大型船と「世界最大魚類」がなんと衝突危機? そのリスクが年々高まっていた! いったいなぜか

温暖化が招く大打撃

船(画像:Pexels)

船(画像:Pexels)

「食欲の秋」を迎え、代表的な秋の味覚であるサンマが話題になることが多い。近年は不漁が続いていたが、今シーズンはそれなりの水揚げが期待できるという話もある。最近、日本近海で取れる魚の種類に変化が見られ、ブリが豊漁だったり、サケが不漁だったりと、状況は決して安定していない。これには地球温暖化による海水温の上昇が大きな影響を与えているようだ。この影響は、世界最大の魚類である「ジンベエザメ」にも及んでいる。

 ジンベエザメは全長20m、体重42tにもなる移動性の高い魚で、水温の変化に敏感だ。

 最近の調査では、ジンベエザメが大型船舶と衝突し、ときには致命傷を負っていることが確認されている。今後、このような衝突は増えると予測されている。

生息地が50%消失危機

サウサンプトン大学のウェブサイト(画像:サウサンプトン大学)

サウサンプトン大学のウェブサイト(画像:サウサンプトン大学)

 英サウサンプトン大学と海洋生物学協会(MBA)の研究者は、地球観測衛星によるジンベエザメの追跡データと気候モデルを組み合わせて、三つの異なる将来の気候シナリオに基づくジンベエザメの分布を予測した研究を、2024年10月に「Nature Climate Change」で発表した。

 今のまま化石燃料に大きく依存するモデルを続ければ、2100年までにいくつかの国の海域でジンベエザメの主要な生息地が50%以上失われると予測されている。特にアジアの海域でその損失が最も大きいとされている。

 一方で、地球温暖化を2度以下に抑える持続可能な開発シナリオでは、欧州の海域で中核生息地が増加する地域も見られた。

 研究チームは、ジンベエザメの生息地分布と船舶交通密度を組み合わせて分析した結果、新たに適応した生息地の一部が交通量の多い船舶航路と重なっていることを突き止めた。これは、北太平洋の米国領海、東シナ海の日本領海、北大西洋のシエラレオネ領海など、世界各地で起きることが予測されている。

 さらに、研究チームは、2050年までに船舶とジンベエザメが同じ海域で“同居”する確率が最大1200%増加すると予測している。たとえ海上交通の船舶輸送が現在の水準にとどまったとしても、すべての気候シナリオで船とサメの“同居”が増加するということだ。

 ジンベエザメは2000年に国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに絶滅危惧種として登録され、保護対象となっている。その個体数減少の主な原因は、

・フカヒレや魚油を目的とした違法な乱獲
・船との衝突や漁網への絡まり
・海洋汚染
・海水温の上昇

による餌の減少などである。今では、絶滅危惧種保護の議論に気候変動の影響を考慮に入れる必要があるとされている。

地球監視衛星が暴いた密漁の実態

論文「Satellite mapping reveals extensive industrial activity at sea(衛星マッピングにより、広範囲にわたる海上での産業活動が明らかになる)」(画像:Nature)

論文「Satellite mapping reveals extensive industrial activity at sea(衛星マッピングにより、広範囲にわたる海上での産業活動が明らかになる)」(画像:Nature)

 絶滅危惧種であるジンベエザメの減少原因のひとつが「密漁」だが、実は私たちが知らないうちに、世界の海では違法漁業が広がっていることが、地球監視衛星のデータで示されている。

 世界の産業漁船の72~76%が公的に追跡されておらず、これらの船は海洋保護区での違法漁業や、強制労働、人権侵害に関与している可能性が高いという。

 海上での活動の透明性を高め、海洋ガバナンスを推進することを目的に活動している非政府組織(NGO)「Global Fishing Watch(GFW)」が主導し、2024年1月に「Nature」に掲載された研究によれば、主にアフリカと南アジアで操業する世界の産業漁船の

「約75%」

が公的な追跡を受けていないことがわかった。また、輸送船やエネルギー開発船の活動の4分の1以上も追跡システムから漏れていることも明らかにされた。

 研究チームは、2017年から2021年までの間に収集された200万GBの地球監視衛星データをAIで分析し、世界の産業活動の75%が集中している6大陸の沿岸水域に関する初の世界海洋地図を作製した。この地図の分析から、潜在的な違法行為が行われている“ホットスポット”も浮き彫りになった。

危機迫る海洋資源

論文「Climate-driven global redistribution of an ocean giant predicts increased threat from shipping(気候変動による海洋巨大生物の世界的な再分布により、船舶からの脅威の増加が予測される)」(画像:Nature Climate Change)

論文「Climate-driven global redistribution of an ocean giant predicts increased threat from shipping(気候変動による海洋巨大生物の世界的な再分布により、船舶からの脅威の増加が予測される)」(画像:Nature Climate Change)

 世界で最も監視が行き届いている生物学的に重要な保護海域のひとつ、グレートバリアリーフでは、保護区内で密漁が疑われる漁船が週平均で20隻以上確認されている。ガラパゴス諸島でも、週に5隻の漁船が特定されている。

 すべての船舶が海上での位置情報を放送する義務があるわけではないが、違法漁業や強制労働に関与する船舶のほとんどは自動船舶識別装置(AIS)を使用していない。実際、公的に追跡されている漁船は全体の25%未満に過ぎず、約75%の漁船は追跡がされていない。

 研究によると、海上で発生する違法漁業や人権侵害、労働侵害の大規模な事例は、追跡装置を搭載していないか、使用していない船舶で発生していることが多いという。

 GFWによれば、世界で7億4000万人以上が経済活動や食糧供給を海に依存しており、これが海に大きなプレッシャーを与えている。魚類資源の約3分の1は生物学的に持続可能なレベルを超えて漁獲されており、工業化によって重要な海洋生息地の30~50%が失われている。

 この研究を受けて、「Coalition for Fisheries Transparency(CFT)」は、海上での活動を透明化するため、世界中の政府に対して船舶追跡システムの義務化とデータの公開を求め、船舶活動の監視強化を提言している。

 日本でも密漁は深刻な問題であり、水産庁のデータによると、日本沿岸での密漁摘発数は2021年までの5年間は減少していたが、2022年から再び増加している。水産資源に悪影響を与え、絶滅危惧種にも脅威を与える密漁は、厳しく取り締まる必要がある。

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