「駅の発車メロディ」は町おこしになる? 利用客には日常でも、ファンには“特別感”という事実

SNSで広がる駅メロ人気

茅ヶ崎駅(画像:写真AC)

茅ヶ崎駅(画像:写真AC)

 近年、駅の発車メロディー(駅で列車の出発を告げるメロディー)や接近メロディー(駅で列車の接近や通過を知らせるメロディー)が増えており、これらは一般に“駅メロ”と呼ばれる。

 特に最近では、SNSや動画共有サイトでファンが各駅の駅メロを紹介し合うなど、一種の

「ミュージックツーリズム」

として注目されていると筆者(増淵敏之、文化地理学者)は感じている。ミュージックツーリズムとは、音楽ファンや地域住民が音楽を楽しみながら交流し、その土地ならではの文化や歴史などを体験することだ。

 日本では、歌詞に地名や場所を具体的に盛り込んだり、連想させたりする歌を「ご当地ソング」と呼ぶことがある。かつては音頭や小唄が観光の一環として“新民謡”として流通したが、現代ではアーティストやクリエイターの感情がより反映されるようになっている。

ミュージックツーリズムの二形態

ミュージックツーリズムの考え方。八木良太氏『ミュージックツーリズムを通じた音楽まちづくりの実践』より(画像:総務省)

ミュージックツーリズムの考え方。八木良太氏『ミュージックツーリズムを通じた音楽まちづくりの実践』より(画像:総務省)

 ミュージックツーリズムは、

・ビートルズのリバプールやロンドンなど、アーティストゆかりの地を訪ねたり、歌詞に登場する土地を巡ったりする「聖地巡礼型」
・ライブや大規模音楽フェスなど音楽イベントへの参加に象徴される「体験型」

に大別される。日本では後者が主流だが、コアな音楽ファンの間では、前者も活発化している。

 筆者は最近、JR赤羽駅を利用した。駅周辺には東洋大学のキャンパスがあり、多くの大学生を見かける。昔は昼間から飲む文化やレトロな店が印象的だったが、街は常に変化しているようだ。

 駅の5番、6番ホームでは、エレファントカシマシの曲が発車の合図として流れる。「俺たちの明日」(2007年発表)と「今宵の月のように」(1997年発表)だ。

 エレファントカシマシと赤羽の関係はファンの間でよく知られている。ボーカルの宮本浩次、ギターの石森敏行、ドラムの冨永義之の3人は赤羽台中学校に通っており、そこで1981(昭和56)年にバンドが結成され、宮本は後に加入した。そして、1986年に冨永の高校時代の同級生・ベーシストの高緑成治が加入して現在のメンバーになった。

 デビューしてからすでに35年以上、エレファントカシマシは日本のロックシーンを代表するバンドとして活躍している。

メロディーの歴史

豊後竹田駅の位置(画像:OpenStreetMap)

豊後竹田駅の位置(画像:OpenStreetMap)

 このようなメロディーが始まったのはいつ頃だろうか。

 諸説あるが、1951(昭和26)年に豊後竹田駅(大分県竹田市)で地元出身の滝廉太郎が作曲した「荒城の月」が流れた記録があるという。1970年代には、大手私鉄が発車メロディーを採用していたとされている。かつては金属音や電子音が一般的だったが、国鉄分割民営化以降、新しい試みが増えた。

 筆者の記憶に残るのは、

・JR蒲田駅「蒲田行進曲」(1997年~)
・JR高田馬場駅「鉄腕アトム」(2003年~)

である。蒲田は松竹の撮影所があり、高田馬場は手塚治虫の虫プロダクションがあったため、ご当地メロディーと呼ぶに相応しい。どちらも発車メロディーとして使用されている。

 現在、JRや私鉄を問わず、童謡からJポップまでさまざまな駅メロが広く使われている。JR茅ヶ崎駅の「希望の轍」は特に有名であり、茅ヶ崎出身の桑田佳祐率いるサザンオールスターズの1990(平成2)年の曲で、サザンビーチの向こうに見える烏帽子岩も歌詞に登場する。こちらは5、6番線の発車メロディーである。

地元愛を育む駅メロ

JR西立川駅(画像:写真AC)

JR西立川駅(画像:写真AC)

 先述のとおり、日本のミュージックツーリズムは、アーティストのゆかりの地を訪れるところまでまだ十分に成熟していない。しかしながら、駅メロはこの観光活動を補完する可能性を秘めているかもしれない。

 調べてみると、数多くの駅メロが存在するが、Jポップは著作権の問題もあってか、童謡に比べてまだ数が少ない。それでも、

・JR西立川駅:雨のスティション(荒井由実)
・JR足利駅:渡良瀬橋(森高千里)
・JR行田駅:夢伝説(スターダストレビュー)
・JR郡山駅:キセキ(GreeeeN)
・JR秋田駅:明日はきっといい日になる(高橋優)
・JR仙台駅:フォルティシモ(ハウンドドッグ)
・JR水沢江刺駅:君は天然色(大瀧詠一)
・JR高崎駅:さらば青春の光(布袋寅泰)

など、ほとんどはアーティストにゆかりのある場所であり、楽曲のモチーフとなっている。これらのメロディーはSNSや動画共有サイトで紹介され、地元の誇りを感じさせる一方、PR効果もあるに違いない。

このように、アーティストたちが地元の誇りの象徴となっている。

全国に広がる魅力

JR赤羽駅(画像:写真AC)

JR赤羽駅(画像:写真AC)

 駅メロはミュージックツーリズムの発展形と見なせるかもしれない。日常的に利用する駅の音でも、アーティストのファンにとっては特別な存在だ。

 SNSや動画共有サイトによると、ファンが駅メロを巡る旅を楽しんでいる様子が見受けられる。著作権の問題がクリアになれば、このような旅はさらに増える可能性があり、全国の駅が

「ゆかりのあるアーティストの駅メロを聴ける場所」

として魅力的になるかもしれない。

ジャンルで探す