もう“負の遺産”とは呼ばせない! JR難波駅直結「大阪シティエアターミナル」 なにわ筋線開通で大化けするかもしれない

ミナミの騒がしさから取り残されたOCAT

JR難波駅で発車を待つ王寺行き普通列車(画像:高田泰)

JR難波駅で発車を待つ王寺行き普通列車(画像:高田泰)

 経営破たんして大阪市の“負の遺産”と呼ばれていたミナミの大阪シティエアターミナル(OCAT)が大化けする可能性が出てきた。2031年になにわ筋線開業するからだ。

 1階のテナントゾーンはランチタイムの飲食店を除いて客足もまばら。地下のJR難波駅は奈良県の王寺駅(王寺町)へ向かう関西本線の列車がガラガラの状態で出発する。9月上旬の平日昼どきに訪ねた大阪市浪速区湊町のOCATは、訪日外国人観光客が集まるミナミの騒がしさから取り残されていた。

 OCATは鉄骨鉄筋コンクリート地下4階、地上6階建て延べ約7万9000平方メートル。1996(平成8)年に湊町地区再開発「ルネッサなんば」の核施設として開業した。大阪市の第三セクター・湊町開発センターが運営している複合商業施設だ。

 地下1階にJR難波駅、地上2階に関西空港、伊丹空港へ向かうリムジンバス、北は仙台市から南は熊本市まで1日約240便の高速バスが発着するバスターミナルがあるほか、飲食店や物販店、健診センター、オフィス、大阪市の出先機関など約100のテナントが入居する。だが、バスターミナル以外はそれほどにぎわいを感じられない。

ミナミの騒がしさから取り残されたOCAT

JR難波駅の位置(画像:OpenStreetMap)

JR難波駅の位置(画像:OpenStreetMap)

 なかでも関西本線の終点となるJR難波駅は、2022年度の1日平均乗車人員が約1万8000人。JR西日本がミナミに開設する唯一の駅なのに、

・大阪メトロなんば駅:約15万人
・南海難波駅:約8万人
・阪神大阪難波駅:約6万3000人
・近鉄大阪難波駅:約5万5000人

に遠く及ばない。

 ミナミの繁華街から西へ500mほど離れているうえ、大阪環状線の今宮駅から分岐する枝線で、関西本線の列車しか運行しないことが利用の増加を妨げている。ダイヤも日中だと

「15分に1本」

速達列車は朝夕に王寺駅や奈良市の奈良駅へ向かう快速しかない。

 JR難波駅で王寺行き列車に乗り込んだ大阪府八尾市の女性(66歳)は

「混雑しないからよく乗るけど、大阪の中心部にある駅でこの状態はもったいない。梅田までつながればもっと多くの人が利用するのに」

と残念そうだった。

国際化の夢、空振りの現実

バスターミナルに発着する関西空港行きのリムジンバス(画像:高田泰)

バスターミナルに発着する関西空港行きのリムジンバス(画像:高田泰)

 OCATの歴史は挫折の連続だった。湊町地区の再開発は1994(平成6)年の関西空港開港を受け、JR難波駅を地下化した際に実施された。これに先立ち、名称も湊町駅からJR難波駅に改められている。

 OCATが目指したのは、空の新時代を迎えた大阪の新しいシンボル。1階には日本だけでなく、海外の航空会社も含めた12社のチェックインカウンターが並び、関西空港と伊丹空港の搭乗手続きができた。

 JR難波駅からは関空快速が発着する。荷物を預ければ手ぶらで海外へ。当時のパンフレットには

「大阪がさらなる国際化へ旅立つ出発駅」

の文字が躍る。館内には旅の総合情報館など搭乗客向けの施設もあった。

 しかし、事は思惑通りに運ばなかった。関空快速は南海電鉄の関空特急に押され、当初予測の乗客を集められない。バブル崩壊後の景気低迷が長引き、商業施設の売り上げも低調に推移したまま。湊町開発センターは開業以来、赤字が続き、立て直しに奔走していた。

9.11テロが消し去った当初目標

1985年頃のJR難波駅周辺(左)と現在(画像:国土地理院、今昔マップ)

1985年頃のJR難波駅周辺(左)と現在(画像:国土地理院、今昔マップ)

 そんな最中の2001年、突然の悲報が追い打ちをかける。イスラム過激派組織のアルカイダが引き起こした9.11米同時多発テロだ。

 米国到着便はセキュリティー強化のため、空港以外でのチェックインが禁じられた。OCATの航空会社カウンターは相次いで閉鎖に。その後、JR難波駅始発の関空快速も2008年、廃止されている。

 湊町開発センターは2003年3月期で約95億円の債務超過に陥って経営破たんし、6月に大阪簡易裁判所へ債権放棄を求める特定調停を申し立てた。

 大阪市は当時、住之江区に整備したアジア太平洋トレードセンターなど大規模開発が軒並み失敗し、財政危機を招いていた。OCATもそのひとつに数えられ、

“負の遺産”

と呼ばれるようになる。

なにわ筋線開業で状況が一変か

なにわ筋線(画像:JR西日本)

なにわ筋線(画像:JR西日本)

 だが、苦難の時代が終わるかもしれない――。なぜならJR難波駅に

「なにわ筋線」

が接続されるからだ。なにわ筋線は大阪駅から西区に新設される西本町駅(仮称)までJR西日本と南海電鉄が共同運行し、その後分岐して南海電鉄は浪速区に新設される南海新難波駅(仮称)を経由して西成区の南海新今宮駅、JR西日本はJR難波駅へ向かう。

 JR難波駅は地下化の際、ホームを終着駅によく見られる湊町駅時代の櫛(くし)型から延伸が可能な島型に切り替えた。将来のなにわ筋線接続を見越した措置だ。湊町開発センターは

「ミナミが通過点になり、埋没する不安もあるが、それを克服できればOCATにより多くの人が集まるはず。大きなビジネスチャンスがやってくる」

と夢を膨らませている。

 湊町開発センターは主力のバスターミナルで発着路線の拡大に力を入れる一方、屋上に貸農園を整備するなど地元密着のビジネスも進めている。その結果、大阪市が損失補償を約束した債務残高は、2023年度末で26億円まで減少した。

西側開発、ミナミ再生の鍵

客足もまばらな1階のテナントゾーン(画像:高田泰)

客足もまばらな1階のテナントゾーン(画像:高田泰)

 大阪市市政改革室は

「7月に開かれた第三セクター会社の経営監視会議では、資金残高の年度目標が達成されるなど経営改善が順調に進んでいることを確認した。なにわ筋線の開業でOCATが大化けすることを期待している」

と目を細めた。

 南海新難波駅は御堂筋西側のOCATから歩いて5分ほどの位置に新設される。

 ミナミはこれまで御堂筋より東に人が集まる場所が多かったが、西側にも光が当たる時代が来ようとしている。

 湊町開発センターはこの好機をどう生かすのだろうか。

ジャンルで探す