世界中が「クルマ中毒」 なんと労働者の“半数”がクルマ通勤! EV普及より先にやるべきことがあるのでは?

世界のクルマ利用の実態

通勤ラッシュで渋滞する幹線道路(画像:写真AC)

通勤ラッシュで渋滞する幹線道路(画像:写真AC)

 2024年3月に「Environment International」に掲載された研究によると、オーストリアとコロンビアの研究チームは、世界全体の通勤の

「約51%」

がクルマによって行われていると報告している。つまり、世界は依然としてクルマに大きく依存しているのだ。

 この研究では、61か国794都市から交通手段に関するデータを収集し、その合計人口は約8億5000万人に上る。研究チームは、

・自動車
・公共交通
・アクティブな移動手段(徒歩&自転車)

をモデル化し、世界各地でどのように通勤が行われているかを説明している。地域によってその傾向には差が見られる。

欧州とアジア

英国・マンチェスター(画像:写真AC)

英国・マンチェスター(画像:写真AC)

●欧州
 クルマ通勤は、

・イタリア ローマ(66%)
・英国 マンチェスター(71%)

など、一部の都市ではクルマに大きく依存している。

 その一方で自転車&徒歩による通勤は

・デンマーク コペンハーゲン(47%)
・オランダ ユトレヒト(75%)
・スペイン ビルバオ(66%)
・イタリア ボルツァーノ(58%)

とクルマ依存の低い地域もある。

 さらに地下鉄などの公共交通は欧州のいくつかの都市で不可欠であり、フランス・パリでは公共交通が移動の60%を占めている。

・英国 ロンドン(45%)
・ベラルーシ ミンスク(65%)
・チェコ共和国 プラハ(52%)
・ポーランド ワルシャワ(47%)
・ハンガリー ブダペスト(45%)

など、公共交通への依存度が高い地域もある。

●アジア
 公共交通の利用率は、

・中国 香港(77%)
・韓国 ソウル(66%)
・インド ムンバイ(52%)
・日本 東京(51%)

など、南アジアと東アジアでは移動のかなりの部分を占めている。さらに南アジアと東アジアでは徒歩&自転車の利用率が最も高く、

・パキスタン ダッカ(58%)
・中国 北京(53%)、上海 (47%)
・日本 東京(37%)
・インド ムンバイ(33%)、デリー(33%)

となっている。

中南米、アフリカ、北米

中南米のイメージ(画像:写真AC)

中南米のイメージ(画像:写真AC)

●中南米
 ラテン米国の都市では、クルマ通勤はそれほど多くはない。徒歩&自転車と公共交通を組み合わせたバランスの取れた通勤方法が主流である。例えばメキシコシティではクルマ通勤は

「21%」

にとどまり、バスや地下鉄などの公共交通の利用が市内の移動のほぼ半分を占めている。

●アフリカ
 アフリカの都市ではクルマ通勤は一般的ではないが、南アフリカのケープタウンなどの裕福な都市ではクルマ移動がより頻繁に行われており、局所的な地域性がある。

●北米
 米国とカナダでは通勤の

「約92%」

がクルマで行われている。

・公共交通:4.6%
・徒歩&自転車:3.5%

である。世界でも群を抜いてクルマ利用率が高い地域であることは間違いない。

 一方でニューヨーク市は米国で最もクルマ依存の低い都市であり、公共交通のシェアが北米で最も高く(25%)、徒歩&自転車が通勤の8%を占めている。

 サンフランシスコとボストンでは、公共交通は移動の8%を占めており、徒歩&自転車はサンフランシスコでは通勤の6%、ボストンでは7%を占めている。

EV推進より電動自転車

カナダ・ブリティッシュコロンビア州サーニッチ地区(画像:OpenStreetMap)

カナダ・ブリティッシュコロンビア州サーニッチ地区(画像:OpenStreetMap)

 このように明らかに世界はクルマに頼り過ぎており、電気自動車(EV)を推進するよりも

・公共交通の拡充
・自転車利用の推進

が先決のように思える。

 しかし中規模および大規模都市での長距離通勤で徒歩&自転車移動は総じてなかなか困難であり、一方で公共交通は充実したサービスを提供するために十分な数の乗客を必要とするため導入が難しい地域もある。

 だが解決策もある。短距離から中距離の移動を電気自転車(&電動アシスト自転車)に代替させることが有効な政策として注目されているのだ。

 カナダ・ブリティッシュコロンビア州サーニッチ地区では、2021年と2022年に収入に応じて新しい電動自転車の費用を補填する振興キャンペーンを提供した。基本の補填(ほてん)額は350ドル(約5万円)で、最も低所得の世帯は最大1600ドル(約23万円)を受け取ることができた。

 このキャンペーンを利用した者の93%が電動自転車を初めて購入し、60%が自転車に乗ること自体が初めてだった。

 購入から1年後、ユーザーは電動自転車に満足し平均で週に3~4日、日常生活に取り入れていることが調査で判明した。彼らは毎週のクルマ移動を平均で

「48km」

減らしており、利用以前の炭素排出量の30~40%が削減されたのである。

電動アシスト自転車の急成長

論文『The ABC of mobility(移動のイロハ)』(画像:Environment International)

論文『The ABC of mobility(移動のイロハ)』(画像:Environment International)

 電気自動車の購入補助金(EV補助金)も続けられているのだが、研究チームによれば炭素排出量削減においてEV補助金よりも

「電動自転車キャンペーン」

のほうが費用対効果が高いと説明している。

 したがって電動自転車の利用拡大が今後の炭素排出量削減において、少なくとも短期的将来においては有望なのではないかと考えられる。

 その点では日本では電動アシスト自転車と電動自転車(eバイク)は順調に普及しており、すでにクルマ利用に歯止めがかかっている。特に2000(平成12)年以降はクルマの生産台数も販売台数も毎年減っていることが統計からも明らかになっている。

 一方で自転車に6歳未満の小さい子どもを同乗させることが日本では事実上認められていることからも、ファミリー層にとっては電動アシスト自転車はもはや必需品と化しているともいえそうだ。

 電動キックボードの交通違反や事故の問題、違法な電気自転車の問題などはひとまず置いておくとして、“エコ”な観点から電動アシスト自転車とeバイクが積極的に活用されることを期待したい。

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