ロマンスカーミュージアムも危機に? 「博物館法改正」の光と影、デジタル化時代で問われる文化施設の存続とは
ロマンスカーミュージアムの魅力
10月14日は、鉄道愛好家にとって重要な記念日である「鉄道の日」だ。この日を中心に、10月、11月は鉄道に関するイベントが多く開催され、鉄道愛好家だけでなく家族連れも忙しくなる時期といえよう。
例えば、小田急のロマンスカーミュージアム(神奈川県海老名市)では、鉄道の日に3100形(NSE)の展望席を特別解放したとともに、11月18日まで鉄道の日記念プログラム「Romancecar Reborn」を開催している。NSEといえば、ロマンスカーの象徴でもある前面展望席が初めて設けられた車両だ。筆者(ネルソン三浦、フリーライター)が初めてNSEに乗ったとき、自動ドアが当たり前の時代にあって手動の内開きの乗降扉に驚きを隠せなかったが、それでも展望席に座ると、独特の風景や速度感に満足したものだった。
ロマンスカーミュージアムには、小田急線開業当時の車両のモハ1をはじめ、歴代のロマンスカーが展示してある。JRの鉄道博物館と比較すると決して大きくはないが、ロマンスカー好きや、あまり鉄道に興味がなくても気軽に楽しみたい人には、ちょうどよいサイズ感だと思う。
ちなみに、ロマンスカーミュージアムは、2024年6月に登録博物館に登録したばかりだ。あまり大きく報道されていないものの、新しい博物館制度下での鉄道会社の博物館としての登録は全国初とのことである。
意外と新しい博物館登録制度
あまりにも地味すぎて話題にするかどうか迷ったくらいだが、実は2022年4月に
「博物館法の一部を改正する法律」
が成立し、約70年ぶりに博物館法が単独改正されていた。そして、その翌年の2023年4月から新しい博物館登録制度に移行したばかりだ。
博物館法が制定された約70年前は、全国の博物館の総数は約200館しかなく、しかも、運営主体のほとんどが地方公共団体、財団法人、宗教法人だった。それが、今や約5700館に増え、運営主体も地方独立行政法人やNPO法人、あるいは民間企業など広がりをみせている。
博物館法ができてから70年の間に、博物館が乱立したといえなくもない。新しい制度では、博物館の質を担保しかつ向上させる観点も取り入れられ、登録に際しては審査基準が厳しくなった。
旧法では、専門的職員としての学芸員がいるかどうかや、博物館資料を持っているかなど外形的な要件のみであったが、資料の収集・保管・展示・調査研究の体制のほか、学芸員を含む職員の配置も審査基準となった。ちなみに、博物館法の博物館とは、科学や歴史などの博物館のほか、美術館、記念館、水族館、動物園なども含まれている。
現行法令では、
・博物館登録制度により登録された「登録博物館」
・博物館に相当する施設としてみなされる「指定施設」
・博物館登録制度外の「博物館類似施設」
に分けられる。2021年のデータでは、全国約5700館ある施設のうち
・登録博物館:約900館(16%)
・指定施設:約400館(7%)
とあまり多くはない。文化庁のウェブサイトで登録博物館・指定施設が紹介されており、どのような博物館があるのか見て回るだけでも旅をした気分になれて意外と面白い。時折マニアックな施設として取り上げられる目黒寄生虫館(目黒区)は、れっきとした登録博物館だった。
交通関連の登録博物館
ここでいくつか交通関連の博物館をめぐってみよう。
鉄道系では、
・鉄道博物館(さいたま市)
・京都鉄道博物館(京都市)
が東西の“横綱”といっていいだろう。冒頭のロマンスカーミュージアム以外では、
・地下鉄博物館(江戸川区)
・小樽総合博物館(旧小樽交通記念)
がある。ちなみに、
・碓氷峠鉄道文化村(安中市)
・リニア・鉄道館(名古屋市)
・九州鉄道記念館(北九州市)
は、比較的規模が大きいものの博物館類似施設である。これら以外にも、全国には大小さまざまな鉄道関連の施設や記念館があり、数え上げればきりがない。そのくらい、地域と鉄道は密接にかかわってきたということだろう。
船舶の博物館といえば、博物館法改正で新たに登録博物館となった船の科学館(江東区)だろうか。ただ、島国の日本では船とのかかわりが鉄道よりも古く、船にまつわる展示施設や記念館は鉄道以上に多いのではないだろうか。北前船などの停泊地といった船運で栄えていた地域には、必ずといっていいほど関連施設が残っている。10月下旬にリニューアルオープンする宮城県慶長使節船ミュージアム(石巻市)は、船を扱ったテーマとしては面白い。
・航空機を専門とする「航空科学博物館」(芝山町)
・交通全般を展示する「広島市交通科学館」(広島市)
・物流にスポットライトをあてた「物流博物館」(港区)
・街道の歴史を伝える「南木曽町博物館」(南木曽町)
・日本で初めての自転車博物館である「シマノ自転車博物館」(堺市)
は、一度訪れてみたい施設だ。
安定的な維持・運営には資金の確保が最優先
博物館法の改正は、デジタルアーカイブ化の推進など博物館の質の向上に一役買う。しかしその一方で、登録博物館となるには資金や人材の確保が必要であり、小規模になるほど厳しいといえる。
施設や資料の維持に精いっぱいで、登録博物館に適合するための予算など夢のまた夢だったり、今いる職員や学芸員の待遇の改善すらままならなかったりする施設が多いのではないだろうか。博物館法の改正の意義は理解できるが、博物館運営の厳しい現状に対する答えにはなっておらず「誰得」感が残る。
上野の国立科学博物館ですら、
「我が国のコレクションとして質・量ともに世界に誇れる標本・資料の充実」
のために、クラウドファンディングを実施したくらいだ。さすがにこのクラスの博物館となると、目標1億円に対し、約5.7万人から約9.2億円の支援が集まったが、ニッチな分野や小規模になるほど集まりにくいといえよう。また、ロマンスカーミュージアムのような民間企業の博物館も、
「会社の業績」
次第では運営すら厳しくなる可能性がある。
文化芸術や科学技術の発展のために、博物館の果たす役割は大きいのはいうまでもない。博物館を取り巻く環境の改善はすぐには難しいが、筆者が最低限できることとしてこの秋に博物館に足を運んでみようと思う。
11/02 17:31
Merkmal