎鴻池運輸の主な沿革

出来事
1880 鴻池忠次郎が大阪で運輸業を始める
1900 鉄鋼分野で工場構内荷役・運搬の請負業務を開始
1945 鴻池組から運輸事業の継承して鴻池運輸を設立
1951 食品分野で工場構内請負業務を開始
1963 海上貨物事業を開始
1979 航空貨物事業を開始
1984 初の海外拠点としてシンガポールに現地法人を設立
1985 米国に進出
定温物流事業を開始
港湾運送業の佐野運輸(神戸市)を子会社化
1991 空港関連事業を開始
1994 医療関連事業を開始
2001 運送業の此花運輸(名古屋市)を子会社化
2010 JALスカイ関東(現Kスカイ、関空内)を子会社化
JALグランドサービス関西(現Kグランドサービス、関空内)を子会社化
2013 東証1部に新規上場(2022年4月に東証プライム上場に移行)
2014 ベトナムの冷凍冷蔵倉庫会社Anpha‐AGを子会社化
運送業の九州産交運輸(熊本市)を子会社化
2016 日鉄住金リサイクル(現ASRリサイクリング鹿島、茨城県鹿嶋市)を子会社化
2017 空港関連事業のNKSホールディングス(現鴻池エアーホールディングス、東京都中央区)を子会社化
JBSホールディングスからグランドハンドリング業務などの空港関連事業を取得
2018 電気工事業のエヌビーエス(福岡市)を子会社化
香港の航空貨物会社BEL International Logisticsを子会社化
2019 建設・プラント設備保守点検の中電産業(新潟県妙高市)を子会社化
2020 空港関連事業のエアーエキスプレス(那覇市)を子会社化
2021 貨物輸送のタイ子会社Konoike J.Transportを譲渡
2022 子会社の前川運輸(千葉市)を同業のベストライン(奈良県五條市)に譲渡
2024 6月、医療器材滅菌サービスのインドSPD India Healthcareを子会社化
7月、自動車部品梱包のPine Valley Packagingグループを傘下に持つカナダ社を子会社化

文:M&A Online

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