ネットの嫌われ者「電動キックボード」 しかし、その普及には大きな意味があった! ヒントは「自転車レーン」だ
自転車レーンで加速する新たな進化論
進化論を提唱し、進化生物学の基礎を築いたチャールズ・ダーウィン(1809~1882)だが、彼の「適者生存」に基づく自然選択説は、その後「社会ダーウィン主義(Social Darwinism)」という考え方を生んだ。
これは、社会の競争が人間社会の進化を促すというもので、ダーウィン自身の考えを超えた解釈だ。
社会ダーウィン主義では、競争を通じて最も適応した者や集団が生き残り、人類社会が進化していくという主張がされるが、これには異論や反論も多い。最近、この進化のプロセスが
「自転車レーン」
にまで及んできたという。どういうことなのか。
電動モビリティ普及の光と影
オランダのアイントホーフェン工科大学の研究チームが2024年7月に「Mobilities」で発表した研究によると、
「‘Social Darwinism has moved to the cycle path’:framings of micromobility in the Dutch and British press(「社会ダーウィン主義は自転車レーンにも及んでいる」:オランダと英国の報道におけるマイクロモビリティの枠組み)」
というタイトルで、自転車レーン上で今後の社会の進化につながる競争が起きていることが示唆されている。
自転車レーンで繰り広げられている競争は、自転車やマイクロモビリティ(電動自転車、電動アシスト自転車、電動スクーターなど)の間のものだ。自家用車からマイクロモビリティへの移行を進めることは、都市の持続可能性や住みやすさを高めるための重要な取り組みであり、急務ともいわれている。つまり、自転車レーンでの移動手段の競争や切磋琢磨(せっさたくま)が、今後の人類社会の発展につながるということだ。
マイクロモビリティの普及は、これからの社会にとって避けられないもののように思えるが、現状では電動キックボードの交通違反や事故が問題になっており、否定的な意見も少なくない。
では、メディアはマイクロモビリティをどのように報じているのか。ある研究では、オランダと英国の全国紙がマイクロモビリティをどのようにフレーミングしているかを比較し、五つの論調を特定している。
五つの視点とその影響
その五つは次のとおりだ。
・英国:マイクロモビリティは自動車に代わる持続可能で積極的な移動手段。
・オランダ:マイクロモビリティは自転車交通の混乱要因。
・英国&オランダ:マイクロモビリティは歩行者&自転車の通行と相いれない。
・英国&オランダ:マイクロモビリティに明確な交通規制が必要だ。
・オランダ:マイクロモビリティは社会的地位とライフスタイルを反映している。
マイクロモビリティに関するメディアの論調を特定した研究チームは、四つの結論を示している。
・マイクロモビリティは自動車代替の鍵である。
・ローカルルールが重要である。
・交通手段の転換と炭素削減だけが問題ではない。
・自動車からマイクロモビリティへの移行は喫緊の課題である。
研究チームは、自動車からマイクロモビリティへの移行が自明であるにもかかわらず、誰も見ようとしない
「部屋のなかの象(elefant in the room)」
と指摘し、この無視できない課題の緊急性を強調している。環境負荷の少ない交通手段への転換や、広い意味でのモーダルシフト(環境負荷の少ない輸送手段への転換)は、今後どこかの時点で劇的に進める必要があるようだ。
3割がマイクロモビリティに代替可
マイクロモビリティの普及は、人類の進化に寄与する可能性がある。しかし、実際には現在の自動車利用のどの程度をマイクロモビリティに転換できるのか、現実的に考える必要がある。
イタリアのローマ・トルヴェルガタ大学とメッシーナ大学の合同研究チームが、2024年4月に「European Transport Research Review」で発表した研究によると、イタリア南部のプーリア州トラーニ市の交通実態を詳細に分析した結果、
「自動車での移動の31%」
をマイクロモビリティに置き換えることが可能であり、その場合、自家用車からの炭素総排出量の21%を削減できることが報告されている。
この研究で用いられた方法論はパラメトリック(parametric)であり、世界各地の都市にも適用できるとされている。これを踏まえると、日本の都市部でもこの数字が参考になるかもしれない。
“車社会”の郊外では、自動車が生活必需品になっており、マイクロモビリティへの代替は容易ではない。しかし、各移動のタイプを考慮すれば、意外にもマイクロモビリティで代替できる移動が存在する。
例えば、コンビニエンスストアへの訪問では、数キロ程度の距離でも買い物の量が少なければ、雨が降っていなければ自転車やマイクロモビリティでの移動が問題ないだろう。郊外での生活では、自動車通勤以外の選択肢がないことが多いが、日常生活のなかで自動車を使わずに済むケースもあるかもしれない。
また、マイクロモビリティの普及によって今後バッテリー技術が進歩すれば、今まで自転車や徒歩を利用していた人々がマイクロモビリティを利用し始める可能性もある。
自転車や徒歩が主な移動手段だった人がマイクロモビリティを利用し始めると、社会全体のエネルギー消費が増加するかもしれない。しかし、自動車からマイクロモビリティに転換することで、大幅に減少するエネルギー消費を考慮すれば、その影響は大きな問題にはならないかもしれない。
いずれにしても、これに関する興味深い研究が続々と発表されている。
EVと自力移動の無関係
ノルウェー科学技術大学の研究者が2024年6月に「Journal of Transport & Health」で発表した研究によると、ノルウェーの全国調査の結果、新しい移動手段である電気自動車(EV)、自動運転車(AV)、モビリティサービス、電動スクーターの利用増加は、自転車や徒歩などの
「自力移動の割合とは有意な関係がない」
ことが報告された。さらに、ライドシェアやマイクロモビリティの普及も、自力移動の減少や増加とは有意に関連していないという結果が得られた。
徒歩や自転車を主な移動手段としている人々には、自らその選択を好む割合が多いようだ。使い勝手のよいマイクロモビリティが登場しても、あまり利用しない可能性があるのは理解できる。
ただし、身体的障害や加齢による体力の低下を考慮すると、マイクロモビリティの進歩と普及には大きな意味がある。今後、マイクロモビリティがさらに普及するなかで、社会の変化や“進化”の視点からその動向を長期的に見守る必要があるかもしれない。
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