第2次MBOブーム到来か? 今年早くも10件、5年連続の2ケタに

2024年の上場企業によるMBO(経営陣による買収)は6月初めに早くも10件(届け出ベース)に達し、5年連続で2ケタに乗せた。このままいけば、年間件数は2021年の19件を超えて、過去最多だった2011年21件を13年ぶりに更新する可能性がある。

MBOは上場企業の看板を自ら下ろし、株式市場から退出することを意味する。何が経営者をMBOに駆り立てているのか。

今年10件目は永谷園HD

上場企業のMBOはTOB(株式公開買い付け)を通じて行われ、創業者や創業家出身の経営陣が主導するケースが大半だ。

今年に入って10件目となるMBOが始まったのは6月4日。その企業は永谷園ホールディングス(HD)。創業家出身の永谷栄一郎会長、永谷泰次郎社長ら経営陣が三菱商事系列の投資ファンドである丸の内キャピタル(東京都千代田区)と組んだ。

丸の内キャピタル傘下の買収目的会社がTOBを行い、全株式を取得する。取得金額は477億円。創業家一族は非公開化後の永谷園HDに34.5%を再出資し、引き続き経営にあたる。

パートナーに選んだ丸の内キャピタルはタカラトミー、ジョイフル本田、成城石井、「クイーンズ伊勢丹」の運営会社をはじめ、コンシューマー分野で投資実績を積んできた。

永谷園HDは看板商品の「お茶漬け海苔」で抜群の知名度を持つが、人口減や高齢化で国内市場が成熟化する中で、海外展開の加速や新事業の推進が課題となっており、中長期的に成長戦略を実行するには非公開化が望ましいと判断した。TOBが成立すれば、1976年以来の株式上場にピリオドを打つ。

コロナ禍以降、2ケタが続く

実は目下、第2次MBOブームの様相を呈している。MBOは2010年代半ばから、年間5件前後で推移していたが、コロナ禍初年の2020年に11件を数え、以降は21年19件、22年12件、23年16件と2ケタが続き、今年は半年を待たずに10件に達した。前年は10月末に10件に届いており、4カ月近くペースが速い。

※2024年は6月11日時点、M&A Online作成

第1次MBOブームが訪れたのは2000年代後半。年間件数は2007年から2011年まで5年連続で10件を超え、ピーク時の11年は21件まで膨らんだ。

元通産官僚の村上世彰氏が率いる「村上ファンド」が登場した2000年以降、物言う株主の存在が意識されるようになり、買収防衛策の観点からMBOが検討されたという事情に加え、リーマン・ショック(2008年)後の不況に対応して中長期に事業構造改革を進めるため、目先の業績や株価に左右されない経営体制づくりの一環として非公開化を選択するケースが増えた。

事業環境の変化に、東証改革が加わる

では、2020年以降、再びMBOが増え始めた理由は何か。

一つは事業環境の変化だ。産業界は未曽有のコロナ危機に直面し、さらにウクライナ戦争に端を発する世界的なエネルギー・原料高が襲っている。こうした中、MBOには非公開化で経営改革への意思決定を迅速化する狙いが込められている。

二つ目は2022年4月の東京証券取引所の市場区分変更に伴い、流通株式時価総額や流通株式比率、株主数などの上場基準が厳しくなったことがある。中堅クラスやオーナー系企業にとっては上場維持のハードルが高まる一方、買収リスクの高まりや物言う株主への対応などにより、上場メリットが薄らいでいる状況もある。

もう一つ付け加えれば、東証市場区分変更に際し、上場維持基準を下回っても暫定的に上場を認める「経過措置」が2025年3月以降に順次終了することが見逃せない。経過措置の終了から1年たっても基準を満たせない場合は上場廃止に追い込まれる。こうしたタイムリミットが迫れば、先手を打つ形で自らMBOを通じて非公開化を選択する動きが広がることが予想される。

◎2024年MBO一覧(6月11日時点)

届出月 企業名 上場先 成否
1月 アオキスーパー 東証S 成立
ペイロール 東証G
ベネッセホールディングス 東証P
2月 ウェルビー 東証P
ローランドディー.ジー. 東証P
スノーピーク 東証P
アウトソーシング 東証P
5月 エスライングループ本社 東証S 進行中
日本ハウズイング 東証S
6月 永谷園ホールディングス 東証P

文:M&A Online

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