京阪電鉄、大阪・枚方市の未来を賭けた「駅前再開発」は成功するか? 本社も移転、人口減少からの脱却なるのか

京阪電鉄が枚方市駅前に本社移転へ

枚方市駅に到着した出町柳駅行き快速急行(画像:高田泰)

枚方市駅に到着した出町柳駅行き快速急行(画像:高田泰)

 大阪府北東部、枚方市の京阪電鉄枚方市駅前に誕生した複合施設で9月6日、商業施設が開業し、13日に京阪電鉄が本社を移す。京阪グループが本気を見せた再開発は街をどう変えるのか。枚方市駅を出ると京阪本線と交野線、天野川に囲まれた一角にそびえ立つ巨大なビルが目に飛び込んでくる。高さ126m、延べ床面積約9万4000平方メートル。複合施設「ステーションヒル枚方」(枚方市岡東町)は、東京や大阪の一等地にあってもおかしくない規模で周囲を圧倒する。

 4階建ての基盤部の上に10~29階建てのタワー3本が並ぶ構造。中高層部の賃貸住宅やオフィスは6月から入居が始まり、最上階の「カンデオホテルズ大阪枚方」は6月末に開業した。低層部の商業施設「枚方モール」は約80店を集めて9月6日にオープンする。一体化して運営する既存の高架下商業施設を含めると約100の店舗数だ。

 そのあとは9月13日に京阪電鉄本社が移転してくるほか、枚方市の駅前行政サービスフロアが9月17日、大阪府の北河内府民センターが10~11月に登場する。住民の利便性を高め、地域のにぎわいを創出する施設が一堂に集まる。

 事業は枚方市駅周辺地区市街地再開発組合が進めたが、枚方市が市駅周辺まち活性化部を庁内に設けて全面支援しているほか、京阪グループは京阪ホールディングス(HD)、京阪電鉄、京阪電鉄不動産が再開発組合に参加している。

京阪の拠点、枚方市再開発

枚方市の位置(画像:OpenStreetMap)

枚方市の位置(画像:OpenStreetMap)

 枚方市駅は大阪市と京都市の中間に位置し、大阪市の京橋駅(城東、都島区)から京都市の七条駅(東山区)までノンストップで走る快速特急「洛楽」を除く全車両が停車する。

 乗降人員も2022年で約8万3000人を数え、大阪市の京橋駅、淀屋橋駅(中央区)に次いで多い。しかも、京阪HDと京阪電鉄は登記簿上の本店を枚方市に置いている。

 京阪電鉄は

「枚方は京阪グループが大切にしてきた街で、沿線の中核。単なる拠点開発に終わらせず、若い世代が定住するなど人が集まって街全体を活性化する方向で再開発を進めてきた」

と説明した。

宿場町からベッドタウンへ

1928(昭和3)年の枚方市駅周辺(左)と現在(画像:国土地理院、今昔マップ)

1928(昭和3)年の枚方市駅周辺(左)と現在(画像:国土地理院、今昔マップ)

 枚方市は江戸時代、京と大坂を結ぶ京街道の宿場町として栄えた。

 京阪本線はおおむね、京街道に沿って大阪市の淀屋橋駅から京都市の三条駅(東山区)まで走り、三条駅から出町柳駅(左京区)へ延びる鴨東(おうとう)線と一体運用されている。

 枚方市は大阪市のベッドタウンとして発展し、1970(昭和45)年からの40年間で人口がほぼ倍増した。今も枚方市駅周辺を歩くと、通勤の若いサラリーマンやOL、子育て中の家族が多く見られ、大都市圏郊外の拠点らしいにぎわいを感じられる。

 だが、人口減少の波は枚方にも押し寄せてきた。駅前再開発の背景には将来への不安がある。

人口減少と高齢化が進行

枚方市の将来人口推計(画像:枚方市)

枚方市の将来人口推計(画像:枚方市)

 枚方市の人口は4月現在で約39万人。中核市に指定され、大阪府内では大阪市、堺市、東大阪市、豊中市に次ぐ5位に入る。

 淀川南岸に位置する北河内地方の中心都市だが、人口は2009年の約41万人をピークに微減傾向が続く。

 大阪府社会福祉協議会によると、65歳以上が全人口に占める割合は2023年度で28.8%。周辺の地方自治体と比較して著しく高いわけではないが、同じ大阪市のベッドタウンである吹田市の23.7%、豊中市の25.8%に比べると、高齢化が進んでいる。

施設老朽化でくすむ駅前の雰囲気

商業施設が並び、バスやタクシーがひっきりなしに通る枚方市駅南口(画像:高田泰)

商業施設が並び、バスやタクシーがひっきりなしに通る枚方市駅南口(画像:高田泰)

 枚方市駅周辺は1960年代の高度経済成長期から急成長を遂げた。

 鉄道高架化や商業施設整備が進んだのは30~40年前。その後、三越枚方店、近鉄百貨店枚方店など大型店撤退が相次ぐなか、再開発の遅れから老朽化した建物が多く残り、枚方市が2010(平成22)年度に調査した時点では、築30年以上の建物が約6割を占めた。駅前からあか抜けたイメージは感じられない。

 このため、枚方市は再開発で駅前の利便性を高め、それをきっかけに街全体を変えることで将来に備えようとしている。枚方市市駅周辺まち活性化部は

「今後も周辺再開発の二の矢、三の矢を放っていきたい」

と意欲を示した。

本当のライバルは豊中市や吹田市

枚方市のライバルとされることが多い高槻市のJR高槻駅北口(画像:高田泰)

枚方市のライバルとされることが多い高槻市のJR高槻駅北口(画像:高田泰)

 テレビのバラエティー番組では、枚方市のライバルに淀川を挟んで対岸の大阪府高槻市がしばしば挙げられる。高槻市は人口約35万人の中核市。JR京都線の高槻駅、阪急京都本線の高槻市駅があり、新快速や特急が停車する。大阪市と京都市間の拠点都市になっている点は枚方市と同じだ。

 人口が微減傾向に入り、主要駅周辺に老朽化した建物が増えるなど、街を取り巻く課題も似ている。このため、高槻駅の南側では市街地再開発準備組合が発足し、1979(昭和54)年に完了した再開発施設の更新を検討している。高槻市都市づくり推進課は

「市の玄関にふさわしい姿になるよう支援したい」

としている。

 関西は東京一極集中の影響を受け、人口減少に転じたが、人の流れは大阪市中心部に当たる北区、中央区、西区、浪速区などに集中してきた。単身者や子どものいない夫婦など若い世代が職住近接を好むからだ。

 子育てに入って都心部のタワーマンションなどが手狭になると、比較的大阪市中心部に近く、昔からイメージが良い北摂地方を転居先に選ぶ傾向がある。しかし、大阪市の分析では人気の場所は高槻市など少し離れた地域ではなく、府内だと大阪市により近く、人口増加を続ける

・豊中市
・吹田市
・箕面市

になるという。

 人口減少時代を迎え、自治体は若い世代の住民獲得競争に力を入れている。枚方市にとって真のライバルになるのは、これらベッドタウンだ。再開発をきっかけにどこまで街の魅力を高められるのか、京阪グループと枚方市の力量が問われている。

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