国鉄の“やる気のなさ”が元!? 個室寝台「シングルデラックス」改良史 いまや特急「サンライズ」に残るのみ

寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」の「シングルデラックス」は、2024年現在唯一のA寝台です。「シングルデラックス」は「サンライズ」で初登場したのではなく、国鉄末期に登場した設備愛称で、全部で5タイプ存在します。

当初は「サンライズ」と全く異なっていた

 A個室寝台「シングルデラックス」は2024年現在、寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」だけの設備で、「みどりの窓口」で予約できる唯一のA寝台でもあります。

 なお、我が国における最初の1人用個室寝台は、1958(昭和33)年に登場した20系客車の2等個室寝台車ナロネ20です。ナロネ20・22はレール方向に寝台が設けられた1人用個室「ルーメット」を備えた、当時の最高級寝台車でした。

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宿泊施設「ブルートレインあけぼの」で動態保存される、A個室寝台「シングルデラックス」(安藤昌季撮影)。

「ルーメット」とは、アメリカでは「トイレ付き個室」という意味ですが、日本では個室内にトイレはなく、折りたたみテーブルとなる洗面台が備わりました。ソファを前に倒すと、幅735mmの寝台になる構造で、筆者(安藤昌季:乗りものライター)は「旧狩勝峠ミュージアム」(北海道新得町)のナロネ22で体験しましたが、寝台はまずまず、昼間時のソファは極上の座り心地でした。

 20系が老朽化した1976(昭和51)年に登場した、1人用A個室寝台車オロネ25は、後に最初の「シングルデラックス」となりますが、登場時は愛称もない個室A寝台でした。枕木方向に櫛型に幅1.2m、長さ1.945mの個室14室が並ぶ構造で、当時の国鉄では最高料金設備でしたが、登場時から不評でした。

 これは、合理化方針で設計されたオロネ25が、ナロネ20より居住性で劣ったからです。座面が寝台兼用のソファは、目の前が壁で圧迫感があり、窓側に座ると洗面台兼テーブルの脚部が干渉して、まっすぐ座れない(最終ロットの2両のみ設計変更)という、国鉄末期の「やる気のなさ」を象徴する車両でした。

 寝台には、肘掛けを跳ね上げると若干寝台幅が広がるギミックがあったものの、それでも寝台幅700mmで「ルーメット」以下、B寝台と同じでした。とはいえ個室A寝台は東京駅を発着する一部の寝台特急のみの憧れの設備ではありました。

 このオロネ25は国鉄末期の1986(昭和61)年に、オーディオ機器の取り付け、寝台幅拡大などの改良が行われ、「シングルデラックス」の愛称が付きます。

シャワールームが備わりベッドも改良

 その後1989(平成元)年、寝台特急「北陸」用に改造車オロネ14形700番台として、新たな「シングルデラックス」が登場します。新「シングルデラックス」は、定員を3人減らした11人とし、個室幅を1.2mから1.46mに拡大して、圧迫感を解消しました。

 さらに、ソファを折りたたんで裏面を寝台にしたことで寝台幅も765mmに拡大、座席形状も大幅に改善されて快適になりました。洗面台も個室内の中央付近へ移動させ、窓際は足の部分が広く取られました。加えて映画などが見られるモニターとテーブル、オーディオ装置も備えました。

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最初の「シングルデラックス」となったオロネ25形客車(2005年8月、安藤昌季撮影)。

 翌年には寝台特急「あさかぜ」「瀬戸」用に、オロネ25形300番台が登場します。大きな変化は、A個室寝台客向けシャワールームの設置でした。これにより個室が1室減り、定員は10人となっています。寝台部分は「北陸」用とは異なり、座面が寝台と座席が兼用ですが、寝台幅は810mm、個室幅1.47mとより広くなりました。窓側に背もたれと肘掛けが設けられていましたが、これは補完的で、最大の特徴は「ギャッジ式ベッド」でした。

 ギャッジ式ベッドとは、寝台の通路側部分がせりあがって斜めとなることで、寝ながら姿勢を起こし、窓向けに足を伸ばして景色を眺められる寝台です。このタイプから、1・2番、3・4番など個室間を隔てる内扉も設置され、2人利用に配慮もされました。映画が見られるのは「北陸」用と同じですが、モニターにビデオデッキが備えられ、ビデオを持ちこめば好きな映画を見ることもできました。

施設の保存車で体験もできる

 そして1991(平成3)年、寝台特急「あけぼの」用としてスロネ24形550番台が登場します。この車両は寝台幅765mmのソファ転換式寝台を備えていましたが、それまでの「シングルデラックス」と異なり、寝台幅670mmの折りたたみ式の補助ベッドが備わりました。1番個室以外は内扉も設置されていましたが、例えば補助ベッドを使って連番の個室を予約すれば、最大4人利用が可能でした。最大定員22人は「シングルデラックス」としては最大です。

 シャワー室はなく、洗面台、モニター、テーブルなどの設備も「北陸」用と同じでしたが、足乗せ台となるオットマンが常備され、昼間時の居住性が向上しました。

 なお、こちらの車両は施設「ブルートレインあけぼの」(秋田県小坂町)にて動態保存され、宿泊も可能です。筆者は宿泊しましたが、一部設備が使えないものの、ほぼ現役時と同じ室内で2人利用も可能でした。現役時代の車内放送が流れるなど、非常に本物感のある施設です。

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寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」に使われる285系電車(2024年5月、安藤昌季撮影)。

 冒頭で触れた通り最後の「シングルデラックス」となっているのが、1998(平成10)年に登場した寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」のA個室寝台です。車両は新規設計の285系寝台電車。設計自由度が高く、個室はそれまでの枕木方向向きかつ平屋に対して、レール方向向きかつ2階となっています。

 個室面積も縦2.285m、横2mと広く、それまでで最大の「瀬戸」用の奥行1.99m、幅1.47mを大きく上回ります。設備は登場時、テレビ、コンセント、洗面台、サイドデスク、チェア、浴衣、寝具でしたが、テレビは後に取り外されています。

 車両にシャワー室も備わり、アメニティグッズもあるため、同一料金だった各「シングルデラックス」の中でも群を抜いてグレードの高い車両です。寝具も羽毛布団など高級品で、寝台幅850mmも「シングルデラックス」史上最大です。

 以上が「シングルデラックス」の全てですが、筆者は「サンライズ瀬戸・出雲」に後継車両が登場し、「シングルデラックス」の歴史が続いていくことを願ってやみません。

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