なぜ運送業界で「ドライバー不足」が続いているのか? 自動運転が進んでもこの問題が解決しない本当の理由

求人強化も人手不足

物流トラック(画像:写真AC)

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 2024年は運送業界にとって大きな転換点だ。

 この年から働き方改革の一環として、運送業界にも時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示が適用された。

 そのため、ひとり当たりのドライバーが担える労働量が減少すると予想されており、各事業者は求人を強化している。

 しかし、どの会社も人手の確保に苦労している。では、なぜこのような事態に至ったのだろうか。ここでは、経済情勢の変化と働き方改革の関係について考えてみる。

19兆円超えの営業収益

物流トラック(画像:写真AC)

物流トラック(画像:写真AC)

 2024年の働き方改革を迎えるまで、運送事業者はどのような状況にあったのだろうか。結論からいえば、トラック運送事業者は急激な増加を経て、現在は増減を繰り返す状況にある。

 国土交通白書によると、1990(平成2)年の規制緩和以降、トラック運送事業者の数は2005年頃まで増加を続けていたが、以降はほぼ横ばいで推移している。事業者数の減少も見られるが、増減が繰り返されているため、全体としては大きな変化はない。

 例えば、2007年の事業者数は6万3122だったが、2023年には6万3127となっている。この間、6万2000と6万3000の間を行き来しているのが実情だ。新規参入と退出があるものの、2007年以降、トラック運送事業者の数はほぼ横ばいで推移している。

 一方で、トラック運送事業の営業収益は2018年に19兆3576億円に達している。2011年までは14兆円台だったものが、急激に増加した。これはネット通販事業者の増加にともない、小口貨物の宅配が増えたことが影響していると考えられている。

 1990年代以降、経済が拡大から現状維持へと転換していくなかで、トラック運送事業者の輸送トンキロ数(運ばれた貨物の重量(トン)と、その貨物が運ばれた距離(キロメートル)を掛け合わせたもの)はコロナ禍を除けばほぼ横ばいだった。最近では、トラック輸送から鉄道や船舶へのモーダルシフトが政策的に進められているが、内航海運や鉄道による輸送量にはほとんど変化が見られない。

 これまでの2000年代の運送事業者の状況を振り返ると、経済規模が変わらないなかで事業者数にもほぼ変化がないという業界の動向が続いてきたといえる。そこに大きな変化をもたらしたのが、コロナ禍と2024年の働き方改革だろう。

99%が中小企業の現実

物流トラック(画像:写真AC)

物流トラック(画像:写真AC)

 トラック運送事業者の特徴として、中小企業が多いことが挙げられる。

 全日本トラック協会がまとめた『日本のトラック輸送産業の現状と課題』によると、2022年3月末時点で資本金が3億円以下、または従業員が300人以下の中小企業が全体の99%を占めている。また、従業員10人以下の企業はトラック運送事業者全体の49%を占めている。トラック運送事業は、トラックさえあれば始められるため、参入が比較的容易である。そのため、経済の変動による再編が起こりづらいという特徴もある。

 しかし、トラック運送事業者は人手不足という課題を抱えている。国土交通白書によると、2009(平成21)年に自動車・船舶・航空機・鉄道の運転事業者の有効求人倍率が底を打った後、右肩上がりに上昇してきた。コロナ禍で有効求人倍率が急激に低下したものの、自動車運転事業者の有効求人倍率は2倍を維持しており、他の職種を上回っている。つまり、自動車運転業、特にバスやトラックの事業者は慢性的な人手不足に直面している。

 人手不足の一方で、賃金や労働時間には改善が見られない。中小型トラックのドライバーの年間所得は410万円から430万円、大型トラックでは450万円から480万円で推移している。

 これは全産業平均よりも低い水準だ。また、労働時間にも大きな変動はなく、大型トラックで年間労働時間は2500~2600時間、中小型トラックでは2400~2600時間となっている。これは全産業平均の2100時間を大幅に上回っている。

 このように統計を見ていくと、人手不足が指摘されている以上、待遇の改善が求められるのは自然だ。有効求人倍率が高い状況で労働者の待遇を改善すれば、雇用につながる可能性がある。

 しかし、トラック事業者は中小・零細企業が多く、営業収益が上がっていない事業者も少なくない。また、規模が小さいため、大企業と比べて効率化や設備の更新が難しい。このような状況では、生産性や効率を改善して収益を向上させることは難しく、待遇改善による人手不足の解消に向けた動きも鈍いのが実情だ。

 さらに、事業者数に変動がないことは、業界の再編による効率化が進んでいないことを示している。トラック事業者の現状は、再編や効率化が困難であるといえる。

人手不足解消への道

物流トラック(画像:写真AC)

物流トラック(画像:写真AC)

 トラック事業者の現状を見ると、自動運転技術やその他の技術革新によっても人手不足や業界全体の労働改善は難しいことがわかる。自動運転などの技術を導入するには初期投資が必要であり、大企業であればこれを実現できるが、中小・零細企業にはそれが難しい。

 この状況を変えるひとつの手段が働き方改革だ。働き方改革は、労働時間を規制することで労働者の待遇改善を目指すものであり、形を変えた規制の強化ともいえる。

 目的は労働者の待遇を改善することだが、企業側には労働生産性の向上を促す効果も期待されている。労働生産性が向上しなければ、人件費の上昇に対して収益を上げることができず、逆に収益が上がらないまま人件費だけが増え、企業全体の収益にも悪影響を及ぼすことになる。

 現在、働き方改革は始まったばかりであり、企業収益への影響はまだわからない。これからの進展に注目する必要がある。

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