生息不可能と思われていた海底で生物を発見。ということは宇宙にもいる?

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Image: CC BY-NC-SA Schmidt Ocean Institute

生命体はいないと思われていた場所に、生き物がいた。ということは...?

オランダの研究チームが、地球上で最も過酷な環境の一つ、深海の海底下で肉眼で見える大きさの生命を発見しました。

この発見は、深海の熱水噴出孔周辺の生物群集に関するこれまでの科学の理解を覆すと同時に、地球外の生命がどのようなものであるかについての大きな手がかりとなりそうです。研究者たちは熱水噴出孔の中や周辺に生命が存在することは知っていましたが、海水の下何メートルもの堆積物中に生物が生息しているかは明確ではありませんでした

海面下2500メートルでの調査

Nature Communicationsに発表された研究によると、チームは研究船に搭載された遠隔操作無人探査機を使用して、通常は深海の熱水噴出孔にいる生物を、もっと下の海底下にいることを確認しました。チームは東太平洋の海底の一帯で、海面下約2,515メートルの場所で調査をおこなっていました。

オランダ王立海洋研究所の研究者で本研究の共著者であるSabine Gollner氏はGizmodoへのメールで「海の動物生命が海底表面に見えるものだけに限定されず、浅い海洋地殻にまで広がっていることを発見しました。海底下の空洞の広がりが、水平方向にどれほど広く、そしてどれほど深くまで達しているかはまだ分かっていません。海底と海底下の生息地はつながっているため、海底下の生息地は熱水噴出孔での生態系の遷移にとっても非常に重要なことかもしれません」と述べています。

研究チームは、チューブワームなどの動物が海底下の空洞を通って、ある地点から別の地点へ移動していることを発見しました。具体的には、チューブワームのR. pachyptilaO. alvinae、ムール貝のB. thermophilus、そして多毛類の虫やカサガイなどが、海底下の空洞に生息する種として確認されました。

海底下の状況を把握するためチームは遠隔操作無人探査機で、海底にある露出した火成岩の塊に小さな穴を開けました。また、この潜水艇は溶岩棚の一部を持ち上げ、その下に何が住んでいるかを確認。棚を持ち上げる前に、チームは開けた穴を通して熱水をサンプリングし、空洞内の温度を測定しました(平均して約18°Cだったそうです)。

目に見える大きさの生物発見

10〜15センチの厚さの溶岩棚の下で、チームは10センチの高さの空洞を発見し、そこに目視可能なチューブワームとムール貝が生息しているのを発見。中には成体もいたそうです。少なくとも1匹のチューブワームは41センチ以上の体長で、空洞が単に生まれるための場所ではないことを示していました。成体のチューブワームは口と腸を失い、体内に住む細菌Candidatus Endoriftia persephoneによって栄養を得ています。海底下の空洞内の温度が生存可能であり、栄養源がワーム自分の体の中にあるため、この極端な環境で問題なく生存することができたのです。

私たちが知っている生命というのは、必須条件がいくつかあるものです。水、炭素、窒素、そして運。これらは生命体に必要不可欠と思われる要素の一部で、地球外生命の探索(アストロバイオロジーと呼ばれる科学分野)の指針となっています。科学者たちは、地球上の最も極端な環境を調査することで、遠い系外惑星から木星の氷衛星の地下海まで、あらゆる場所で生命がいる可能性のある条件をより良く理解しようと研究し続けているのです。

チームは論文で、「海底下生物圏の研究はまだ始まったばかりです。この取り組みは、熱水噴出孔の生物地球化学、生態学、進化、そしてそれが地球規模の生物多様性と連結性に与える影響についての理解を深めることにつながり、最終的には海底表面と地殻下の熱水噴出孔に対する良い管理につながる可能性があります」と述べています。

昨年、あるチームが同じ研究船を使用して海底で生命がたくさん生息している新しい熱水噴出孔を発見しました。そしてその発見を受けたシュミット海洋研究所が、深海採掘作業の標的となる可能性のある鉱物豊富な海底一帯を保護する必要性を訴えかけています。

「活動中の熱水噴出孔のユニークさはよく認識されており、深海採掘などの将来的な人為的影響に対する保護が呼び掛けられている、または既に実施されています。現在その範囲が不明な地殻下の海底における動物の生息地の発見 により、保護の緊急性が高まっています」とチームは述べています。

今回使用された研究船の以前のバージョンの船舶は、海底でひっそりと生存している生命体に光を当ててきました。2021年、この船に乗った研究チームは、人間の免疫システムには認識できない深海の微生物を発見し、私たちの体が外来の微生物を認識する能力が全てを網羅しているわけではないことを示しています。これら生命体は、生命に対する我々の従来の感覚からすれば完全に異質であるだけでなく、私たちの体がそれを生命体として認識することさえできないほど異質ということなのです。

今回の発見は、地球外生命の探索に役立つ可能性が大変高いです。生物が海底下の堆積物を快適な住み家にできるのであれば、深宇宙における生命の可能性を広げることになります。

まだたくさんいるっぽい!

例えば、4月にPNAS Nexusで発表された研究では、チリのアタカマ砂漠の地下でたくさんの生態系が発見されました。アタカマは北チリの乾燥地域で、地球上で最も生物に適さない場所の一つなんです。しかし、その研究を主導したチームは、地下で静かに生存しているバクテリアを数種類発見しました。これらバクテリアは土壌の下で頭上の紫外線から保護されてはいますが、光合成をおこなうためのエネルギーを得るために表面に近い場所に住んでいるのです。

海底下のどれほど深くまで生命が存続できるかはまだ明らかではありませんが、目に見える種がそこで生活していることは、今回の研究でも明らかです。チームは「温度の上昇により、生命は海底下数メートルに制限されるはずだと予測されていた」と説明しています。今後の研究で、どの程度の深さまで生命に適した条件があるのかが明らかになってくるかもしれないですね。

今回の発見で、今後、木星の衛星エウロパとガニメデの表面下を調査する際に、重要なヒントになってくるかもしれません。この二つの衛星には地下海があると考えられているのですが、もし生命が衛星の水中を浮遊していなくても、その海の下に生命がいることも可能性として探索する方向になってくる発見だったと言えますね。

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