電動キックボードより安心? いま「電動アシスト自転車」シェアサービスが世界中で急増している、実にもっとな理由

バイクシェア需要急増

サンタンデール・サイクルズと英国会議事堂ビッグベン(画像:Pexels)

サンタンデール・サイクルズと英国会議事堂ビッグベン(画像:Pexels)

 東日本大震災以来、10年ぶりに東京23区で震度5強以上を観測した際、多くの鉄道が運転を見合わせたため、交通手段を失った人々がバイクシェアリングに殺到し、なんとか帰宅した。

 国土交通省は

「我が国におけるシェアサイクルは、広く普及が進み利用も増えているものの、規模が全般的には小さい」

と説明している。また、「東京は運営規模、利用状況とも海外の都市に近づいてきているが、海外の都市と比較して空白地帯が多い」と課題を指摘している。

 欧米では、自転車シェアリングが先行するなか、今後はスポーツ仕様の電動アシスト自転車(Eバイク)のシェアリング市場が急速に成長すると見込まれている。

 今後の日本の交通インフラ整備を考える上で、世界におけるEバイクシェアリングの現状を詳しく検証する必要がある。

急成長する英国のEバイク市場の現状

シェアサイクルサービス(画像:ドコモ・バイクシェア)

シェアサイクルサービス(画像:ドコモ・バイクシェア)

 英国では、従来の自転車やバイクシェアリングの利用が増え続けており、過去最高の利用記録を更新している。

 2023年にはEバイクシェアリングの台数が2万5000台に達し、初めてアシストなしのペダル自転車シェアリングの台数を上回ったとされる。この数字は前年の1万2000台から2倍以上に増加しており、現在では自転車シェアリング全体の59%をEバイクが占めると、同国の共有交通のための全国組織「CoMoUK」が報告している。

 Eバイクシェアリング事業者のLimeは、2023年に過去最高となる6億1600万ドル(約900億円、前年比32%増)の利用を記録した。さらに2024年にはロンドンに2500万ポンド(約47億円)を投資する予定だ。

 ロンドン市長サディク・カーンは、2030年までにネットゼロカーボンを達成する目標を掲げている。1日あたりのEバイクのレンタル数は、従来のペダル式自転車の2倍に達しており、ロンドン交通局(TfL)は2024年夏にEバイクの数を約200%増やすため、英国政府による公共自転車レンタル制度・サンタンデール・サイクルズに予算を投じ、台数を600台から2000台に増加させた。

 一方、ロンドンでは電動キックボードのシェアリングサービスも試験運用されているが、立ち入り禁止区域や低速走行区域の存在、駐車スペースの不足などから競争力が低く、参入事業者が採算悪化で撤退するケースも見られている。

 しかし、レンタルEバイクは乗車や駐車に関する規制が少なく、利用が急増している。

都市交通に革命起こすEバイク

並べられたキックボード(画像:Pexels)

並べられたキックボード(画像:Pexels)

 パリでは、かつてピーク時に1万5000台のレンタル電動キックボードが利用されていたが、駐車マナーの悪さや危険運転が問題視され、2023年に禁止された。その結果、Eバイクシェアリングのサービスが拡大する余地がさらに広がっている。

 ポルトガルの首都リスボンでは、コロナ禍にともなう交通の変化に対応して自転車レーンが増設され、Eバイクが都市交通の近代化と持続可能なモビリティの一環として重要視されている。今後も整備が進められる予定だ。

デンマークのコペンハーゲンでは、トヨタのサブスクリプションサービスKintoが、カーシェアリングに加えて600台のEバイクの提供を開始した。

 ベルギーやドイツでは、Eバイクの普及が進み、すでにアシストなしの自転車を上回る利用が見られている。

米国のウィスコンシン州マディソンでは、自動車からEバイクシェアリングへの移行が進み、特に4km以内の移動手段として競争力を発揮している。

 米国の市場調査会社インフィニティ・ビジネス・インサイトは、「Eバイクシェアリングは、環境に優しく都市交通に革命を起こしており、2023年から2030年にかけて毎年25%の成長が見込まれる」と予測している。

 Eバイクシェアリング市場の成長は地域によって異なり、北米や欧州の人口密度が高い都市部では自動車依存が減少し、持続可能な交通手段への関心が高まっている。また、アジア太平洋地域でも効率的で環境に配慮した都市交通への需要が増しており、市場の大幅な拡大が見込まれている。

都市部でのEバイク躍進

電動バイクのシェアリングサービス:シェアロ(画像:シェアード・モビリティ・ネットワークス)

電動バイクのシェアリングサービス:シェアロ(画像:シェアード・モビリティ・ネットワークス)

 これまで見てきたように、マイクロモビリティ(超小型の乗り物)のシェアリングサービスでは、各社が競争を繰り広げている。

 電動キックボードは成長を続けているものの、やや逆風が吹いている。

 一方で、Eバイクシェアリングは、既存の自転車を電動化したものであり、社会的な障壁が少なく、今後も順調に成長していくことが期待されている。これがEバイクシェアリングの強みだ。

 マイクロモビリティのシェアリングは、人口密度の高い地域で効果を発揮するサービスであり、日本には東京や大阪をはじめとする人口密集都市が多くある。

 自転車シェアリングの普及もまだ途中だが、この機会にEバイクを含めた二段構えでの開発を進めることが、普及への近道かもしれない。

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