長ぁ~い「ダブル連結トラック」なぜ普及しない? 物流問題の切り札 メーカー担当者がこぼした課題

最大全長25m、大型トラック2台分の荷物を一度に運べる「ダブル連結トラック」の冷凍車仕様が展示されました。正式導入から5年経ち、全国走れるようになったものの、課題はまだまだ残っているようです。

運転者1人でトラック2台分の荷物をお届け

 2024年5月上旬にパシフィコ横浜で開催された「ジャパントラックショー2024」において、トラックの架装メーカーである日本トレクスが、ダブル連結トラックの冷凍車仕様(コンセプトモデル)を展示しました。

 ダブル連結トラックとは、大型トラックの後ろにほぼ同じ大きさの荷車を連結することにより、1台(両)で従来の大型トラックの2台分の貨物を運ぶことを可能にした、全長20m以上あるバン型のフルトレーラー車両です。昨今の物流業界の労働者不足のひとつの打開策として期待され、国主導の実証実験を経て2019年より本格導入されています。

 会場に展示されたダブル連結トラックは、いすゞ「ギガ」をベースにしたもので、前方は「フルトラクター」と呼ばれる4軸(前輪2軸、後輪2軸)8輪の10t低床トラック。その後方には、「ドリー」と言われる接続用の台車を介してセミ・トレーラーが牽引されていました。

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「ジャパントラックショー2024」に出展された「日本トレクス」の冷凍仕様ダブル連結トラック(布留川 司撮影)。

 フルトラクターとは一般的にあまり聞き慣れない名称ですが、通常の大型トラックに牽引装置を付けた車両のことを言います。一般的なトレーラーの場合、牽引車として「トラクター」と呼ばれるトレーラーヘッド(先頭車両)が付きますが、これは文字通り牽引のみの機能しかなく、荷台などは備えていません。それに対して、フルトラクターは自身も荷物を運ぶことができ、普通の大型トラックと同じようなロングシャシーとなっています。

 それこそが、このダブル連結トラック(バン型フルトレーラー)のキモであり、“大型トラック2台分”という輸送量を実現した最大の理由とも言えます。なお、フルトラクターの車両尾部にはドリーを接続する牽引装置と、それらにブレーキ圧や電源を牽引車両に伝えるジャンパー・ケーブル(ホース)の接続端末が装備されています。

 このように、前から見るとフルトラクターは普通のトラックと同じような出で立ちですが、後方は他の車両を牽引するための独自の架装品が取り付けられているのが大きな特徴です。

異なる会社同士のシェアリングもOK!

 ダブル連結トラックは、2017年の実験走行を経て2019年より大手運送会社によって運行が始まりました。これまでの道路交通法でもフルトラクターによって車両を牽引することはできましたが、この時の規制緩和によって全長25mの車両まで公道走行が可能になっています。

 これにより、搭載貨物が増えるだけでなく、牽引車両、すなわちトラクター側の車体についても従来のような汎用性の乏しい専用車両だけでなく、一般的なセミ・トレーラーでも牽引できるようになりました。

 今回、「日本トレクス」が出展したダブル連結トラックは「ドリー分離式」と呼ばれるもので、後ろ側の車両(被牽引車)は一般的なトレーラーで牽引されているセミ・トレーラーとまったく同じ規格となっています。

 これにより、ダブル連結トラックは途中の中継地点で前後の車両を切り離して、前側車体(フルトラクター)は単独で走行し、後ろのセミ・トレーラーは別のトレーラーヘッド(トラクター)によって異なる目的地へと移送する、といった柔軟な運行が可能となります。

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日本トレクスが提案するドリー分離式のダブル連結トラックの運行例(画像:日本トレクス)。

 従来のトラックやトレーラーでは、単独車で複数の目的地に配送を行う場合、荷物の混載や目的地ごとでの荷下ろしが必要となり、空荷の発生率低下や輸送効率の向上とは裏腹に、ドライバーには拘束時間の延長や運転以外の業務への従事など大きな負担を強いていました。ダブル連結トラックなら、車両自体の特性で運行の効率化と柔軟性を達成することができ、物流業界にとっては積載能力の増大以外にもメリットとなります。

 すでに、ドリー非分離式のトレーラーについては、ヤマト運輸、西濃運輸、日本通運、日本郵便が、神奈川県~大阪府の運行区間を使って前後車両で会社が異なる共同輸送を行っており、今後は運行をより細分化することで、さらなる効率化が図られていくことでしょう。

ダブル連結トラックの普及なぜ進まない?

 ダブル連結トラックについては行政も大きな期待を寄せているようで、2022年には走行可能な高速道路のルートが一挙に広がり、従来の2.5倍にあたる約5140kmまで拡充されています。加えて、運行を支援するためにそのルート上のSA、PAにおける駐車スペースも2023年時点で125か所269台分まで整備が進んでいます。

 ただ、肝心の運行台数については通常の大型トラックやトレーラーと比べるとまだまだ少なく、2023年6月時点では270台で、実施企業も15社に留まっています。実験走行を開始した2017年と比べれば右肩上がりで増大してはいるものの、ダブル連結トラックの輸送力を使いこなせるのは、荷物の取り扱い量が多く営業範囲も全国規模の大手企業に限られていると言えるようです。

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実証実験に参加した運送各社のダブル連結トラック(画像:国土交通省)。

 また、運行台数が増えない別の理由として、実際にダブル連結トラックの実車を触って試すことができないというのもあります。ダブル連結トラックに乗務する新規ドライバーへの講習については、そのほとんどが既に車両を導入済みの会社による自社育成で占められているといいます。

「日本トレクス」では、実際に車両に触れて運転技術向上や導入の検討を行いたい企業を対象にした「トレクスドライビングスクール」を今年(2024年)4月に開講。ここでは運転免許の取得こそできませんが、実車のハンドルを握り動かすことで運転技術を向上させることが可能です。現時点の対象車は通常のトレーラーのみですが、今後はダブル連結トラックの講習会も予定しているとのハナシでした。

 市井でも見かけることが多くなっているダブル連結トラック。さらなる普及を望むのであれば、このような車両販売以外の付随したサービスが必須であり、それこそが、ダブル連結トラックの台数増大への第一歩と言えるのかもしれません。

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