元AKB48の小嶋陽菜さんが創業したheart relationを子会社化する「yutori」の戦略とは

「9090（ ナインティナインティ）」などのファッションブランドを展開するyutori＜5892＞は2024年8月16日に、元AKB48の小嶋陽菜さんが創業したアパレル中心のライフスタイルブランド「Her lip to」などを運営するheart relation（東京都渋谷区）を子会社化する。

取得価格は16億9200万円で、銀行からの借入れで支払いを行う予定だ。

yutoriは2023年12月に、アパレル企業としては最短となる東京証券取引所グロース市場への上場を果たすなど急成長しているものの、年商40億円強の同社にとっては大きな投資と言える。

yutoriはどのような戦略を描いているのだろうか。

成長戦略にピッタリの対象

yutoriは2024年6月に事業計画と今後の成長の可能性に関する情報を公表した。

この中で「アパレル事業については、引き続きオーガニック成⻑とM＆Aによるブランド買収による両軸で売り上げ拡⼤を⽬指す」としているほか、アパレル以外の商材の販売による新領域への進出にも意欲を見せている。

heart relationは、ライフスタイルブランド「Her lip to」のほかにも、ビューティーブランドの「Her lip to BEAUTY」（ボディーケア、香水など）、ランジェリーブランドの「ROSIER by Her lip to」（女性用の下着や部屋着）を運営しており、同社の成長戦略にピッタリの対象といえる。

そのheart relationは、2005年にアイドルグループAKB48に第1期生として加入し、2017年に卒業した小嶋陽菜さんが、2018年に「Her lip to」ブランドをリリースしたあと、2020年に創業した。

2023年12月期の売上高は29億3100万円（前年度比2.3％増）、営業利益は3億700万円（同45.9％減）で、2024年12月期は2024年1～6月の売上高が前年同期比26.8%増と好調に推移している。

一方、yutoriの2024年3月期の売上高は43億2000万円（同74.9％増）と大きく伸び、営業利益は3億8300万円と、前年度の4700万円の赤字から黒字転換した。

yutoriは、heart relationの連結業績への取り込みは、2025年3月期第3四半期から実施する計画で、今後の業績に与える影響は精査中としているものの、売り上げ、利益ともに大きく伸びることは間違いない。

予想を上回る伸び

yutoriは、2018年に片石貴展氏（yutori代表取締役社長）が創業した企業で、10～20代の男女向けの「9090（ ナインティナインティ）」や、My SugarBabe（マイシュガーベイブ）、20～30代の女性向け「PAMM（パム）」など32ブランド（2024年7⽉末時点）を展開している。

2020年にファッション商品の通販サイトを運営するZOZOと資本業務提携し、ZOZOが46.63％を保有する筆頭株主（2023年11月公表の有価証券報告書）となったが、上場後の2024年3月期の有価証券報告書では、ZOZOの保有割合は19.16％に下がり、第2位の株主（筆頭株主は27.16％を保有する片石貴展氏）となっている。

yutoriはインスタグラムやTikTok、X（旧Twitter）などのSNSを活用して情報を発信しており、同社のEC（電子商取引）サイトの訪問者の半数近くは、こうしたSNS経由という。

直近の月次の売上高は2024年4月が前年同月比72.2%増と大きな伸びとなり、その後伸び率は鈍化しているものの、4～7月の平均では同41.4%増となるなど、2025年3月期の売上高予想（2024年3月期比30％増）を上回る水準で推移している。

M＆Aについては以前から積極的で、2022年にKANDORからファッションブランド「F-LAGSTUF-F」を譲り受けたほか、同年には「Younger Song」など複数ブランドを展開するA.Z.Rを子会社化した。

今回のheart relationの子会社化はこれに次ぐもので、これまで蓄積してきた両社のブランド運営、商品企画、マーケティングなどのノウハウを共有し、グループとしての成長を目指すという。

yutoriの片石社長は「ピュアな新世代連合軍の心打つ快進撃はまだまだ続きます」とコメントしている。

文：M＆A Online記者 松本亮一

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