なぜ日本は世界一資産を持っているのに国民は<恩恵>を受けられない?「財源不足だから負担増、との言説はほどほどにしないと…」生島ヒロシ×岩本さゆみ

(写真提供:青春出版社)
2024年4月29日、外国為替市場の円相場が約34年ぶりに一時1ドル=160円台となりました。歴史的な円安が続くなか、経済評論家の岩本さゆみさんは「日本経済はまだまだ十分に底力がある」と話します。そこで今回は、ファイナンシャルプランナーの資格を持つパーソナリティの生島ヒロシさんと岩本さんの共著『日本経済 本当はどうなってる?』から一部を、お二人の対談形式でお届けします。

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【写真】生島ヒロシさん「国は資産をたくさん持っているんだから、国民に負担を強いるばかりじゃくて、もっと上手に使ってほしい」

なぜ多くの国民はその恩恵を受けられないのか

生島 日本は、国も個人も企業も、お金があるところにはある。でも、なぜか我々国民はその恩恵を受けていない気がするんですが?

岩本 それについては、例えば、国の問題で言うと、対外純資産が多いということは、国内に向かわずお金が海外へと回っている、ということでもあります。資産を世界一持っているのは間違いないのですが、国内で有効に使われずに海外へと出て行ってしまうという、お金の流れ方に問題がありますね。

生島 なるほど。

岩本 企業の問題で言うと、90年代後半以降、バブル崩壊の影響で債務の圧縮に迫られ、貸しはがしなどもありました。いざという時のための現預金や内部留保(利益剰余金)は伸びましたが、人件費や設備投資にはお金が十分に回らないままとなっていた、ということもあると思います。

企業が生み出す付加価値について、働く人がどれだけ配分をされているかを見る指標に「労働分配率」があります。労働分配率が低下傾向にあるのは日本だけではなく、先進各国で見受けられる傾向となります(下図表)。

国際的に見た労働分配率の低下傾向<『日本経済 本当はどうなってる?』より>

生島 賃金に回っていないわけですね。

日本の「可処分所得」の現状

岩本 同資料では、先進国の1人あたり実質賃金の推移を比べているのですが、1991年から2019年にかけて、英国は1.48倍、米国は1.41倍、フランスとドイツは1.34倍に上昇したのに対して、日本は1.05倍。

そんな中での家計消費ですが、1990年から2019年にかけて、米国は2.16倍、英国は1.90倍、フランスは1.55倍、ドイツは1.42倍。対して、日本の家計消費は1.3倍の伸びです。

『日本経済 本当はどうなってる?』(著:生島ヒロシ・岩本さゆみ/青春出版社)

生島 賃金も伸びていないけど、家計消費も先進国の中では低い!

岩本 収入から税金や社会保険料などを差し引いた、自分で自由に使えるお金(可処分所得)が伸びれば家計消費も伸びるのですが、日本の場合はその可処分所得が伸びてこない状態です。

生島 賃金が伸びてないからですか?

岩本 それもありますが、現役世代の所得水準の低下、シニア層が非正規など低い賃金へとシフトしたこと、消費額が少なくなる高齢者世帯の増加といったことが消費を抑制している側面があると考えられます。

雇用者報酬と可処分所得の伸び率を見ると、雇用者報酬そのものは控えめではありますが伸びているにもかかわらず、可処分所得の伸び率は低い状態です。

一番の原因は?

生島 なぜこうした状況になるんでしょう?

岩本 例えば、雇用者報酬は2010年から2021年にかけて増加していますが、所得税、社会保険料の負担のほうも増加しています。その結果、可処分所得の増加は緩やかなものになっています。また2014年と2019年には消費税の増税がありましたので、実際に自由に使える実質の可処分所得はもっと少なかったという指摘もされています。

生島 税金や社会保険料の負担が上がっているのが、一番の原因なんですね。

岩本 賃金の伸び悩み、社会保障や税金の負担増、そして足元の物価高もあり、世界最大の資産国でありながら、庶民としてはその実感がないというのが実情と思われます。

バランスの良い分配にも目を向けて

生島 う~ん、国は資産をたくさん持っているんだから、国民に負担を強いるばかりじゃくて、もっと上手に使ってほしいですね。

岩本 はい。資産はあるのですから、いたずらに国民を不安にさせて、日本が破綻しかねないから増税を、財源不足だから負担増を、といった言説はほどほどにしていただいて、成長につながるようなバランスの良い分配にも目を向けてもらえたらと思います。

生島 そうだ、そうだ!

※本稿は、『日本経済 本当はどうなってる?』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

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