首を挟まれた子どもが死亡! 再認識すべき「パワーウインドー」の危険性、一児のママライターが考える安全対策とは

パワーウインドーの危険

クルマの窓から顔を出す子ども(画像:写真AC)

クルマの窓から顔を出す子ども(画像:写真AC)

 2024年5月21日、東京都練馬区で悲惨な事故が起きた。クルマの後部座席に座っていた2歳の女の子が「パワーウインドー」に首を挟まれて死亡したのだ。

 このクルマを運転していたのは母親で、事故が起きた際、女の子は運転席側の後部座席に座っていた。母親は、「換気のために窓を開けた後、子どもが座っていない窓を閉めたと思う」と説明。しかし、そのとき、女の子のチャイルドシートのベルトは締められていなかったようだ。

 この状況から考えると、子どもの安全確認が十分にできていないままパワーウインドーを操作してしまったことが事故の原因ではないかと筆者(小島聖夏、フリーライター)は思う。子育て中は、ちょっとした不注意や確認不足がさまざまなトラブルを引き起こすことがあるからだ。

 こども家庭庁は、ウェブサイトで0歳から6歳(小学校入学前の未就学児)の子どもに起こりやすい事故やその予防法、もしものときの対処法をまとめた「こどもを事故から守る!事故防止ハンドブック」を公開している。そのなかには、パワーウインドーに関する注意点も記載されている。

 では、今回のようなパワーウインドーの挟み込みによる事故を防ぐためには、どのような注意が必要で、どのように使うべきだったのだろうか。1児の母でもある筆者が考えてみたい。

チャイルドシートの実態

自動車・自転車関連の事故。「こどもを事故から守る!事故防止ハンドブック」(画像:こども家庭庁)

自動車・自転車関連の事故。「こどもを事故から守る!事故防止ハンドブック」(画像:こども家庭庁)

「こどもを事故から守る!事故防止ハンドブック」によると、クルマのドアやパワーウインドーに挟まれる事故は主に0~3歳の子どもに多く見られる。この年齢の子どもは、チャイルドシートがないと車内にひとりで座ることも難しく、チャイルドシートの着用が義務付けられている。そのため、クルマ移動の際には必ずチャイルドシートに乗せなければならない。

 しかし、着実に乗せることは意外に難しい。警察庁のウェブサイトにある「チャイルドシート使用状況全国調査」(令和5年)の結果によれば、着座状況が正しかったのは次のとおりだ。

・乳幼児用:50.7%(211件中107件)
・幼児用:40.0%(220件中88件)
・学童用:53.3%(210件中112件)

全体平均では47.9%しか正しく着座できていないという結果が出ている。

 筆者も以前、チャイルドシートに子どもを乗せた際、ベルトをしっかり締めたはずなのに、子どもの体の一部がベルトから抜けてしまったことがある。このように、チャイルドシートに正しく着座させることは簡単ではない。

 この問題を回避するためには、十分に確認した上で確実にベルトを締める必要がある。その上で、運転手は車内の子どもの安全を守ることが求められる。常に安全を意識して子どもをクルマに乗せても、不注意や確認不足が原因でトラブルを引き起こすことがある。そのため、しっかり確認せずにパワーウインドーを操作してしまうと、事故が起きる可能性もある。

 では、パワーウインドーを操作する際にどのような注意が必要だったのだろうか。

事故を避ける基本知識

クルマの窓から顔を出す子ども(画像:写真AC)

クルマの窓から顔を出す子ども(画像:写真AC)

「こどもを事故から守る!事故防止ハンドブック」によると、クルマのドアやパワーウインドーに挟まれる事故を防ぐためのポイントは次のとおりだ。

・クルマのドアやパワーウインドーを閉めるときは、子どものそばで顔や手が出ていないか安全を確認してから閉める
・子どもが自分で開閉操作ができないように、ロック機能を活用する。

 これらを考えると、今回の事故を防ぐためには、まずチャイルドシートに安全に座っているかを確認し、子どもの顔や手が車外に出ていないか目視してからパワーウインドーを操作する必要があった。

 子育て中は、子どもがぐずったり急いでいたりするときに冷静に判断することが難しいこともある。しかし、この事故を通じて、筆者は子どもの安全を守るための確認がいかに大切かを再認識した。

 さらに、子どもが自分でパワーウインドーを操作してしまい、体の一部が挟まれるのを防ぐためにも、チャイルドロックを利用して子どもが操作できないようにしておくことが不可欠だろう。

事故防止の鍵、チャイルドシート講習

「チャイルドシート取付け点検講習」の告知。JAFのウェブサイトより(画像:JAF)

「チャイルドシート取付け点検講習」の告知。JAFのウェブサイトより(画像:JAF)

 クルマのパワーウインドーでのケガに関する事故について、国土交通省のウェブサイトには、独立行政法人国民生活センターが発表した数値が掲載されている。それによると、2005(平成17)年度以降の5年間に23件の事故が寄せられた。また、消費者庁と国民生活センターが管理しているデータベースでは、2009年9月以降の15年間で12件の事故が発生していることがわかった。

 このように、パワーウインドーの誤操作によって子どもの指や首が挟まれる重大な事故が起きているため、日本自動車連盟(JAF)やは2017年2月8日に軽自動車、セダン、ミニバンの3台を使用して「JAFユーザーテスト」を実施した。この実験では、軽自動車とミニバンの運転席の窓にのみ「挟み込み防止機能」(窓が上昇中に異物を感知すると窓が止まり下降する安全装置)が装備されていることが示された。その他の窓にはこの機能がないことがわかった。

 近年、コストパフォーマンスのよい軽自動車を利用する子育て世帯も増えているため、これらの事実はクルマ購入時に説明されるなど、もっと周知される必要がある。これによって、事前にチャイルドロックの必要性を認識するきっかけになるかもしれない。

 車内の事故を防ぐためには、チャイルドシートに正しく子どもを乗せることが非常に重要だ。そこで、JAFでは「チャイルドシート取付け点検講習」を各地で開催している。この講習では、JAFのインストラクターがチャイルドシートの正しい取り付け方や使用方法を教えてくれる。

 さらに、日本交通安全教育普及協会会(東京都千代田区)では「チャイルドシート指導員養成研修会」を開催している。この研修会は、交通安全教育に従事する行政機関や団体の職員、チャイルドシート販売者、交通安全指導員などを対象としており、受講者は専門的な知識を身につけ、「チャイルドシート指導員」として認定証を交付される。

 こうしたチャイルドシートの正しい取り付け方や使用法を学ぶ講習会や指導員の増加が、事故防止に役立つ可能性があるだろう。

車内事故の防止策

パワーウインドースイッチ(画像:写真AC)

パワーウインドースイッチ(画像:写真AC)

 子どもが車内で事故に遭うニュースを時折目にする。

 しかし、クルマの装備についての知識や講習会でチャイルドシートの正しい使い方を学ぶことで、防げた事故があったかもしれないと感じる。

 子育て中は忙しいことが多いが、子どもの安全を守るためには、クルマの機能を事前に理解し、どのような確認が必要かを見極めることが重要だ。

 特に、小さな子どもは予測できない行動をすることがあるため、親たちは“絶対に大丈夫”という過信を持たない方がよいだろう。

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