「地球沸騰」みたいな言葉を作っても人々の意識は変わらない

森林の中で山火事が激しく燃えている。

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行動に大切なのはワードじゃなくて、メッセージなのかも。

「Fridays For Future(未来のための金曜日)」。この活動は、5年前若者たちが金曜日に学校をサボって炭素排出量の増加に抗議するために始めたことでした。化石燃料が地球を温暖化させていることを表現するためによく使用されていた言葉 、「気候変動」、「地球温暖化」は理解はできますが、ひっ迫したイメージはないですよね。

危機感を伝える言葉がない

若いデモ参加者の大規模なグループ、気候変動への意識、汚染と資源開発

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スウェーデンの活動家グレタ・トゥーンベリは、この感情について「私たちは今すぐ『気候変動』という言葉を使うのをやめて、本当の状況を表す表現に代えることはできませんか? 気候崩壊、気候危機、気候緊急事態、生態系崩壊、生態系危機、そして生態系緊急事態とか?」とXに投稿して呼びかけたこともありました。

この問題に取り組んでいる人たちからすると「温暖化」は心地よすぎるように聞こえますし、「変動」が曖昧すぎるようにも聞こえるみたいですね。

2018年、「気候危機」が下院委員会で使われるようになると、翌年ガーディアン紙は気候報道をする際、新たに「地球加熱」というワードを採用しています。またテレムンドは「気候緊急事態」という言葉を使い始めると発表しました。

印象が変わる用語

印象的な二重性1本の木が気候変動の対比を示す

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より劇的な言葉を使用すれば、一般市民にもっと危険の懸念を生み出すだろうという考えによるものでした。

しかし、新たな研究結果によると、こういった用語は意図したように機能しておらず、むしろ逆効果になる可能性さえあることがわかっています。

先週、Climatic Change誌に掲載された研究によると、「気候危機」、「気候緊急事態」、「気候正義」という言葉は、もともとの表現よりもむしろ人々の懸念が減ってしまうとの結果が出たそうです。南カリフォルニア大学の研究チームは、アメリカ住民の約70パーセントが「気候変動」と「地球温暖化」について懸念していると述べたのに対し、「危機」や「緊急事態」という表現については65パーセント、「正義」という表現については48パーセントであることを調査で導き出しています。

この研究の著者、南カリフォルニア大学の公共政策教授Wändi Bruine de Bruin氏は、より感情を呼び起こすとされる用語の新規性によるものだと考えているそうです。「気候正義」という言葉をこれまでに聞いたことがあると答えたのは調査対象者の33パーセントのみ。「自分が馴染みのないものについて懸念することはできません」とBruine de Bruin氏は述べています。また「気候正義」について懸念しているのは共和党支持者では23パーセントのみだったのに対し、民主党支持者では71パーセントも懸念しているとの大きな差も生まれています。

「気候変動」では人の心は動かない

気候変動危機を訴えるバナーを持つ活動家のグループ

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5,000人以上を対象にしたこの研究では、それぞれの人に5種類のワードの中からひとつを使ったに環境に関する質問が与えられました。対象者たちは広く気候に優しい政策を支持し、肉を減らすなどの低炭素行動を起こす意欲はありましたが、ワードの違いによって回答が変わるということはありませんでした

「問題は、多くの人がすでに気候変動について懸念しているので、『気候変動』という言葉で人々を動機づけが難しいと言うことです」とBruine de Bruin氏は述べてます。最近の調査によると、アメリカ人の半数が地球温暖化の影響を個人的に経験したと回答していて、約3分の2が懸念を抱いているとのことです。

Bruine de Bruin氏は、科学者や活動家が使用する「緩和」や「カーボンニュートラル」などの専門用語に一般市民が困惑していることを発見し、用語の効果を調査することを決めたと語っています。

Bruine de Bruin氏の発見は、実は2021年の以前の研究結果と一致していたのです。当時の研究では、ニュース記事で「緩和」・「カーボンニュートラル」という言葉を読んでも、人々の気候変動に対する感情的な反応、それに対する政策支持や行動が影響を与えられるという考えには影響がないことがわかっています。また、研究者たちは「気候緊急事態」という用語の使用が、ニュース機関をわずかに信頼性が低いものとして印象づけることも発見しています。

また最近出てきている研究も同様の方向を向いているようで、ニューヨーク大学の研究チームは、「炭素汚染」、「温室効果」、「地球沸騰」などの10のワードの効果を6,000人以上を対象に分析しました。ほとんどの人が気候行動に参加する意欲があると回答したものの、そのワード自体がその熱意に影響を与えなかったことが分析の結果、わかっています。

ストーリーと具体性が重要

「重要な結論は、特定の用語に頼って行動変容を促すよりも、説得力のあるメッセージ、気候変動の結果と解決策に関する具体的で実行可能な情報に焦点を当てることの方が効果的かもしれないということです」と、ニューヨーク大学の研究者Danielle Goldwert氏は語っています。

つまるところ、人々に懸念を抱かせるのに特別な言葉は必要ないということですね。

私たちが必要としているのは、意味のある行動を取るための具体的な例 、たとえば 「車を手放す」や「家をカーボンフリーにする」といった達成困難な項目のリスト以上に深く掘り下げたもの と、それをどのように行動に起こすかを示したロールモデルなのかもしれません。

Bruine de Bruin氏は、気候変動を心配している人々が自分の恐れに基づいて行動を起こさない可能性のある理由としては、自分の懸念があっても一人では違いを生み出すことができないと感じているからかもしれないと述べています。「もしそうなら私たちがみんなで一緒に取り組んでいることを明確にするコミュニケーションをとることに焦点を当てるべきです」とも語っています。

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