そもそも円安・物価高の根本的な原因とは?「実はコロナ以降<価格が上がりやすいフェーズ>に入っていて…」生島ヒロシ×岩本さゆみ

生島ヒロシ

(写真提供:青春出版社)
2024年4月29日、外国為替市場の円相場が約34年ぶりに一時1ドル=160円台となりました。歴史的な円安が続くなか、経済評論家の岩本さゆみさんは「日本経済はまだまだ十分に底力がある」と話します。そこで今回は、ファイナンシャルプランナーの資格を持つパーソナリティの生島ヒロシさんと岩本さんの共著『日本経済 本当はどうなってる?』から一部を、お二人の対談形式でお届けします。

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【図】コロナ禍での消費者物価指数の推移を見てみると…

コロナ以前・以後で世界経済のフェーズが変わった!?

生島 日本は国としては世界一お金(資産)を持っているし、企業も個人も十分に蓄えがあるそうですが、ここ数年、あれも値上げ、これも値上げのオンパレードで、国民生活はどんどん厳しくなっている印象です。この日本の物価上昇って、世界と比べてどうなんでしょうか?

岩本 物価上昇率だけで見ると、世界と比べれば「まだマシなほう」ということは言えると思います。実際、ロンドン在住の私の知り合いは2022年は年間の光熱費・食費が前の年に比べて3割、4割増しになったと嘆いていました。

生島 世界と比べるとこれでもマイルドなんだ。

岩本 2024年の春闘は30年ぶりの高水準といった話がようやく出てきましたが、これまで積極的に人への投資がされてこなかったこともあって、足元の物価上昇になかなか賃金アップが追いついていない状況です。そこに追い打ちをかけるような、急激な円安による輸入物価の上昇となれば、やはり家計は圧迫されますよね。

生島 ですよねぇ。

岩本 さらに、長期的かつ世界的な物価傾向を考えると、コロナ以前・以降ではフェーズが変わったのではないかと私は見ています。

生島 フェーズが変わったというと?

岩本 冷戦終結からコロナまでの30年は、グローバル経済の名のもとに国境の垣根が低くなった時代です。人もモノも情報もお金も、行き来がしやすい時代でした。

生島 ボーダレスの時代!

岩本 米中の覇権争いはコロナ以前からありましたが、安全保障のためとされる輸出管理規則が敷かれました。

最近になってEV(電気自動車)の問題が何かと取り沙汰されるようになりましたが、コロナ後に米国ではインフレ抑制法(米国、カナダ、メキシコにEVの最終組み立て拠点を置くことで税控除が受けられる)ができ、米中の動きに対抗するように、EUではグリーン・ディール産業計画(欧州の気候変動目標を達成するためのEU域内の経済支援策)などが出てきました。

また「西側諸国」vs「(一枚岩ではないものの)中露」という構図もあり、世界中のあちらこちらでいわばブロック経済化のようなものが少しずつ進んでいます。

物価上昇の根本的な原因

生島 ボーダレスの逆を行く流れになってきているんですね。

岩本 はい。そうなると、国境を越えるのに関税がかかります。輸送コストもアップします。以前の30年のような経済がグローバル化し、安さが求められ、実際に値段が安くなった時代とは大きく変わって、価格が上がりやすいフェーズに入ったという見方もできませんか?

『日本経済 本当はどうなってる?』(著:生島ヒロシ・岩本さゆみ/青春出版社)

生島 経済トレンドの潮目が変わったのですね。

岩本 その可能性があるように思います。その上で、目先の世界的な急激な物価上昇のピークは2022年で、2023年に入ってからは落ち着きを取り戻しつつある、という状況が見受けられます(下図表)。

生島 なぜこんなに物価が上がっているのか、その根本的な原因は何なんでしょうか?

岩本 すでに多くの指摘がありますが、日本の場合は円安とエネルギーコストの上昇など複合的な要因が、日銀の金融政策とも相まって、という状況があったと思います。

まずは新型コロナウイルスの感染拡大によりモノやサービスの提供が滞ったところに、感染症の終息とともに世界中で一気に需要が噴出し、供給が追い付かなくなってしまいました。そこにロシアによるウクライナ侵略があり、世界的な供給危機から、穀物のほか、原油やLNG(液化天然ガス)といったエネルギー資源などの国際価格が大きく上昇、食糧やエネルギーの多くを輸入に頼る日本では、それがモノの値段にも跳ね返ることになりました。

さらに、足元のインフレ懸念から主要各国は急激な政策金利の引き上げを実施しましたが、日本だけはマイナス金利を継続したことで各国との金利差から円売りが発生、円安で輸入物価がさらに上昇することになりました。

「貿易赤字」も円安を加速させた要因

生島 為替って、2つの国の金利差が大きく関わってくるんですよね。2022年からの円安の流れは、金利の安い日本から、金利の高いアメリカにお金が流れていった。その結果、円を売ってドルを買う流れになったため、円安になったということですよね。

岩本 そうですね。水は高いほうから低いほうへ流れていきますが、お金の流れは逆で、金利の低いほうから高いほうへと流れていきます。それとともに、貿易赤字も円安を加速させた要因の一つでしょう。

岩本さゆみ

岩本さゆみ「日本はマイナス金利を継続したことで各国との金利差から円売りが発生、円安で輸入物価がさらに上昇することに」(写真提供:青春出版社)

生島 2022年は日本の貿易赤字が過去最大になったというニュースもありましたけど、それも円安に関係しているんですか?

岩本 そうですね、2022年の貿易赤字は鉱物性燃料(石炭、石油、LNGなど)の輸入価格が上がったことが赤字の主な原因とされていますが、日本の貿易収支の赤字傾向は、実は2011年頃から目立つようになりました。

なぜ貿易赤字になると円安になるのか?

生島 日本はメイドインジャパンの優れた製品を、外国にじゃんじゃん売ることで儲かってきた貿易立国だったはずですが、今はそうではなくなってきているんですね。でも、なんで貿易赤字になると円安になるんですか?

岩本 端的に、教科書的に言うなら、貿易収支が黒字であれば、相手国から受け取る外貨が増え、受け取った外貨を円に替えるための外貨売り・円買い需要が発生して円高になりやすいです。逆に赤字となれば、海外への支払いのための外貨買い・円売り需要が発生し円安になりやすい、となります。

生島 なるほど。

岩本 実際に、貿易収支と為替レートの関係を見ても(下図表)、2011年に貿易収支が黒字から赤字へ、赤字幅が広がった2013年を経て、再度黒字転換する2015年上期まで、ドル円為替レートは75円から125円台にまで円安が進みました。

日本の貿易収支とドル円の為替レートの推移<『日本経済 本当はどうなってる?』より>

また、直近を見ても、貿易黒字から赤字に転換した21年下期は100円台、今回の貿易赤字のピークは2022年で、23年上期は縮小したものの赤字のままで、この間に151円まで円安が進みました。

生島 本当だ、見事に連動している。

岩本 もちろん、貿易収支だけが為替を決定する要因ではありませんが、一つの要素になっているとは言えそうです。

生島 貿易赤字と円安にはそんな関係があるんですね。

※本稿は、『日本経済 本当はどうなってる?』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

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