「富士山登山鉄道」断念、でも代わりは“トラム”なの!? 後継には「電動連節バス」しかない3つの理由
5合目への新交通手段
富士山を訪れる観光客が増えており、日本人だけでなく海外からの旅行者にも人気が高い。そのため、富士山への公共交通機関の整備が重要な課題となっている。
山梨県の長崎幸太郎知事が提案した「富士山登山鉄道構想」には注目が集まった。この計画は、富士スバルラインを軌道化し、次世代型路面電車(LRT)で富士山5合目までつなげるというものだった。しかし、
・環境破壊
・高額投資
が問題視され、地元から強い反対を受けて構想は撤回された。その後、代替案としてゴムタイヤを使った新しい交通システム
「富士トラム(仮称)」
が提案された。しかし、筆者(北條慶太、交通経済ライター)はさらに現実的で経済合理的な解決策として、
「電動連節バス」
の導入が最適だと考えている。
LRT方式の問題
富士山登山鉄道構想の最大の問題点は、前述のとおり、環境破壊と高額投資である。2020年12月に開かれた検討会の第5回理事会では、
・事業費:約1400億円
・運賃収入:年間約300億円(往復ひとり1万円、年間300万人の利用を想定)
との試算が公表された。しかし、LRTの維持管理費に関するシミュレーションが不十分だとの指摘が、構想検討会の理事や公共交通の専門家から続いていた。
特に、都市内輸送とは異なり、過酷な富士山エリアで運行するため、次のような維持管理費が大きな負担になると考えられる。
・路面のコンディション
・レールや分岐器などの設備
・停留所
・信号設備
・情報通信環境
・車両や車庫の施設
これに加えて、人件費も高額になる。理事会では開業初年度から黒字を見込んでいるとされていたが、専門家やメディアはその試算に疑問を呈し、さらに詳細なシミュレーションが必要だと指摘された。
そもそも鉄道系の公共交通では、収益が悪化すれば路線バスに転換するのが一般的な手法だ。LRTでも、鉄道や架線の維持にかかる費用は、路線バスよりも高くなるのは明らかだ。LRTの地上設備や車両の保守管理費は
「営業費用全体の約30%」
を占めるとされており、その点でも採算性に疑問が残る。運賃収入の70%近くが人件費に回る財務構造を考えると、LRTで黒字を出すのは非常に難しい。
例えば、宇都宮市のLRTでは、開業時に17編成の車両が用意され、その価格は3両編成で約4億4000万円であった。しかし、富士山のような過酷な条件で走る場合、車両の入れ替えにはさらに高額な費用がかかることは明白である。
LRT方式で総額1400億円以上のコストが予想され、鉄道敷設が自然環境に与える影響も懸念された。さらに、地元住民との合意形成が不十分で、反対の声が強まっていった。結局、LRT方式は経済的にも環境的にも持続可能な方法とはいえず、懸念が増す結果となった。
富士トラムの課題と限界
富士スバルラインに代わる交通手段・富士トラムは、比較的低コストで導入できることから注目されている。磁気マーカーや白線に沿って走行する車両を使用し、LRTのような高額な鉄道設備を必要としないため、コスト面で大きな利点がある。
しかし、この選択肢にも限界がある。
「輸送能力」
はLRTに比べて低くなるのは避けられない。また、動力源として水素の活用が想定されているが、燃料電池方式はコストが高く、輸送力の面でも
「混雑時に影響を受けやすい」
というデメリットがある。編成を増やすという意見もあるが、専用車両が必要となり、製作費が高くなることは避けられない。LRTと水素トラムのデメリットを考慮すると、冒頭で書いたように、最も合理的な解決策は
「電動連節バス」
の導入だろう。これには
・初期投資とランニングコストの低さ
・環境への配慮
・柔軟性と高い運行効率
というメリットがあり、さらに日本から新技術を発信するよい機会になると考えている。
三つのメリット
前述の
・初期投資とランニングコストの低さ
・環境への配慮
・柔軟性と高い運行効率
について、ひとつつ説明していこう。
●初期投資とランニングコストの低さ
電動連節バスは、架線や線路といった大規模なインフラ投資が必要ない。そのため、初期投資やインフラ整備のコストを大幅に削減できるのが大きな魅力だ。既存の道路をそのまま使える点も優れている。例えば、日野自動車が製造する国産ハイブリッド連節バスは1台8800万円(税抜き、113人乗り)で、完全電動化に向けてあと一歩の段階にある。電動車とエンジン車の価格比を
「1.5:1」
と見積もれば、電動連節バスを約1.3億円で開発すれば勝算がある。さらに、電動化すれば自動運転との相性もよくなり、将来的には無人運転の実現も期待できる。
●環境への配慮
電動連節バスはCO2を排出しない、環境に優しい移動手段だ。架線や線路の設置によるCO2排出も避けられるため、LRTのような鉄道システムより環境負荷が格段に低い。また、電動バスは排ガスや騒音が発生しないため、
「建物のなかにも直接乗り入れる」
ことが可能だ。この特長を生かせば、鉄道駅構内までアクセスできるような仕組みを整えられ、乗り換えの手間を減らす効果も期待できる。
●柔軟性と高い運行効率
電動連節バスは路線変更や交通量の変化に柔軟に対応できる。観光シーズンや混雑時でも効率的に運行でき、富士登山鉄道の駅から富士五湖方面の観光地へアクセスする便にも活用できる。
また、富士スバルライン以外の路線でも、環境に配慮した乗り物としてアピールできる。さらに、ゴムタイヤで走行するため道路上の障がい物に強く、運行の柔軟性が非常に高い点も大きな利点だ。
観光と生活をつなぐ新たな移動手段
富士トラムや電動連節バスの導入は、
・観光交通
・生活交通
をつなげる重要な手段となる。富士山には多くの観光客が訪れる一方で、地元住民の移動ニーズにも対応しなければならない。富士吉田市はLRTに反対する声があったが、ここにも多くの生活者が暮らしている。電動連節バスは観光客と地元住民の両方に対応できる移動手段であり、
・観光バス
・通勤バス
・生活バス
として柔軟に運行できる。そのため、地域のニーズに合わせた輸送サービスを提供することが可能になる。
また、電動連節バスは多様なルートで運行できるため、観光客の数を調整することができ、混雑を分散させる役割を果たす。これにより、観光地での混雑を緩和し、快適な移動環境を提供できる。
さらに、このバスは環境に優れ、運行コストも低いため、地域経済への貢献が期待されている。観光業と地元住民の生活交通を両立させる移動手段として、地域全体の経済循環を促進する力を持っている。
持続可能なモビリティの新常識
電動連節バスは環境に優しく、観光交通の効率化を進めるため、富士山周辺での成功事例が他の観光地にも広がる可能性が期待される。この新しい交通システムが観光地における
「持続可能なモビリティ」
の新たなスタンダードとなることが望まれる。地域住民や観光客に便利で快適な移動手段を提供し、観光業の成長と地域活性化の両立を目指す地域にとって、理想的な公共交通改革の方法となるだろう。
また、国産のハイブリッド連節バスも市場に登場し、完全電動化への期待も高まっている。日本は鉄道製造技術だけでなく、蓄電池車両技術も進化しており、
「鉄道とバスの異文化交流」
を実現することで、魅力的な電動連節バスを作り出し、世界にアピールすることが日本の技術を早期に示すために効果的である。
富士山周辺の交通問題解決のカギ
富士山登山鉄道構想の断念と富士トラムの代替案は、既存のインフラと技術的選択肢を最大限に活用するための重要なステップだった。
しかし、最も経済的で環境にも優れた解決策は電動連節バスの導入だろう。
これにより、生活輸送も含め、富士山周辺の公共交通問題は柔軟に解決できる。
持続可能な観光と地域経済の発展を両立させることが可能なのだ。
11/23 06:11
Merkmal