これからは「都会のど真ん中」に住むべき? ドイツ最新研究が示す、温暖化対策時代の持続可能な暮らしのヒントとは
大都市の脆弱性
最近の研究では、気候変動対策として自動車の使用を控えるために「都市の中心部」に住むことが推奨されている。
しかし、コロナ禍では過密都市の伝染病リスクが明らかになった。さらに、地震などの災害時には、住宅の倒壊や交通の寸断が起こり、支援物資が行き届かずに混乱する可能性もある。
大都市は経済の重要なハブである一方、災害時には脆弱(ぜいじゃく)だ。では、私たちはどこに住むべきなのか?
オランダ・ライデン大学のピーター・ベリル博士の研究チームは、欧州18都市で
・都市形態
・移動手段
・自動車所有
に関する調査を行った。その結果、ドイツの都市ではフランスやスペイン、オーストリアの都市に比べて、自転車の使用割合がはるかに高いことがわかった。
また、大都市ほど自動車所有率が低い傾向があり、ベルリンの中心部から6km以内では自動車の所有が急激に減少している。ベルリンの人口は市内で370万人、都市圏では600万人にのぼる。
気候変動センター・ベルリン・ブランデンブルクは、この研究に基づいた都市計画によって、
・持続可能性
・公衆衛生
・住民の生活の質
を向上させられると考えている。
「移動のための住居」という発想転換
この研究結果をふかんすると、「住居からの移動」という考え方から、
「移動のため、あるいは移動を減らすための住居」
という発想への転換が示唆されているように思える。そのなかでも、特に環境に大きな影響を与える車の使用を最小限に抑えることに重点が置かれている。
週末のドライブや休暇の旅行など、移動自体が目的となることもあるが、日常のモビリティの大部分は、必要な場所に行くための手段だ。そのため、必要な場所の近くに住むことで問題は解決できるはずだ。
日本では通勤に多くの時間と労力が費やされており、経済的な生産性が著しく低下していると指摘されている。総務省が行った「社会生活基本調査」によると、1日あたりの通勤時間が最も長いのは神奈川県で110分、次いで千葉県が108分、埼玉県が101分、東京都が97分となっており、首都圏が上位を占めている。
東京での通勤時間がやや短いのは、郊外から都心に通勤している人が多いためだ。効率を上げたいのであれば、都心に住むことがひとつの解決策になる。しかし、住宅価格がネックになっている。
求められる環境に優しい住宅政策
前出のベリル博士は、
「市街の中心部に近い住宅開発を奨励する政策と、公共交通といった移動インフラの増強を組み合わせることで、自動車への依存と環境への影響を大幅に減らすことができる」
と述べている(気候変動センター・ベルリン・ブランデンブルク)。
東京の都心にさらに住宅を建設するとなると、高層ビルが避けられないが、首都直下地震の際の避難などが課題になる可能性がある。
果たしてすべての人が、移動距離を減らすために過密都市の狭い部屋に住みたいと思うだろうか。会社がある都心に通勤しつつも、家族との生活環境はゆったりとした郊外が望ましいというニーズはなくならないだろう。
日本の地方都市では、まだまだ住宅開発の余地が多く残っている。また、東京においても交通インフラの改善は可能だと考えられる。
住宅とモビリティは別々に語られがちだが、両方を統合したまちづくりを考える必要があるだろう。
子育て世帯支援の重要性
ベリル博士の研究によると、子ども連れの移動は自動車で行われる可能性が高くなることがわかった。子育て世代がより持続可能な移動手段に移行できるよう、追加支援が必要であると指摘している。
日本では、少子化対策が急務であり、2023年にこども家庭庁が設置された。子どもを持ち育てたいと思う社会を作るために、どのような政策が必要かは非常に重要なテーマだ。しかし、
「気候変動対策として子育て世帯を支援する視点」
は目からウロコだ。考えられる施策には、
・子育て世帯が立地条件の良い場所に住めるような住宅支援
・子育てに必要なインフラのアクセス改善
・環境に優しい移動手段への補助
がある。今回の研究を通じて、欧州の事例と日本の実情を照らし合わせて考察したところ、うのみにできない部分もあったが、貴重な洞察を得ることができた。
住む場所や移動手段は家族構成や経済状況、価値観によって異なるため、考え方は人それぞれだ。地域ごとの状況に応じて、住宅事情や交通インフラを改善していくことが最適解だろう。
10/21 11:51
Merkmal