「自動駐車」システムが、日本の都市部で普及しない根本理由! 技術・空間・安全性の壁を考える

進化する駐車技術

駐車場(画像:写真AC)

駐車場(画像:写真AC)

 近年、「自動バレーパーキングシステム」が注目を集めている。自動バレーパーキングシステムとは、駐車場で車を自動的に駐車する技術だ。ドライバーが駐車場の入り口で車を降りると、車が自動で指定された駐車スペースに停められ、後で車を取りに行くと、車が自動で指定した場所まで移動してくる仕組みになっている。

 自動ではないバレーパーキング自体は、もともとホテルやレストランなどで従業員が車を駐車するサービスだった。しかし、1990年代から自動化の試みが始まり、2000年代に入ると、自動運転技術の進展とともに具体化が進んだ。2010年代には、ダイムラー、ボッシュ、日立、デンソーなどの企業がこのシステムの開発に取り組んだ。

 2013(平成25)年には、東京で開催された「ITS世界会議」でホンダがデモンストレーションを行い、2017年にはボッシュとダイムラーが共同開発したシステムをドイツのメルセデス・ベンツ博物館で公開した。

 日本でも、2018年にデンソーが三井不動産リアルティと協力し、「三井のリパーク」駐車場で技術の検証を進めた。そして2023年には、日本とドイツが共同開発した自動バレーパーキングシステムが国際標準として認められた。

拡大する世界市場

 このシステムは、都市部での駐車スペース不足を解消する効率的な方法であるとともに、駐車の手間を省き、時間を節約できる点でも評価されている。また、

・駐車場運営コストの削減
・駐車スペースを効率的に活用

できるため、経済的なメリットも期待されている。例えば、駐車場のスペースを最大限に活用することで、より多くの車を収容できるようになる。また、駐車場の運営にかかる人件費や管理費を削減できるため、経済効果も大きい。

 グローバルインフォメーションの調査によると、世界の自動バレーパーキングシステム市場は2024年には11億8000万ドルに達し、年平均成長率は15.60%で、2030年には

「28億2000万ドル(約4340億円)」

に達する予測だ。

 しかし、都市部を中心に、日本における自動バレーパーキングシステムの普及が思うように進んでいない。その原因について、本稿で詳しく解説していきたい。

日本の都市部における課題

自動バレーパーキングのイメージ画像(画像:デンソー社)

自動バレーパーキングのイメージ画像(画像:デンソー社)

 自動バレーパーキングシステムが普及しない原因のひとつは、

「駐車場のスペースが非常に限られている」

ことだ。日本の都市部では駐車場が狭いことが多く、このため、自動バレーパーキングのようなサービスを提供するためのスペースを確保するのが難しい。特に都心部の駐車場は高層ビルや商業施設に囲まれており、駐車スペースを拡張するのが難しい状況だ。

 また、駐車場の設計が古いため、最新の技術を導入するために改修が必要となることも多い。多くの駐車場は、建設当時の技術や設計基準に基づいており、これに自動バレーパーキングシステムを導入するには大規模な改修が必要になる。

 こうした改修には多額の費用がかかるため、導入が難しくなる。特に古い建物や施設では構造的な制約が多く、改修がさらに困難になる場合がある。

 さらに、都市部では土地の価格が高いため、駐車場のスペースを確保するのが難しいという問題もある。加えて、技術的な課題もある。自動バレーパーキングシステムは高度なセンサー技術やAIを使って車両を自動的に駐車するが、都市部の複雑な交通環境や予測不可能な状況に対応するには、さらなる技術の進化が必要だ。特に

・狭いスペースでの正確な駐車や
・他の車両や歩行者との安全な共存

を実現する必要があり、この点が普及を妨げる大きな要因となっている。

プライバシーと安全性への懸念

自動バレーパーキングシステムの機能実証実験の様子(画像:日本自動車研究所)

自動バレーパーキングシステムの機能実証実験の様子(画像:日本自動車研究所)

 自動バレーパーキングシステムには、安全性に対する懸念もある。

 このシステムではセンサーやAIを使って車を駐車するが、万が一故障や誤作動が起きた場合、車両の損傷や事故が発生するリスクがある。そのため、システムの信頼性や安全性への不安が、普及を妨げている。

 さらに、プライバシーの問題も重要な課題だ。自動バレーパーキングシステムは、車両の位置情報や運転履歴などのデータを収集することが多い。このデータが適切に管理されない場合、個人情報の漏洩や不正利用のリスクが生じる。特に、サイバー攻撃によるデータの盗難や改ざんが懸念されており、利用者のプライバシーを守るための対策が求められている。

 このように、さまざまな視点から懸念や課題があり、自動バレーパーキングシステムを簡単に導入するのは難しい面がある。

技術の進化と今後の展望

車両搬送ロボット(画像:三菱重工)

車両搬送ロボット(画像:三菱重工)

 これほど多くの課題があると、自動バレーパーキングシステムの普及は難しいように思えるが、今後、センサー技術やAIがさらに進化すれば、システムの精度や安全性が向上する可能性が高い。

 例えば、現在開発中の最新のセンサー技術が実用化されれば、車両の位置をより正確に把握でき、安全に駐車できるようになる。また、AIの自動学習能力が向上すれば、駐車がより迅速かつ正確に行えるようになるだろう。

 実際、2019年にはパナソニック株式会社オートモーティブが自動バレーパーキングシステムの開発を発表した。このシステムは、「無人運転レベル4(高度運転自動化)」の実用化を前提としており、日本とドイツが共同開発した国際標準が発行されたことを受け、実用化は近い未来に実現しそうだ。

 海外では、2023年にボッシュがドイツの大手駐車場運営会社アプコアと提携し、ドイツ・シュトゥットガルト空港をはじめ、ドイツ各地の駐車場でドライバーレスパーキングシステムの導入が始まった。この流れが日本にも波及するのは時間の問題だろう。

 ショッピングモールやテーマパークの駐車場での利用はもちろん、

・自動車メーカーの工場
・モータープール
・港湾

などでは、「完成車自動搬送」の形で大きな活躍が期待できる自動バレーパーキングシステム。技術の進化や政府の支援を受けて、今後の普及が進むことを期待したい。

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