経団連が目指す多様性推進のためにも、スタートアップ活用が必要な理由

経団連が選択的夫婦別姓の早期実現を提言した。海外出張などでパスポートに記載された本名とビジネスで使う通称の違いから、ホテルでの宿泊を断られるなどの「実害」が生じているため。さらに2024年6月に発表された世界経済フォーラム(WEF)のジェンダーギャップ指数で日本は118位と、男女格差が大きいアジアでも韓国や中国の後塵を拝している。こうした状況に危機感を強め、多様性を推進したい経団連だが、そのためにはスタートアップの活用が欠かせない。

待ったなしの「選択的夫婦別姓」

経団連は多様性の実現と女性の活躍促進の観点から、夫婦ともに生まれ持った姓を戸籍上の姓として維持できる制度の早期実現を求めている。

経団連の魚谷雅彦ダイバーシティ推進委員長(資生堂会長)は、日本記者クラブ(東京都千代田区)の記者会見で「政府には一刻も早く、改正法案を提出をいただき、国会で建設的な議論が行われることに期待したい」と、早期の選択的夫婦別姓制度の実現を訴えた。

ただ、ジェンダーギャップは夫婦別姓だけが問題ではない。経済界では管理職比率や賃金水準などでの格差是正が求められている。経団連でも2020年11月に2030年に女性役員比率30%以上を目指す「2030年30%へのチャレンジ」をスタート。「30% Club Japan」を立ち上げ、同年をめどにTOPIX100の取締役会に占める女性の割合を30%以上とする活動が始まっている。

魚谷委員長が会長を務める資生堂では取締役の45%は女性だが、2023年5月に日本総合研究所が上場企業を対象に実施した調査によると役員の女性比率は10%。同12月の男女共同参画会議で政府が掲げた2025年までの東証プライム上場企業の女性役員比率目標ですら19%に留まる。

経団連自身の女性登用も進んでいない

さらにジェンダーギャップの解消など、多様性の推進を訴えている経団連自身の女性登用も進んでいない。経団連の「最高幹部」に当たる会長・副会長は21名いるが女性は南場智子ディー・エヌ・エー会長と野田由美子ヴェオリア・ジャパン会長の2名。同じく審議委員会議長・副議長も20人中、次原悦子サニーサイドアップグループ社長の1名だけだ。

経団連首脳の女性比率は7.3%、世界でも低いとされる日本の上場企業における女性役員比率の10%にも届かない。そんな経団連が「女性の積極的な登用を」と企業に呼びかけても、説得力は低い。先ずは会長・副会長と審議委員会議長・副議長の女性比率を早急に30%超へ引き上げる必要があるのではないか。「財界総本山」の経団連が先行すれば、日本企業全体に対するインパクトも大きいはずだ。

経団連は、どう考えるのか?魚谷委員長はM&A Onlineの質問に「なるべく女性に入っていただこうという強い意識は経団連の幹部の間でも共有されているので、これからも(女性が)増えていくことになるだろう」と答えた。

とはいえ、そう簡単に女性登用が進まない事情もある。経団連の「最高幹部」はプロパーの職員を除けば、企業の会長または社長に限られるからだ。つまり企業で女性トップが増えない限り、経団連の女性比率は上がらないというジレンマが生じる。

スタートアップの活用で多様性を推進できる理由

もっとも解決策はある。3名の女性「最高幹部」のうち、2名がスタートアップのトップなのだ。スタートアップの女性創業者であれば、経団連「最高幹部」の登竜門である大企業における男性優位の出世レースとも関係ない。

内閣府の「女性活躍と経済成長の好循環実現に向けた検討会」が2023年5月にまとめた報告書「女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けて」によると、起業家に占める女性比率は2017年時点で 27.7%。そのほとんどが社長または会長と考えられ、上場企業に比べると女性トップの比率は大幅に高い。

スタートアップ発の上場企業も増加しており、こうした企業の女性経営者を積極的に登用すれば、経団連「最高幹部」の女性比率は短期間のうちに上昇し、国内企業の模範となるだろう。魚谷委員長は「スタートアップや地方の中堅企業で大変ユニークな経営をされている企業には、大企業よりも大胆に(女性を)重要なポジションにつかせている事例もある」と認める。

加えて伝統的な大企業とは異なる視点を持つスタートアップ発の上場企業が経団連の要職を占めることで、「人」だけではなく「企業」の多様性も推進できるはずだ。1990年代初頭まで世界をリードした日本企業が、GAFAに代表されるスタートアップ発の米国企業に追い抜かれた。

21世紀に入ってからの日米経済の成長率の違いも、伝統的な大手企業ではなくスタートアップの格差によるものだ。30年にもわたる日本経済の停滞を打破するためにも、経団連はスタートアップ経営者を積極的に活用すべきだろう。

文・写真:糸永正行編集委員

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