“カルテル”呼ばわりはもう古い? 地方の路線バスを復活させるのは「共同経営」だ

バス共同運行の三つのメリット

路線バス(画像:写真AC)

路線バス(画像:写真AC)

 同じ路線であっても、複数の会社のバスが同じバス停に到着することがある。東京でも、成城学園前駅~二子玉川駅の間で東急バスと小田急バスが、高円寺駅~赤羽駅の間や中野駅~池袋駅の間で関東バスと国際興業バスが共同運行している。

 このような運行は、

・互いの主要エリアに進出できる(自社のバスサービスの範囲が自然に拡大する)
・自社で扱うバスの台数を約半分に減らすことができる
・ダイヤを維持するために必要な運転手の数を減らすことができる

というメリットがある。

 まさに高速バスと同様ある。高速バスは運行距離が長いので、各地域の事業者が連携するのが一般的なのだ。

バス事業のカルテル問題

カルテルのイメージ(画像:写真AC)

カルテルのイメージ(画像:写真AC)

 これを市単位での協働・連携に当てはめるとなると、話は違ってくる。地方のバス事業者同士が協働・連携してバス事業を行うとなると、各方面から

「カルテルではないか」

という指摘を受けるようになった。

 カルテルについては、大学の経済学や経営学の講義で習った人も多いだろう。複数のバス事業者が互いに連絡を取り合い、本来は各事業者が独自に決めるべき

・運賃
・運行本数

を共同で取り決めるイメージだ。

 A社、B社、C社が話し合ってカルテルを結べば、競争がなくなり、3社で高いバス運賃が設定される恐れがある。最も影響を受けるのはバスを利用する生活者である。生活者は運賃の差でバス事業者を選ぶことができなくなる。また、安い運賃で利用できた区間でも高い運賃を支払わなければならなくなる。

 そのため、カルテルそのものが、生活者の利益を損なう不当な取引制限として禁止されてきた。バス事業においても、カルテルは運賃を不当につり上げ、自助努力をしない非効率な事業者を温存する可能性があり、

「悪」

とされてきた。

収入再配分の新規制

路線バス(画像:写真AC)

路線バス(画像:写真AC)

 しかし、バス事業を取り巻く長きにわたる厳しい状況により、2020年2~3月の閣議決定で

・バス事業者を特例的に独占禁止法の適用外にして一般にカルテルとなる事業者間の各種調整を可能にする
・一部の事業者が路線から撤退や減便をした際に、その収入減を補う目的で各社の運賃収入の再配分を可能にする

ことが決まった。これにより、バス事業者に対する風当たりは一変した。

「持続可能な運送サービスの提供の確保に資する取組を推進するための地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律」(2020年2月)

「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律」(同年3月)

が閣議決定済みとなった。

路線調整の成功事例

共同経営推進室のウェブサイト(画像:共同経営推進室)

共同経営推進室のウェブサイト(画像:共同経営推進室)

 共同経営の例を見てみよう。

 独占禁止法特例法を活用し、熊本市内で運行する乗り合いバス事業5社(九州産交バス・産交バス・熊本電気鉄道・熊本バス・熊本都市バス)による全国初の共同経営協定が締結された。2021年4月より開始され、業界から注目を集めている。

 共同経営の主眼は

「運行路線の調整」

である。各社の協議を経て、競合する路線の運行を分担したり、1社に移譲したりして、需給バランスを整える。各社の連携によって生まれる車両やドライバーの余力は、

・零細路線の維持
・新規路線の開拓

に活用される。

 群馬県前橋市では、関越交通、群馬中央バス、群馬バス、上信電鉄、永井運輸、日本中央バスの6社が連携し、JR前橋駅~市役所~県庁前の需要の多い区間「本町ライン」の待ち時間を最大15分に短縮するダイヤ調整を行っている。前橋市交通政策課が調整役となり、協働して利便性を図りながらバスの運行維持に努めている。

 さらに広島市内では、エイチ・ディー西広島、芸陽バス、中国JRバス、広島交通、広島電鉄、広島バス、備北交通、フォーブルの8事業者が混在しているため、場所によっては供給過多の問題も起きている。

 交通マニアなら誰でも知っているように、広島市には日本有数の路面電車網もある。区間によってはバス同士、バスと路面電車が乗客を奪い合ってきた。そのため、他都市よりも早い時期から、バス路線の共同経営についての議論が行われてきた。

 具体的には、市内中心部の過密路線を再編し、それによって余った輸送力を郊外の路線維持に振り向け、2024年から車両や施設を共同利用する方向で検討を始めている。同社は、こうした取り組みの検討結果を5~6年かけて順次実施していきたいとしている。

 広島市と8社はこの検討のなかで、電気バスや充電設備の導入・保有、バスの上下分離なども検討するという。バスの運行に新たな息吹を与える議論を期待したい。

解かれた呪縛

路線バス(画像:写真AC)

路線バス(画像:写真AC)

 政策とそれにともなう法律の支援により、カルテルの“呪縛”が解かれ、バス路線の共同経営がようやく実現しようとしている。

「三人寄れば文殊の知恵」

ではないが、バス事業は単独よりも、さまざまな関係者が知恵を出し合い、協力し合う方がうまくいく。

 全国のバス事業者もこうした動きに注目し、協働を大切にしてほしい。

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