M&A支援機関協会への改組で「不適切案件」を一掃できるか

「不適切な買い手」など一部で報道されたM&A業界の問題解決に向けて、M&A仲介業界の動きが活発化している。自主規制団体のM&A仲介協会は「不適切な買い手」排除のための取り組みを強化するため、仲介事業者以外のM&Aに関わる企業にも枠を広げた「M&A支援機関協会」として2025年1月1日に再起動すると発表した。その実効性は?

加盟企業の枠組みを大幅に拡大

M&A仲介協会が発表した改善策は以下の3点だ。

1. 協会をより開かれた団体に体制変更する。 FA(フィナンシャル・アドバイザー)やM&Aプラットフォーマー、地域金融機関など仲介事業者以外のM&A支援機関も会員に迎え、理事会にも参加してもらう。 自主規制ルールの策定では、外部有識者を交えることで透明性を高める。

2. 「不適切な買い手」企業を排除するための取り組みを強化する。 「不適切な買い手」を記載した「特定事業者リスト」を作成し、会員企業との取引を禁止する。 それに加えて、大きな問題となった個人保証の解除を買い手企業側の義務とするなどのルール改正を実施する。

3. M&A支援に携わる人材向けの資格制度を導入することで支援の質を担保し、中小企業が安心してM&Aに取り組める環境を整備する。

発表会見でM&A仲介協会の荒井邦彦代表理事(ストライク社長)は今回の取り組みについて、「仲介事業者だけでなく、他のM&A支援機関の力も合わせて、不適切な買い手を排除していく必要がある。改訂された中小企業庁の中小M&Aガイドラインとも歩調を合わせた」と説明した。

特定事業者リストは2024年10月1日に運用を始めるが、「現時点では具体的な社数は申し上げられない」(荒井代表理事)としている。 財務や事業状況の詐称など売り手企業に問題があるケースもあるが、「今のところ、買い手企業以外の事業者が入ることは想定していない」(同)という。

不適切な取引を撲滅するための資格制度

新たな資格制度が、同協会が推進するM&A市場健全化のカギとなる取り組みで、本格開始までに数年かかる見通し。新しい資格制度の詳細は今後検討するが、試験制度のほか資格停止など罰則などを設ける。仲介会社が「不適切な買い手」に売り手企業を紹介し続けていた事例については「現時点でそのような事例は特定できていない」(同)が、資格取得を通じてM&Aアドバイザーの危機管理能力と倫理観を高め「不適切な買い手」の徹底的な排除を目指す。

問題は実効性だ。新たな資格制度は取得しなければM&A業務に従事できない国家資格となるかどうかは未定なだ。公的・民間資格になった場合は、資格を持たないM&Aアドバイザーが協会に加盟しない仲介事業者に集まって「売上最優先」の強引な営業を仕掛け、M&A市場の健全化を阻害する可能性もある。荒井代表幹事は「資格制度が業界のスタンダードとなることを目指す」としている。だが、それに併せて「協会加盟の事業者に所属する有資格のアドバイザー以外とはM&Aの相談や手続きをすべきではない」とのコンセンサスを中小企業が共有する必要がある。

協会の普及努力は必須だが、M&A市場を健全化するには国や自治体、マスメディアによる適切な情報提供と注意喚起も重要だ。後継者不足に伴う「廃業ラッシュ」を回避する唯一の手段である事業承継を推進するためには、社会をあげてM&Aアドバイザー資格の認知度を上げていく必要がある。

文:糸永正行編集委員

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