ああ、発車前の「上野駅13番線」だ… 茨城の寝台特急「北斗星」に宿泊 音と揺れと“めちゃ効く冷房”で思い出した!!

茨城県の乗りものパーク「ユメノバ」内には寝台特急「北斗星」が展示されています。なんと宿泊もでき、真夏の夜に1泊したところ、往年の夜行列車旅が思い起こされました。

「ユメノバ」 1泊料金に驚き

 東京ドーム22個分の広大なエリアを利用して茨城県筑西市に創られた、自然・健康・文化の郷(まち)「ザ・ヒロサワ・シティ」には、「廣澤美術館」や「下館ゴルフ倶楽部」などの様々な施設が整備されています。そして、このエリアに2024年2月11日、陸・海・空・宇宙をテーマとした「ユメノバ」がオープンしました。
 
 ユメノバの各展示館には貴重な乗りものが展示され、鉄道車両エリアとなっている屋外スペースには、E2系新幹線電車、D51形機関車と並んで寝台特急「北斗星」が展示されています。

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薄暮に包まれた夕刻、テールサインやテールライトも点灯し、夜行列車の雰囲気が醸し出されていた。消防法により貫通扉は非常口となった(2024年8月、吉永陽一撮影)。

 編成はEF81 138号機、1号車オロハネ24 551(A・B寝台車)、2号車スシ24 505(食堂車「グランシャリオ」)、3号車オハ25 503(ロビーカー)、4号車オハネフ25 12(B寝台)の5両編成です。このうち、2015(平成27)年8月23日着の札幌発上野行きラストランに使用された車両はオロハネ24とオハ25で、オハネフ25は2015年7月30日、上野発下り「北斗星」の編成に組まれた車両です。

 この北斗星は室内見学も可能ですが、実は宿泊することもできます。ただし貸切のみの宿泊となり、金額は1泊2日で税込み20万円。ちょっと身構えてしまう金額ですが、最大48名まで利用することができ、豪勢に1人で貸し切っても良し、48人までメンバーを集めても良し。筆者(吉永陽一:写真作家)が参加した時は、約20名の参加者で頭割りをしました。

「北斗星」への宿泊は茨城DC(観光キャンペーン)の一環で開始され、7月から一般利用が開始されました。利用者層は鉄道ファンや元鉄道関係者など、鉄道愛好者が多く、寝台特急に乗車したことのない学生グループが宿泊体験したこともあるとか。

客車のエアコン、家庭用の比じゃない!

 宿泊に際してはアメニティ類、タオル、浴衣、スリッパが準備され、4号車のB寝台は開放式2段ベッドタイプで、上下段が使用できます。1号車のA・B寝台は個室車両で、A個室ロイヤルが2室、2人個室デュエットが7室のタイプです。どの車両を使うかは自由ですが、寝台のアメニティ類の準備などがあるため、参加人数と部屋割りの連絡は宿泊7日前までに必要です。従業員が1名常駐するため、宿泊のサポートもあります。

 利用時間は、ユメノバが閉館する17時30分から開館前の翌9時30分まで。注意点は車内のトイレ洗面所とシャワールームが使用不可のため、近くのトイレ・シャワー室を利用することです。

 ザ・ヒロサワ・シティでは、当初スシ24での食堂経営のため505号を購入し、その後「北斗星」客車3両と機関車を追加で展示。車内で宿泊可能にするため、消防法と保健所の許可を得て簡易宿泊所として登録しました。車内トイレとシャワー設備は、改造費用の関係から別棟とし、トイレまでの移動には少し距離がありますが、雨天のために傘も常備しています。

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食堂車では飲食が可能だ。別途申し込みにより夕食と朝食を注文できる。宿泊日の朝食は旅情をかきたてられる駅弁であった(2024年9月、吉永陽一撮影)。

 食堂車「グランシャリオ」では追加料金で夕食と朝食の提供があります。大変貴重となった食堂車も、設備は現役時そのまま。日没後、暖色系の照明に包まれた車内でいただく夕食は、旅情気分満点です。さすがに厨房は使えませんが、電子レンジやポット、現役当時の冷蔵庫も利用でき、持ち込み品の保存にも便利です。

 筆者が利用したのは真夏の蒸し暑い日でしたが、室内はクーラーがガンガンにかかりました。家庭用エアコンの比ではありません。「北斗星」へ給電するために440V発電機を外に設置し、車両備え付けのAU77形とAU13形クーラーをそのまま使用しているのです。

 また、オロハネ25とオハ25は貫通路の自動扉も使用でき、消防法による避難表記と追加設備以外は、現役時と何ら変わりません。100Vと200V電源をサブに使用しながら、440V電源によって客車の設備を活用し、車内も現役時の雰囲気がそのまま残っています。

台車の空気ばねも生きている?

「AU77クーラーの音が好きかどうか。上野駅13番線にて停車していた『北斗星』車内の音が苦にならなければ、大丈夫かと思います」

 と、ユメノバの野口稔夫さん。たしかにクーラーの音は大きいのですが、停車中の寝台列車の車内音はこんな感じだったなと思い出しました。鉄道旅が好きな者にとっては、クーラー音だけでも気分が高揚してきます。車内はときおり寒くなることもありますが、これも国鉄時代から使われてきたAU77形クーラーの威力ともいえましょう。

 夜の帳が下りると車窓も真っ暗で、その大きな窓からは、過ぎ去る踏切の音と、ゆっくり遠ざかる町の灯りが見えてきそうです。夜も更けてくるころ、開放式B寝台はスタッフが滅灯し、ほのかに暗い寝静まった寝台車の雰囲気も味わえます。

 ふと、誰かが歩くと若干車体が揺れるのに気がつきました。台車は空気バネが多少生きており、少し揺れるのです。この感覚は現役の車両に乗車しているリアルさがあって、保存とは分かっていても「いつか走り始めるんじゃないだろうか」と期待してしまいます。

 宿泊するにあたって大切な守りごとは、全てが一点物の設備ゆえに「傷つけない、汚さない、壊さない」こと。つい懐かしさのあまり仲間と盛り上がりますが、節度ある利用を。飲食はロビーカーや寝台でも可能ですが、保存車両という認識を忘れずに、飲酒をしても汚さぬよう心がけましょう。

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朝の開放式B寝台から。読書灯や折り畳み式テーブルも使用できる。カーテンを開くと筑波山が望めた(2024年9月、吉永陽一撮影)。

 ユメノバの「北斗星」は好評につき全日営業となっています。なお年内の利用は10月31日(木)まで。ただし、土曜は全て満室となりました。冬季は車両のメンテナンスを実施し、2025年3月15日(土)より宿泊再開となります。

「北斗星」が廃止されてから9年が過ぎました。車内設備が生きている状態で宿泊できるユメノバの「北斗星」は、今となっては貴重な郷愁体験ができる施設でしょう。申し込みはユメノバ(0296-48-7417)で受け付けています。

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