「強い意志」が長続きしないのには"理由"があった

つらそうに腹筋をする女性

習慣化に「頑張る」は禁物です(写真:EKAKI/PIXTA)
続けたくても、続かない。健康のため、ダイエットのため、自己研鑽のために、何か新しいことを始めようと試みるものの、長続きしない。そんな経験を持つ方は多いでしょう。
でも、大丈夫です。あきらめる必要はありません。なぜなら、それはただ単に「潜在意識を味方につける」方法をとっていないから。最新の研究データとコーチングの理論を応用し、潜在意識をコントロールすれば、誰でも簡単に習慣を身につけることができます。そして、なりたい理想の自分に変われるのです。
コーチングを活用した独創的な手法で企業の人材育成・組織開発のサポートを行う三浦将氏の新刊『改訂新版 自分を変える習慣力』をもとに、仕事や人生を変える習慣化の方法を3回にわたり解説します(今回は2回目)。

科学が証明した「頑張るは禁物」

一般に、習慣を身に付けようとするときに、その成功率はあまり高くありません。

「今回は絶対禁煙する」と言って、しばらくすると、喫煙所でタバコを吸いながら、「そんなこと言ったっけ?」というような言動・行動を繰り返す人がなんと多いことか。

ダイエットすると宣言して、リバウンドなしに成功する人のなんと少ないことか。

仕事がかなりできる人でさえ、ちょっとした習慣を作ることに成功しない。実はこれ、習慣化にあたり、意志の力で頑張り過ぎたり、我慢をしたり、無理をしたりすることが原因です。

ここで強調したいのは、「意志の力は消耗する」という事実です。

つまり、意志の力で何とかやり続けようとするには、限界があるということ。さらには、意志の力が消耗すると、パフォーマンスが下がっていくということです。

フロリダ州立大学社会心理学部のロイ・バウマイスター教授が、ある実験によってこのことを明らかにしました。実験は以下のようなものでした。

教授は、学生を2つのグループに分け、それぞれのグループの前に焼きたてのチョコレートチップ入りのクッキーを置きました。1つのグループにはこのクッキーを食べることを許可し、もう1つのグループには、我慢することを強要しました。

そして、両方のグループに、難しいパズルを完成させるよう指示を出しました。

結果はどうなったかというと、クッキーを食べたグループが平均してより長くパズルに取り組めたのに対し、我慢させられたグループは、パズルへの挑戦を投げ出した学生が多くいたそうです。

我慢という意志を働かせる必要があったグループは、意志の力に消耗が認められたのです。意志の力は別の意志によって消耗していくため、習慣化を行う初期段階では、なるべく意志の力を多く使うような状態にしないことが肝心です。

まずは1つのことに集中する

さらに大事なことは、「まずは1つのことに集中する」こと。つまり、一度にあれもこれも習慣化しようとしないことです。

あれもこれも複数同時に習慣化しようとすると、それだけ意志の力の消耗も激しくなります。ビジネスパーソンであれば、仕事ですでにかなりの意志の力を使っているので、複数の習慣を作っていけるほど、その日の余力は残っていないものです。

習慣化しようとする項目の絞り込みを行い、それでも複数ある場合は、その優先順位を決めます。そして、最初に取り組む習慣を決め、それに取り掛かります。1つ目の習慣を3週間から3カ月続けたあたりで、どれだけ定着したかを確認します。

それが自分の日常でほぼオートマチックに行われるようになったと思ったら、もうそれは習慣化されたとみていいでしょう。

この時点では、その行動を続けることに、意志の力をほとんど使わない状態なので、意志の力の消耗もほとんどありません。この状態になったら、次の習慣を始めることができます。

そして、2つ目もオートマチックになったら、ちょっと休憩を挟みながら、3つ目に取り掛かるといった具合で進めていくのがおすすめです。

習慣化を1つずつ確実に成功していくことは、小さな成功体験を積み重ねるという意味でもとても重要です。1つひとつの習慣を作り上げていくと同時に、小さな成功体験によって、自己効力感や自己肯定感を上げていくという優れた戦略でもあります。

三日坊主の人にある特徴

苦痛の感情を作らない。

習慣化を達成するためには、頑張り過ぎないことが鉄則です。世の中には、つい頑張り過ぎてしまう人がたくさんいます。「何事も達成するためには頑張らなくてはいけない」という考え方がとてもしっくりくる人です。

ただ、ついそう考えてしまうのも、実は、あなたの潜在意識の中にある「価値観」という名のプログラムのせいなのです。

しかし、習慣化には、ちょっと力を抜いて、リラックスして臨むくらいがちょうどいいのです。三日坊主の人は、最初の3日間無理して頑張り過ぎて、続けることが苦痛になってやめてしまうケースがほとんどですから。

「頑張り過ぎない方がいい」というのには、理由があります。いい気分で頑張れるうちはいいのですが、なにせ習慣化というのは毎日続く活動。いつもモチベーションの高い日ばかりではありません。

「頑張るモード」の日々だと、やがてそれをやることが苦痛の感情と結び付いていきます。そうなると、毎日相当な意志の力を働かせて、頑張る必要が出てきます。

意志の力は天然資源のように限りあるものですから、消耗します。頑張って、苦痛の中で意志の力を使い過ぎると、継続することができなくなるのは当たり前です。

そして、この苦痛の感情が、潜在意識の安全安心欲求をへたな具合に刺激し、潜在意識の持つ強烈なパワーによって、変化への抵抗となってくるのです。

習慣化において、この苦痛の感情を作らないことが、潜在意識をうまくコントロールする秘訣です。

例えば、あまり運動をやっていなかった人が、健康とダイエットのために、毎朝10キロのランニングを習慣化しようとしたとします。

■1日目:初日なので、気合いが入っています。普段運動していない身にとってはかなりキツい。でも、なんとか走りきります。意志の力をフル稼働してやってのけます。

■2日目:朝から全身の筋肉痛に耐えながらのランニングとなります。何度も立ち止まりながら、頑張って続けます。「始めたのだからやらなきゃ」と自分自身に何度も言い聞かせながら。そして、なんとか完走。心身ともにかなりヘトヘトです。

■3日目:重い気分で朝がスタート。昨日感じた筋肉痛も増しています。ランニングシューズを履くことにすら、心理的な抵抗を感じるようになっています。「何で始めちゃったんだろう?」とため息をつきながら、重い足取りで家を出ます。

走りながら見える風景さえ、この苦痛の感覚と結び付いている感じがしてきます。潜在意識の強烈な抵抗にあいながら、意志の力で踏ん張ります。体と気持ちが重いせいか、10キロが果てしない距離のように感じてきます。

でも、「何事も達成するためには頑張らなくてはいけない」と自分に言い聞かせて、無理して走り続けます。意志の力は、もうあまり残っていません。やがて、倒れ込むように帰宅。これから仕事に向かうパワーが、自分の中から出てくる自信もありません。

■そして、4日目:目覚ましが鳴っているのに、布団の中に居続ける状態。ランニングの習慣化の努力は、虚しく3日で途切れました。

現実的ではない目標は続かない

実は、これはかつての、私自身の失敗体験です。

『改訂新版 自分を変える習慣力』書影

そもそも、この目標設定は、頑張り続けないと達成できないハードルの高いものでした。普段ろくに運動もしないような人間が、毎日10キロ走るというのは、現実的ではありません。自分に鞭を打ち、甘えようとする気持ちに打ち勝てる人間でなければ、達成できない目標です。今から思い返しても、無謀な計画でした。そして、私にはよくない思い込みがありました。

そう、「何事も達成するためには頑張らなくてはいけない」という思い込みが。この思い込みゆえに、「相当頑張ってやっと達成できるような目標設定でないと、効果や意味がない」という思い込みも同時に持っていました。だから、毎日1キロではなく、10キロという設定をしたわけです。

習慣化の計画でこれをやってしまうと、潜在意識の抵抗にあって長続きしません。そして、失敗がたび重なると、自己効力感、「できる感」も、どんどん落ちていく結果になり、不用意に自分を責めてしまうことも少なくありません。

(三浦 将 : 人材育成・組織開発コンサルタント/エグゼクティブコーチ)

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