なぜ物価高で国民生活が大変でも政府・財務省は絶対に消費税を下げないの?「10年間で税収全体では26.3兆円増えて1.6倍に…」生島ヒロシ×岩本さゆみ

(写真提供:Photo AC)
2024年4月29日、外国為替市場の円相場が約34年ぶりに一時1ドル=160円台となりました。歴史的な円安が続くなか、経済評論家の岩本さゆみさんは「日本経済はまだまだ十分に底力がある」と話します。そこで今回は、ファイナンシャルプランナーの資格を持つパーソナリティの生島ヒロシさんと岩本さんの共著『日本経済 本当はどうなってる?』から一部を、お二人の対談形式でお届けします。

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【図】租税及び印紙収入概算の税額と収入全体に占める比率。消費税の比率を見てみると…

重くなる税+社会保険料の国民負担率

消費税は政府にとって「打ち出の小槌」?

生島 「日本は借金だらけで問題だ!」というのは、負債の面からだけ見たもので、資産と負債の両面から見れば、日本は世界一資産を保有している国になり、日本の経済状況は決して悲観的なばかりではありません。

とするとですよ、よく「財政状況が厳しいから増税もやむを得ない」という流れで語られたりしますが、物価が上がって国民生活が大変なんですから、ここは思い切って「消費税の減税」をすべきだと思うんですね。消費税を下げれば、個人消費が上がって景気も上がると思うんですが、いかがでしょうか?

岩本 少子高齢化ですから、一人あたりの消費を維持する、あるいは増やすことを考えると、消費税を引き下げれば個人消費にはダイレクトに跳ね返ります。景気対策として一番手っ取り早いというのはおっしゃる通りだと思います。

生島 しかし、日本の政府・財務省は頑として消費税を下げることはしたがらないですよね。その理由は何なんでしょうか?

岩本 放漫財政を許さない、財政規律を国民に意識させるのには、消費税のアップが効果的というのがあるのかもしれません。

税金を「取る側」の実感

生島 消費税は福祉目的に充てられる税なので、少子高齢化で福祉にこれからますますお金がかかる日本では、下げることが難しいという意見を言う人もいるのですが?

岩本 そういった側面はもちろんありますし、事実として社会福祉の基盤を下支えしている面もあります。ただ、お金に色はついておりませんので、どうしても必要というなら消費税の増税にこだわる必要はなく、法人税、所得税など他の税金の増税で、あるいは国債を発行して財源を賄うこともできますよね。

『日本経済 本当はどうなってる?』(著:生島ヒロシ・岩本さゆみ/青春出版社)

かつて消費税導入が決まった際に、自由民主党の政務調査会長や大蔵大臣も務めた渡辺美智雄氏が「これで打ち出の小槌が手に入った!」とたいそう喜んでいたそうです。当時記者として担当していた方から直接お聞きしました。税金を取る側としては、まさにこれが消費税の実感なのではないでしょうか。

生島 なぬっ? 消費税は打ち出の小槌!?

岩本 はい、言いえて妙ですよね。OECDの2年に一度の対日経済審査の報告によると、OECDは以前から日本の消費税率10%はOECD各国の平均の税率より低いことから、引き上げをせよとのスタンスです。

ただ、今回の公表の際の記者会見では、相変わらず消費税率の段階的な引き上げに触れてはいたものの、日本の対GDPの税収比率がOECD平均(2021年、日本33.1%、OECD平均34.1%)とほぼ一緒であることを指摘。税率のさらなるアップを強調するよりも、「政府支出をもっと効率的に」、税の変更をするなら「経済成長ありきで」と繰り返していたのが印象的でした。

生島 そうですよ。経済成長がまず先ですよ!

バブル崩壊後の経済低迷

岩本 日本のバブル崩壊直後はひたすら経済が縮小するような状態となり、そのあおりでその後の経済成長も低迷し、企業からも個人からも税収が思うように上がってこない時期が長く続きました。

そのため、政府・財務省としては高齢化が加速する時期が重なったこともあり、社会保障費の増えるスピードを考えると、減税して税収を落とすようなことはしたくない、といった意向が強く働いてきたのだと思います。

生島ヒロシ

生島ヒロシ「この間ずっと、ひたすら増税や社会保障費の引き上げ一辺倒で、庶民の負担が増えるばかり」(写真提供:青春出版社)

生島 なるほど。

岩本 しかし、このところの税収は、当初予算と比較して2021年度は9.6兆円、2022年度は5.9兆円の上振れとなっています。

世界的なインフレの流れと同様に、日本経済も過去30年とフェーズが変わり、マイルドな経済成長やインフレをともなっての税収増が期待できる段階になってきたととらえることもできると思います。そういった発想の転換があるとよいのですが。

消費税の税収は大きく増加

生島 それなのに、この間ずっと、ひたすら増税や社会保障費の引き上げ一辺倒で、庶民の負担が増えるばかりです。

岩本 そうですね。令和5(2023)年度の租税及び印紙収入概算(一般会計当初予算)の合計は69.4兆円で、その8割を所得税、法人税、消費税が占めています。なかでも消費税の23.4兆円は33.7%と最も割合が大きいです。

遡ること10年前、消費税が5%だった平成25(2013)年度の当初予算は43.1兆円で、当時もやはり消費税・所得税・法人税で収入の8割を占めていましたが、消費税収は10.6兆円で比率としては24.6%でした(図表)。

生島 この10年間で、消費税の税収はそんなに増えていたんですか。

岩本 はい。10年で税収全体では26.3兆円増え、1.6倍となりました。この間、日本の経済規模も拡大しましたので、税収もその分大きくなるというのはわかるのですが、それぞれの税収が同じような増加率で増えているならまだしも、内訳を見ると所得税収は1.5倍、法人税収は1.7倍なのに、消費税収だけが2.2倍に伸びています。

この10年で消費税収の増加が大きく、つまるところ庶民の負担が大きくなった証左といえるのではないでしょうか。

※本稿は、『日本経済 本当はどうなってる?』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

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