昭和ノスタルジーだけじゃない! 「ドライブイン」がサービスエリアのフードコートを凌駕する根本理由
フードコートに潜む限界
一般道にあるドライブインと、高速道路のサービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)のフードコート(FC)は、どちらも道路利用者に食事を提供する場所だ。しかし、その性質は大きく異なる。
現在、主流となっているのはFCだ。2000年代以降、
・店舗の多様化
・施設の近代化
・サービスの充実
が進み、例えば東名高速道路の海老名SAのように、訪れること自体が目的となる施設も登場している。
しかし、FCがどんなに進化しても、ドライブインが持つ
「本質的な強み」
には敵わないと筆者は考えている。本稿では、その理由を探っていく。
「昭和の遺物」ではない実力
ドライブインの数の明確な統計はないが、全国で
「200店舗程度」
ではないかと考えられており、言葉自体が、すでにレトロな印象を与えている。
例えば、2024年5月に建て替えのため休業した岡山県戸内市のおさふねSA(1964年開業)は、日本で2番目に古いドライブインとして知られている。『山陽新聞』2024年4月16日付け朝刊の記事には、「駄菓子屋、古本屋、銭湯…。どことなく昭和の薫りが漂う場所である。ここにドライブインを加えても異論はあるまい」とある。
とはいえ、ドライブインが“昭和の遺物”かといえば、そんなことはない。現に、おさふねSAも閉店ではなく建て替えだ。営業再開は2026年予定とされている。
このように、昭和の遺物のように見えても、ドライブインの多くは独自の強みを持ち、確固たる地位を築いているのが現実だ。減少しているからといって衰退しているわけではなく、むしろ淘汰され、残った店舗が本質的価値を持っているのではないか。
2005年以降進化したFCの実力
一方、FCは、特に2005(平成17)年の道路公団民営化を契機に大きく進化した。かつてのSAやPAは、
・トイレが汚れ
・食堂は薄暗く
・食事も値段の割に特別なものはない
のが普通だった。
現在のようなFCが本格的に普及し始めたのは、民営化後のことだ。民営化された高速道路会社では、ハイウェイポスト(意見箱)やコールセンターに寄せられた意見や要望をもとに、施設の充実を進めてきた。その結果、トイレとともに大幅に改善されたのが食堂であり、FCという形態が登場した。実際、FCという言葉が高速道路で使われるようになったのも民営化後である。
明るく快適になったFCでは、地域の名産を活かしたメニューやご当地料理が登場し、全国各地で人気のSAが生まれるきっかけとなった。かつての暗くて不便な施設は、快適な飲食・休憩空間へと生まれ変わり、運転途中のくつろぎの場となった。広い駐車スペースや、複数のサービスを提供する施設など、利便性の向上は目覚ましい。
しかし、それでもFCはドライブインの強みを超えることはできないと筆者は考えている。
FCの効率重視、味の制約
いくつかの重要な点について考えてみよう。
まず、提供される食事の質の違いに注目したい。FCでは、基本的にファーストフードや定食など、
「限られたメニュー」
しか提供されていない。確かに最近ではご当地メニューを取り入れる試みも増えてきているが、それでも本質的な差は依然として存在している。なぜなら、これは単に
「メニューの種類が少ないという問題」
ではないからだ。FCでは効率性が重視され、調理はマニュアル化されている。そのため、ご当地メニューを提供しても、最終的には
・画一的な調理法
・長期保存を考慮した食材選定
に制約されてしまう。
一方、ドライブインでは、小規模であるがゆえに、個性が光る。地元の生産者から新鮮な食材を調達し、その日の状態に応じて臨機応変に調理するため、
・味そのもの
・体験
の両面で優れた価値を提供している。このように、FCがどれだけ品数を増やしても、ドライブインが持つ本質的な強みには及ばないのだ。
「旅の一部」であるドライブイン
次に、
・居心地のよさ
・雰囲気の違い
に注目しよう。ドライブインでは、移動の途中であっても、ドライバーや乗客がゆっくりと落ち着ける空間を提供している。
渓流沿いのテラス席や、水平線を望む窓際の特等席など、その土地ならではの景観を生かした開放的な空間が広がり、リラックスできる雰囲気を作り出している。また、車を停めて直接入ることができる気軽さもあり、忙しい移動の合間に
「旅の一部」
として楽しめる魅力がある。
これに対し、FCはどれだけ改装しても、
・混雑時の席の譲り合い
・他の利用者の出入りが頻繁であること
を意識せざるを得ず、リラックスできる空間としては限界がある。そのため、休憩のためのスペースとしては機能していても、本当の意味での居心地のよさには欠ける。
結局、移動途中の休憩という同じ目的であっても、その空間の質において、FCはドライブインが提供するくつろぎの価値には届かないのだ。
コスト重視!FCが提供する価値
第三の重要な点は、「地域との結びつきの深さ」だ。
ドライブインは、個人経営の店舗として地域に根ざしているため、地域の食文化を自然に反映している。たとえメニューがシンプルでも、地元の常連客との日々の交流を通じて得られる情報は、観光客にとっても貴重な価値となる。
これに対して、FCは全国チェーンが多く、標準化された食材と調理法に縛られている。近年は地域の特産品を取り入れたメニューも見られるが、それはあくまで
「企画商品」
に過ぎない。どこに行っても似たようなメニューが並び、地域色が感じにくいのは、地域との深いつながりが欠けているからだ。つまり、ドライブインは個人経営ならではの地域の魅力を感じる場所として機能しており、この点でFCには追いつけない。
しかし、FCにもドライブインにはない独自の強みがある。
まず、高速道路利用者にとって圧倒的な利便性が挙げられる。高速道路を降りることなく、すぐにアクセスできる立地は、長距離運転のドライバーにとって非常に魅力的だ。また、豊富な駐車スペースがあり、時間がない場合や長時間の滞在を避けたいときにも最適な選択肢となる。
次に、コストパフォーマンスのよさがある。ファーストフードやセットメニューを中心に、ドライブインよりも手頃な価格で提供されており、特に家族連れや団体客など、コストを重視する利用者から支持を集めている。
さらに、複数の機能を1か所に集めている点も優れた特徴だ。食事スペースに加えて、休憩所やコンビニ、ショップなども揃っており、ドライブ中のさまざまなニーズを一度の立ち寄りで満たすことができるため、効率的な休憩が可能だ。これらの強みは、特に
・長距離を移動するドライバー
・効率的な休憩を重視するドライバー
のニーズに応え、FCならではの価値となっている。
これらの強みが現代のドライバーの特定のニーズには応えているものの、それでもドライブインの強みには及ばないのではないか。その証拠として、新たに展開される意欲的なドライブインの事例を見てみよう。
地域資源活用で生まれた新価値
ドライブインは、それぞれの立地や特徴を活かして独自の価値を生み出している。
例えば、千葉県君津市の猟師工房ドライブインは、地域の獣害対策から生まれたジビエを活用し、地元食材と確かな技術で本物の味を提供している。このドライブインは、道の駅ふれあいパーク・きみつの片倉ダム記念館内にあり、地域の課題を観光資源として活用する新しい価値を生み出している。
また、静岡市の梅ケ島ドライブインは、土地ならではの景観や温泉を活かした空間づくりをしており、訪れる人々に居心地のよい時間を提供している。
さらに、群馬県みどり市の草木ドライブインも注目すべき事例だ。1976(昭和51)年に草木ダムの完成とともに開業し、2005(平成17)年にリニューアルされたこの施設は、道の駅「富弘美術館」と一体化しており、ドライブインが道の駅の売店や食堂を担う形態をとっている。
このような公営と民営が共同で道の駅を運営する事例は珍しく、登録当初は全国初だった。美術館と連携した文化的価値に加え、店内で作られるよもぎまんじゅうなど地域の名産品を提供しながら、草木湖の絶景を望む立地を活かして観光客に憩いの場を提供している。
これらの事例は、規格化されたFCでは再現できない、ドライブインならではの価値創造の可能性を示している。その土地の自然や文化、地域の課題を観光資源として活用する創造性こそ、ドライブインの本質的な強みといえるだろう。
後に、あなたはドライブイン派か、それともFC派か。「比較できない」「目的が違う」などと無難な返事はなしにして、このテーマについて個人的な意見を聞かせてもらいたい。もちろん、この記事もあくまで筆者の個人的な見解にすぎない。
11/17 09:11
Merkmal