災害時&過疎地の新ヒーロー? 「移動ATM車」をご存じか

移動ATM車の役割と魅力

移動銀行窓口車(ATM搭載車)(画像:北村製作所)

移動銀行窓口車(ATM搭載車)(画像:北村製作所)

 近年、移動ATM車の活躍が注目されている。移動ATM車は、特定の場所に固定されず、需要の高い場所や災害時に現金を提供するための車両だ。これにより、地域社会で重要な役割を果たしている。特に、高齢者や障がい者など、銀行までの移動が困難な人々にとって、移動ATM車は大きな助けとなっている。

 また、地方の過疎地や銀行の支店が少ない地域でも、現金の引き出しや振り込みなどの基本的な金融サービスを提供し、地域の経済活動を支える役割を担っている。

 移動ATM車は、防犯対策も万全で、最新のセキュリティー技術を搭載しているため、利用者は安心してサービスを利用できる。定期的にメンテナンスも行われ、常に最良の状態で運用されている。

 さらに、移動ATM車は地域のイベントや祭り、災害時など、特定の期間や場所で需要が高まる場面でも活躍している。

 例えば、オリックス自動車は、災害時や過疎地域での金融サービス提供を目的とした移動金融車「スマイル相談車」を開発し、岡山県の吉備信用金庫と連携して実際に稼働している。この移動金融車は、2018年の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)の際にもATMや年金受け取りなどの金融業務を提供した。

 このように、災害時にも迅速に現金を提供できる点が評価されており、移動ATM車の利便性はますます注目されている。この記事では、移動ATM車の魅力と課題についてさらに掘り下げていく。

移動ATM車の多機能性

ATMや簡易的な金融窓口機能を設けた移動店舗車(画像:ALSOK)

ATMや簡易的な金融窓口機能を設けた移動店舗車(画像:ALSOK)

 移動ATM車は、単なる現金引き出しの手段にとどまらず、多機能を備えた移動型金融サービスとして重要な役割を果たしている。一般的なATM機能に加え、振り込みや残高照会、通帳記帳など、さまざまな金融取引を行うことができ、地域の金融機関へのアクセスが難しい人々にとって、非常に便利なサービスとなっている。

 例えば、JAでは、移動ATM車の基本的な金融サービス機能に加えて、物品販売やローン相談なども行えるようになっている。

 移動ATM車は、通常のATMと比べて柔軟に活用できるのが特徴で、地域ごとのニーズに応じて運行ルートや設置場所を調整することができるため、地域密着型のサービスが提供されている。

 また、バリアフリー設計が施されており、高齢者や身体が不自由な人たちも安心して利用できるようになっている。このような配慮により、幅広い層のユーザーが気軽に利用できる環境が整っている。

 さらに、防犯面にも配慮されており、衛星利用測位システム(GPS)による位置確認機能や監視カメラが搭載されているため、運行中の安全性が確保されている。加えて、運転手と金融機関のスタッフが同行することもあり、利用者は安心して金融サービスを受けることができる。

 このように、移動ATM車はその多機能性によって金融サービスの提供範囲を広げ、災害や金融インフラが不足している地域で重要な役割を果たしている。今後、移動ATM車の需要はさらに拡大していくことが期待される。

移動ATM車の運営上の課題

移動銀行窓口車(ATM搭載車)(画像:北村製作所)

移動銀行窓口車(ATM搭載車)(画像:北村製作所)

 移動ATM車の運営にはいくつかの課題もある。まず、通信手段の確保が難しい点が挙げられる。特に山間部や離島など、通信環境が整っていない地域では、安定した通信を確保するのが困難だ。衛星通信を利用する場合、高額な通信コストが発生し、運営費用が増加する。

 また、現金を扱うため、盗難や強盗のリスクが高く、厳重なセキュリティー対策が必要だ。警備会社と連携し、運行中や停車中の安全を確保する必要があるが、これも運営コストを押し上げる要因となる。

 さらに、運営には人員の確保も重要だ。運転手や現金管理担当者など、専門的な知識と技能を持つ人材が必要で、これにともなう人件費も無視できない。また、運行スケジュールやルート管理も複雑で、効率的な運営が求められる。運行管理システムやリアルタイムでのデータ分析が必要となり、これもコスト増加の原因となる。

 加えて、利用者数が限られる場合、運営の採算が取れない可能性がある。ATMが少ない地方では需要が見込まれるが、固定店舗のATMが多く存在する都市部では、移動ATM車の需要が低くなることが考えられる。そのため、移動ATM車の運営は特定の条件に依存することが多い。

移動ATM車の今後の展望と技術の進化

移動ATM車両派遣サービス(画像:セブン銀行)

移動ATM車両派遣サービス(画像:セブン銀行)

 移動ATM車には課題もあるが、技術は進化し続けており、今後さらに多機能化が進むと期待されている。

 そのなかでも、自動運転技術の導入が大きな転換点となる可能性がある。沖電気工業(OKI)が開発した小型ATMは、一般車両に搭載できる設計になっており、将来的には自動運転車両との統合が期待されている。自動運転技術を活用すれば、人手不足の解消や24時間稼働が可能になり、サービスの拡大にもつながるかもしれない。

 ATMを搭載した車両のセキュリティー確保も重要な課題だが、最近ではAmazon GOのような無人店舗で使われるセンサー技術が応用され、不審者の検知や防犯システムの強化が進んでいる。また、セブン銀行では、東京と大阪の2拠点で勘定系システムを運用し、BCP(事業継続計画)の高度化と24時間365日の無停止運転の実現を目指している。

 さらに、移動ATM車は単なる現金の入出金にとどまらず、さまざまなサービスを提供する方向に進化している。例えば、AIG損害保険は、セブン銀行のATMで個人火災保険の一部保険金を受け取るサービスを始めた。今後は、各種行政サービスや身分証明書の発行など、さらに多様な機能を搭載することで利便性の向上が期待されている。

 東日本大震災の経験を踏まえ、衛星通信技術やバッテリー技術の進化により、今後はより長時間の稼働や通信障害に強い設計が実現されると予想される。

 また、移動ATM車の市場規模は今後拡大する見込みだ。JA農中総研によると、数年内に全国の金融機関の店舗数が約1000店舗減少すると予想されている。この背景には、人口減少やスマートフォンなどによるネット決済の普及、長期にわたる低金利による収益悪化があり、店舗の統廃合が進むためだ。

 移動ATM車の普及には、運用コストの削減や現金輸送時のセキュリティー確保、さらには将来的なキャッシュレス社会への対応といった課題がある。しかし、災害時や特殊なイベント時には現金需要が依然として高く、移動ATM車の役割は今後ますます重要になっていくだろう。

 今後は、自動運転技術やIoTを活用した次世代の移動ATM車が、必要な場所に迅速に移動し、多様なサービスを提供する形で実現するのではないかと期待される。

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