「車内で嘔吐」“忘年会シーズン”にタクシードライバーを悩ませるカスハラ問題! 進む対策、悪質客はもう乗れなくなる?

条例施行で変革の兆し

タクシー(画像:写真AC)

タクシー(画像:写真AC)

 カスタマーハラスメント(カスハラ)は、サービス提供者に対して過度な要求や不当な行為をすることを指す。この問題は特にサービス業界で注目されていて、東京都でもカスハラ防止条例が施行されるなど、対応が進んでいる。

 多くの企業がこの問題に直面し、対策を強化しているが、

「タクシー業界」

も例外ではない。ドライバーが乗客と直接接することで、

・暴言
・暴力
・料金支払いのトラブル

など、他のサービス業とは異なる独自の課題が浮かび上がっており、業界全体でどのように対応していくかが注目されている。

タクシー業界でのカスハラ事例

日の丸交通が2024年9月1日に発表した「嘔吐等による営業損害の請求について」(画像:日の丸交通)

日の丸交通が2024年9月1日に発表した「嘔吐等による営業損害の請求について」(画像:日の丸交通)

 タクシーに乗り込んで最初に

「取りあえず行って」
「まっすぐ」

とだけいう乗客や、ルートを確認しても「まかせる」といいながら、実際に走り始めると「何でそのルートなんだ」と怒り出す乗客への対応に苦しんでいる。さらに、「道を間違えた」「道路が混んでいた」といったいいがかりをつけて、

・料金を減額させたりする
・支払いを拒んだりする

乗客もいる。

 これはあくまで筆者(二階堂運人、物流ライター。現役タクシードライバー)の考えだが、“勝ち組”の傲慢(ごうまん)さや、処理しきれないストレスが原因かもしれない。

・富裕層が住む地域(特に高層マンション)
・深夜帯

では、カスハラ客に遭遇する確率が高い。

 最も困るのが泥酔客だ。カスハラの半分以上は泥酔客によるもので、会話が成立しないことが多く、理性を失っていることがほとんどだ。メディアでも泥酔客がドライバーに暴行を加えた記事をよく見かけるだろう。

 そして、12月中旬の忘年会シーズンに特に遭遇するのが「嘔吐(おうと)」だ。これまではタクシードライバーが泣き寝入りすることが多かったが、日の丸交通(東京都文京区)では車内で嘔吐した乗客に対して、清掃費用と営業損失分として

「2万円」

を請求することになった。他のタクシー会社も同様の対応を検討し始めているかもしれない。酔っ払ってタクシーで帰ろうと安易に考えるのではなく、酔いをさましてから乗る方が賢明だろう。余分な出費を抑えるためにも、気をつけてほしい。

業界が実践する予防策

タクシー(画像:写真AC)

タクシー(画像:写真AC)

 タクシー業界最大手の日本交通(東京都千代田区)は、カスハラに対する以下のガイドラインを示している(「カスタマーハラスメントへの対応に関する基本方針」から一部抜粋)。

●要求「内容」が不当な例
・高額な慰謝料や迷惑料の要求
・正当理由のない返金要求、代替輸送要求
・責任者(社長、所長)や上長による謝罪の要求
・土下座の要求

●要求「手段・態様」が不当なものの例
・怒鳴る、乱暴な口調
・脅迫的言動、暴力的言動
・長時間の電話、連日の電話
・車両や会社への長時間の居座り
・「役所やマスコミに通報する」との主張
・「写真や動画をインターネットに載せる」との主張
・安全運行を妨害する行為

 タクシー業界では、カスハラ対策として、これまで乗務員証に記載されていたドライバーの顔写真や氏名を削除し、会社名のみを表示するように変更した。これは、SNSなどでドライバーへの誹謗(ひぼう)中傷を避けるための対策である。また、教育や指導として以下の対応を行っている。

・私語をなるべく控える
・乗客と同じ目線で話さない
・目的地までのルートを事前に確認する

これらの対応を通じて、トラブルを未然に防ごうとしている。

正当拒否で守るドライバーの安全

タクシー(画像:写真AC)

タクシー(画像:写真AC)

 タクシーは、基本的に正当な理由がない限り、顧客の乗車を拒否することはできない。これは、道路運送法第13条に「一般旅客自動車運送事業者に該当するタクシーは、運送の引受けを拒絶してはならない」と定められているためだ。

 しかし、同法第13条では、天災などのやむを得ない場合(第5項)や、法令や認可された業務に反する行動を求められた場合(第4項)には乗車拒否が認められている。また、同法第6項では「国土交通省令で定める正当な事由がある時は、運送の引受けを拒否できる」とも記載されている。では、正当な事由とはどのような場合か、国土交通省令では以下のように記載している。

・乗客が法令、公序良俗に反する行為をはたらき、制止に従わない
・乗客が危険物を携帯している
・泥酔者、あるいは不潔な服装をしており、ほかの乗客に迷惑がかかることが予想される
・付添人が伴っていない重病者である
・感染症に罹患している所見がある

 これに加え、カスハラ客に対して乗車拒否を認めるという条項を約款に追加するタクシー会社も増えている。

タクシー事故を防ぐ言葉の使い方

タクシー(画像:写真AC)

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 しかし、自分では気づかないうちに、カスハラに該当する行為をしてしまうことがあるかもしれない。例えば、軽い冗談や命令口調の言葉が、年齢や性別によってドライバーにストレスを与えることがある。

 また、乗車してすぐに「○○まで急いで」「○○時までに着きたいから飛ばして」「取りあえずまっすぐ行って」といった指示を出す乗客もいるが、

「急いで」
「飛ばして」
「取りあえず」
「まっすぐ」

これらの言葉はドライバーにとって緊張や不安を引き起こし、ストレスとなることがある。タクシーに乗る理由として、急いでいるからという場合が多いだろうが、その急いでいる乗客自身が知らず知らずに高圧的な態度や命令口調になり、その結果、ドライバーが動揺して事故を誘発する原因となることがある。その言葉で自分の安全も脅かされる可能性があるのだ。

 では、どうすればよいのか。

・曖昧な言葉を避ける
・目的地を明確に伝える

ことが大切だ。急いでいるのであれば、

「道路交通法を守って」
「安全を優先して」
「できるだけでいい」

という言葉を添えるとよいだろう。ドライバーも人間なので、誠意を持って対応してくれるだろう。自分も相手も気持ちよく目的地に到達するためにはどうすればよいかを考えてみよう。

「ビジネスとしても生かせるこの課題」

を、タクシー車内で実際に試してみるのはどうだろうか。

悪質客はタクシーに乗れなくなる時代

タクシー(画像:写真AC)

タクシー(画像:写真AC)

 タクシー業界では、カスハラ客に対して毅然(きぜん)とした対応を取るようになっているが、カスハラ客を認定する基準はまだ曖昧な部分がある。今後は、カスハラ客と認定するための明確な基準が必要だろう。

 現在、多くの配車アプリでは、乗客からしかドライバーを評価できないが、ウーバーではドライバーが乗客を評価できるシステムがある。このシステムでは、評価が悪い乗客にはマッチング率が低くなるなどのペナルティーが課せられる。

 今後、他の配車アプリでも同様のシステムが導入される可能性があり、カスハラ客と認定されると、マッチング率の低下や、ひどいカスハラ客の場合は

「タクシーに乗れなくなる」

こともあるだろう。

 カスハラ問題はタクシー業界だけでなく、社会全体で解決すべき課題だ。業界全体として、さらに強化されたカスハラ対策や、乗客とドライバーが安心してサービスを利用できる環境づくりが求められる。相手への配慮を持った行動を心掛けることで、業界全体の改善に貢献できることを伝えたい。

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