「高速料金」負担は誰の責任? 各トラック協会も分裂する「新深夜割引」の裏事情、物流ジャーナリストが物申す

新制度反対への強い違和感

午前0時を回った瞬間、それまでハザードランプをともし、本線上で違法駐車していた無数のトラックが一斉に走りだす。筆者の知る限り、この「0時待ち渋滞」は10年以上前から続いている。東名高速道路上り線 東京料金所で撮影(画像:坂田良平)

午前0時を回った瞬間、それまでハザードランプをともし、本線上で違法駐車していた無数のトラックが一斉に走りだす。筆者の知る限り、この「0時待ち渋滞」は10年以上前から続いている。東名高速道路上り線 東京料金所で撮影(画像:坂田良平)

 2024年度末から始まる予定の高速道路の新しい「深夜割引制度」に対し、運送業界から反対の声が上がっている。

 9月18日に全日本トラック協会が開いた全国トラック協会長会議では、高速道路の料金制度について、大口多頻度割引の拡大と新たな深夜割引制度の見直しが求められた。トラックドライバーに対するアンケートでは、61.4%が新深夜割引制度に反対している。

 また、朝日健太郎参議院議員が主導し、

・国会議員の有志
・国土交通省
・経済産業省
・農林水産省
・中小の運送会社の社長(大手運送会社は参加していない)

による物流課題に関する意見交換会が、8月27日に行われた「日昇会」でも、高速道路新深夜割引制度の見直しが訴えられた。

 このような気持ちは理解できる。筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)も以前、当媒体に「深夜の高速名物「0時待ちトラック」 私が“新深夜割引制度”の廃止を今すぐ求める4つの理由」(2024年3月3日配信)という記事を書き、この愚かな制度の撤廃を求めた。その記事では以下のように主張した。

「そもそも、運送会社が高速料金に対し、自腹を切らなければならないという状況がおかしいのだ。『高速料金を負担してくれない荷主』がいるから、運送会社は微々たる利益を必死に確保すべく、深夜割引にすがってしまうのである」

 運送業界は、いつまで高速道路料金を自腹で払う状況を受け入れ続けるのだろうか。トラック輸送で本来高速道路料金を負担すべき

・小売業者
・卸売業者
・メーカー

などの荷主が、新深夜割引制度に反対するなら理解できる。しかし、運送業界がこの新制度に反対する行動には、運送業界自身が高速道路料金の自腹負担を受け入れているかのような居心地の悪さを感じるのは筆者だけだろうか。

運賃と料金分離の意義

物流トラック(画像:写真AC)

物流トラック(画像:写真AC)

「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(2024年6月2日発表)では、

「運送契約を締結する場合には、運送の対価である『運賃』と運送以外の役務等の対価である『料金』を別建てで契約することを原則としなければならない」

として、「運賃と料金の別建て契約」を締結することを、発荷主・着荷主の双方に求めている。この「料金」には、

・荷待ち時間
・手積み・手卸作業
・燃料サーチャージ
・高速道路料金

などが含まれる。

 一方で、運送会社側がこの政府の方針を信頼できないという気持ちも理解できる。運送業界の関係者のなかには、

「運送業界の待遇改善についてこれまでも期待してきたが、何度も裏切られてきた」

と感じる人もいるだろう。

 そうであるなら、運送業界は政府に対して「運賃と料金の別建て契約」の実施を確実なものにするよう要求し、

「高速料金を負担しない荷主」

に対するより厳しいペナルティーの法制化を求めるべきではないだろうか。

明文化されない「未支払い対応措置」

物流トラック(画像:写真AC)

物流トラック(画像:写真AC)

 2024年の通常国会で審議され、5月に公布された改正物流関連2法(物効法および貨物事業法)には、荷主が高速道路料金などの支払いを怠った場合の措置が記載されていない。新貨物事業法の第十条三項に、運送事業者が掲げる運送約款において、

「運賃及び料金の収受に関する事項については、国土交通省令で定める特別の事情がある場合を除き、運送の役務の対価としての運賃と運送の役務以外の役務又は特別に生ずる費用に係る料金とを区分して収受する旨が明確に定められているものであること」

と記載し、運賃と料金を区分しなければならないことが書かれているだけである。

 実は、荷主が運送事業者との取引で「優越的な地位の濫用」(顧客の立場を利用して不当な取引を強要すること)を行った場合、それを是正し、荷主にペナルティーを課すための法整備は十分ではない。

 例えば、運送ビジネスにおける荷主の不当行為を摘発することを目的に、2023年7月に設立された「トラックGメン」は、不当行為の程度に応じて

・働きかけ
・要請
・勧告・公表

といった措置を取ることができる。しかし、荷主に対して課せられる最大の罰則は「勧告・公表」という社名の公表であり、営業停止や改善命令、罰金などの厳しい行政処分は存在しない。

 政府は、2025年の通常国会で下請法を改正し、運送事業者に対して優越的な地位の濫用を行う荷主に対する摘発・処分の体制を強化する予定だ。しかし、2025年の通常国会で審議するとなると、改正下請法の公布は2025年で、施行は2026年になるのではないか。なんとも悠長な話だ。

 現行の下請法では、荷主と運送事業者の取引は適用対象外となっている。独占禁止法では、荷主と運送事業者間の不当な取引を摘発できるが、優越的な地位の濫用を判断し、排除命令を出すには時間がかかる。

 繰り返しになるが、高速道路料金の支払い拒否など、荷主が本来負担すべき料金の支払いを怠った場合、有効なペナルティーを課す方法は現行ではない。政府が発表したガイドラインでは、荷主に

「(高速道路料金などの)料金は、運賃とは別立てで支払いなさい」

と指示しているが、これを守るかどうかは荷主の

・善意
・社会規範への順守意識

に頼るしかない状態だ。余談だが、高速道路料金に限らず、荷主が運送会社に対して行いがちな(あるいはこれまでの商慣習を振り返り、頻発していた)不当行為については、物効法で具体例を示し、罰金や行政処分などの内容を明記しておくべきだったと思う。

 性善説に基づいて荷主が自発的に改善してくれることを期待するのは、もう限界だろう。

「新深夜割引」見直し論議の舞台裏

物流トラック(画像:写真AC)

物流トラック(画像:写真AC)

 前出の日昇会では、興味深いやり取りがあった。

1.高速道路における新深夜割引制度の見直しを訴える中小運送会社側。
2.それに対し、国土交通省の担当者は、「新深夜割引制度については、全日本トラック協会も参加し、議論を重ねたうえで決定したものだと」と反論。
3.このやり取りを経て、ある国会議員が、以下の発言をした。

a.新深夜割引制度の議論については、全日本トラック協会と国土交通省内の道路局は参加していたが、国土交通省 物流・自動車局は参加していない。
b.あの新深夜割引制度については、全日本トラック協会側がお願いしたものだったが、傘下の都道府県トラック協会からは、新制度についての不満が上がった。つまりトラック協会内でも意見の相違があった。
c.だからこそ、「みんなで議論する」ということをもっと大事にするべきだったのではないか。

もしこの話が本当なら、新深夜割引制度の議論は十分ではなかったし、運送業界にも責任があるといえるだろう。

 ここまでグダグダな状況なら、新深夜割引制度はいったん保留にするべきだと感じる。とはいえ、新制度を始めるにあたって、高速道路に多数の自動料金収受システム(ETC)無線通信専用アンテナを新設する計画もあり、もはや引き返せない状態に陥っているのかもしれない。

 話を元に戻すと、2025年から始まる新深夜割引制度は、運送ビジネスの利益にはつながらず、トラックドライバーの

「労働環境を悪化させる」

おかしなものだ。ただ、運送業界は

「何に反対するべきなのか」

をしっかり見極める必要がある。改善を要求すべき相手には、高速道路公団だけでなく、長年にわたり運送事業者を苦しめてきた荷主側も含まれるべきではないだろうか。

 もしかすると、運送業界が新深夜割引制度に反対しているのを見て

「やれやれ、こちらに矛先が向かなくてよかった」

と安心している荷主もいるかもしれない。

 今こそ何を議論し、何を主張すべきか。運送事業者と業界全体が、自分たちの行動を見直すべきときだ。

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