BMWとNTTデータ、1000人規模のITハブ構築へ! 場所はなんと「ルーマニア」 いったいなぜなのか?

BMWとNTTデータが子会社設立

BMWのロゴ(画像:Pexels)

BMWのロゴ(画像:Pexels)

 ドイツの自動車メーカーBMWとNTTデータが、2024年9月にルーマニアの都市「クルージュ=ナポカ」に子会社を設立した。異色の組み合わせのように思えるが、ルーマニアの子会社設立はBMWのITハブ戦略のひとつだ。

 出資比率は50:50で、ITやソフトの国際ネットワークのハブとして機能する。2024年は約250人のソフトウエアエンジニアでスタートするが、2027年までには1000人以上の体制を目指している。

 ちなみに、クルージュ=ナポカは、日本ではあまり耳にすることのない都市であるが、ルーマニアの北西にあるクルージュ県の人口約32万人の県都で、首都ブカレスト、ヤシに次ぐ第3の都市である。

 また、大学都市としても有名で、古くから文化・教育・研究の領域で中心的な役割を担ってきた。今では

「ルーマニアのシリコンバレー」

とも評されるとともに、数多くの人材を輩出している。実は、NTTデータ・ルーマニアの本拠地でもあり、BMWとNTTデータがITハブを設立する土壌が整っていた。

世界に広がるBMWのITハブ

クルージュ=ナポカ(画像:Pexels)

クルージュ=ナポカ(画像:Pexels)

 BMWは、

・ドイツ
・ポルトガル
・南アフリカ
・中国

など、戦略的に重要なポイントにITハブを設置している。グループおよび合弁会社でソフトウエア開発に取り組んでおり、世界中で1万1000人以上も働いているともいわれている。ルーマニアの次は、インドにセンターを設置する。

 ITやAIの分野がものすごいスピードで進化している現代においては、優秀なエンジニアの確保がますます重要になっている。地域や人種にとらわれることなくエンジニアを集めるには、ITハブという考え方が有効だろう。ITやAIといった分野は、もはやひとつの国や地域に人を集めて仕事をするような時代ではない。

 世界各地のITハブが、同じテーマを24時間態勢で取り組んでいるかといえばそうではない。

 BMWは、プロセスマップ上のポートフォリオを構築・俯瞰(ふかん)したうえで、テーマを各地域のITハブに割り振っている。NTTデータと設立したルーマニアのITハブは、欧州に焦点を当てて、欧州連合(EU)をはじめ各国の法令や規制、複雑なサプライチェーン、生産、販売を包含したモジュールの構築に取り組む。

意外と長いBMWとNTTデータの関係

NTTデータのウェブサイト(画像:NTTデータ)

NTTデータのウェブサイト(画像:NTTデータ)

 BMWとNTTデータの関係は意外と長い。

 NTTデータは、2008年にBMWグループが出資していた情報システム子会社Cirquent(サークエント)の株式の約73%を取得していた。ところで、NTTデータとはいったいどのような会社だろう。

 NTTデータは、NTTを冠しているとおりNTTのグループ会社で、上場した現在においても第36期有価証券報告書によると57.7%の株式を日本電信電話株式会社(NTT)が保有している。

 NTTデータの源流は、1967(昭和42)年の日本電信電話公社データ通信本部設置にまでさかのぼる。1973年に全国銀行データ通信システム(全銀システム)を開始し、今日でも日本社会にとって重要なインフラを担っている。1985年の日本電信電話公社の民営化によりデータ通信事業本部へ改組されたものの、1988年にNTTデータ通信株式会社を発足させ事業を受け継いだ。今では、世界中に

「50か国以上」

の開発拠点を設け、従業員数も約19万5000人とグローバルに展開しており、2023年度の実績では売上高3兆4902億円と、34期連続増収を達成している。日本電信電話公社のIT関連の一部門がここまで大きくなるとは、1967年に誕生した時点でだれが想像できたであろうか。

 ITの進化と社会の要請により、NTTデータの事業領域が時を追うごとに拡大している。2020年3月には、親会社のNTTがトヨタと約2000億円に相当する株式を持ち合う資本業務提携を行った。

 この業務提携の一環として、ららぽーとTOKYO-BAY駐車場および周辺道路の混雑状況をユーザーに提供する実証実験を、2023年2月に行っている。トヨタがコネクテッドカーデータ(車速・燃料消費量)を提供し、NTTデータが処理、分析するという役割分担だ。

その先には自動車の商品価値の創造

CASEのイメージ(画像:イラストAC)

CASEのイメージ(画像:イラストAC)

 トヨタやBMWといった巨大な自動車メーカーが、ITサービス企業と協業する背景には、自動車業界における「CASE革命」がある。CASE革命とは、

・Connected(コネクテッド)
・Autonomous,Automated(自動化)
・Shared&Service(シェアリング)
・Electrification(電動化)

の頭文字をとった造語であり、モビリティの変革を意味している。高度にIT化が進むと、既存の自動車メーカーが単独で課題を解決するのは難しいといえよう。そこで、NTTデータがグループをあげて取り組む「クロス・インダストリー(異業種連携)」が重要になってくる。

 自動車づくりやソフトウエア定義車両(SDV)開発にとどまらず、

・工場のスマートファクトリー化
・サプライチェーンマネジメント
・販売ツール
・ユーザーサービス
・事業運営

まで、取り組まなければならない課題は山ほどある。BMWが、世界各地にITハブを設けるのも納得がいく。

 自動車関連の異業種タッグでいえば、ソニー×ホンダで誕生したソニー・ホンダモビリティもそうだし、ファーウェイといった電気系のメーカーが自動車メーカーと連携して電気自動車(EV)を製造・販売する例もある。今までは自動車のOEMといえば、自動車メーカーどうしの取引が中心であったが、今後は数多くの消費者を引きつけるブランドのために自動車を製造する時代がくるかもしれない。iPhoneをはじめとしたアップルの製品群のように。

 異業種タッグは、IT化の進展とともに、自動車業界×電気業界にとどまらずさらに活性化していくだろう。そう考えると、異業種を有機的に結びつけるNTTデータの果たす役割は、ますます大きくなるといえる。

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