「アンモニア」こそ、明るい未来の新燃料なのか 世界初の輸送船建造プロジェクト 日本浮上のカギに?

新燃料の一つとして注目される「アンモニア」を燃料に使い、それを輸送する貨物船を建造する世界初のプロジェクトが始動しました。肝となるエンジンの開発も船の建造も日本で行い、アンモニアの活用で世界をリードする構えです。

オールジャパンで臨む世界初の「アンモニア燃料アンモニア輸送船」建造

 環境に優しい次世代燃料として世界的に注目が集まっている「アンモニア」を、世界で初めて燃料として使用するアンモニア輸送船が日本で誕生します。

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アンモニア燃料アンモニア輸送船のイメージ(画像:日本郵船)。

 日本郵船は2024年1月25日、国産エンジンによるアンモニア燃料アンモニア輸送船(AFMGC)の建造契約を締結したと発表しました。同日開かれた記者会見には日本郵船をはじめ、ジャパンエンジンコーポレーション(J-ENG)、IHI原動機、日本シップヤード(NSY)、日本海事協会(NK)の首脳が揃い、日本の海事産業を挙げて世界をリードするこの取り組みをアピールしました。

「ゼロエミッションに向けた燃料転換は好機。日本の海事産業の技術力をもって、高い環境性能、安全性を備えた船舶を国に先駆けて供給し、競争力を維持強化することが重要だ」(日本郵船 曽我貴也社長)

 今回、建造が決まった世界初のアンモニア燃料アンモニア輸送船は、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)有明事業所で建造され、2026年11月末の引き渡しを予定しています。アンモニアの積載容量は4万立方メートル。J-ENGが開発する混焼率最大95%のアンモニア2元燃料(DF)2ストロークエンジン(主機)と、IHI原動機が開発する混焼率80%以上のアンモニアDF4ストロークエンジン(補機)を搭載し、運航時に排出されるGHG(温室効果ガス)を80%以上削減することを目指しています。

 海外ブランドに対抗できる純国産のアンモニア燃料エンジンを開発し、国内で製造を行う体制を整えることは、経済安全保障に係る特定重要物資としてコア技術が国内に蓄積されることにもつながります。J-ENGではアンモニア燃料供給装置と除害装置も同時並行で開発するため、アンモニア燃料船を建造しようとしている造船所のニーズにワンストップで対応できるとしています。

 曽我社長は「単に次世代燃料船を建造するというだけではなく、大きな社会的意義がある」と強調します。

 アンモニア燃料アンモニア輸送船の開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション(GI)基金事業である「次世代船舶の開発」プロジェクトの一環として進められており、2024年6月の就航を予定しているアンモニア燃料タグボートと合わせて約84億円の助成が行われています。

「大量生産が一番しやすい」

 国をあげてアンモニア燃料船を開発する背景としては、世界的に気候変動への対策が求められている中で、国際海運のゼロエミッション化が喫緊の課題になっていることがあげられます。

 GI基金の事業は2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする目標を日本政府が宣言したことをきっかけに始まりましたが、今や日本郵船をはじめとした大手船社から、IMO(国際海事機関)のような国際的な組織まで「2050年ゼロエミッション」を掲げており、CO2(二酸化炭素)を排出しない次世代燃料に対応した船舶の実用化は早急に行わなければなりません。

 GHGの大幅な削減が可能な次世代燃料としては、合成燃料やメタノール、水素などが選択肢としてありますが、日本郵船はその中でもアンモニアに着目しました。

 これについて曽我社長は「大量生産が一番しやすいのがどれで、生産の工程が複雑か簡単か、そして世界中の港湾の中でネットワーク作りと扱いやすさを加味した中で、アンモニアが一番相応しいのではないかということになった」と説明。加えて「欧州で支持されていることの一つとして、アンモニアは水素のキャリア(輸送・貯蔵のための担体となる物質)として使うことができる点がある。燃料とは別に、アンモニアを貨物として輸送していくという需要そのものも芽生えつつある」と話します。

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日本郵船をはじめ海事関連の首脳陣が集まった記者会見(深水千翔撮影)。

 アンモニアは従来、肥料など化学原料用途での需要がその大半を占めていましたが、今後、火力発電における混焼用途や水素キャリアとしての活用が見込まれています。日本ではJERAが石炭を使用している碧南火力発電所の燃料をアンモニアへ転換する取り組みを行っているほか、IHIがアンモニア専焼ガスタービンの開発を行っており、大量の需要が生まれる発電用途への道が開かれつつあります。

 海上輸送需要も国内外で急拡大するとされており、「将来的にはアンモニアの国内需要は2030年に年間300万トン、2050年には年間で3000万トンにまで急拡大し、比例してアンモニアの海上輸送需要も増加していく」(曽我社長)との見通し。こうした点からも、燃焼してもCO2を排出しないアンモニアを燃料とする船舶を実用化することは、世界的なネットゼロエミッション達成に向けた大きな一歩と言えるでしょう。

やっぱりLNGの“次”!

 もう一つの側面として、世界に先駆けてアンモニア燃料アンモニア輸送船を実用化することで、日本の海事産業を強化するという目的があげられます。

 資源や食料の輸出入の99%を海上輸送に頼っている日本にとって、海運会社や造船所、舶用メーカーなどは必要不可欠な存在です。しかし近年は中国や韓国の大規模な造船所に押され、かつては50%以上を誇っていた新造船の世界シェアも17%まで落ち込んでいるのが現状です。発電所の燃料などに使われているLNG(液化天然ガス)の輸送船に至っては、日本で建造が行われなくなってしまいました。国産技術で建造された日本船籍の船でエネルギー資源を輸送することは経済安全保障の観点からも必要とされています。

 NSYの前田明徳社長はアンモニア燃料アンモニア輸送船を先行して建造し、就航実績を作ることこそが「造船所として差別化やシェア確保の上で最も重要」との認識を示しており、代替燃料船の分野で国内約50%、海外約10%の建造シェア獲得を目指していくとしています。

 ただ、アンモニアは人体への毒性の強さが課題です。曽我社長は「特にアンモニアの毒性の克服に関しては、ユーザーの立場から直接設計に関与し、いち早く安全運航に関わる十分な備え、知見を獲得してきたと自負している」と話します。このため、アンモニア燃料船では配管の二重化など、乗組員を守る設計をしっかり行った上で、運航中はアンモニア燃料エンジンが置かれている機関室へは基本的に立ち入らないようにするとのこと。運航に携わる船会社が開発段階から関わっていることは、今後の普及やルール作りを進めていく上でアドバンテージとなります。

 何よりアンモニアを燃料として使用する船舶に関する国際ルールは、IMOで検討が進んでいるものの、まだ整備されていません。これをチャンスと捉え、国際的に先行するアンモニア燃料アンモニア輸送船の開発プロジェクトで得られた知見を基に日本主導の国際ルール化に繋げていく計画です。

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日本郵船のLNG燃料自動車船。アンモニア燃料船に切り替えていくビジョンも(画像:日本郵船)。

 今回のアンモニア燃料アンモニア輸送船は、2025年にフルスケールエンジンの組み立て、最終テストを済ませ、2026年に実船を建造。そして2027年に実証航海へと進めていく予定です。

 曽我社長は「次に考えているのは同じくアンモニア燃料アンモニア輸送船。もう一つは自動車船だ。2028年までLNG焚き自動車船を整備することになっているが、どこかでアンモニア燃料自動車船をパイオニア的な位置づけとして建造していきたい。その先はケープサイズやパナマックスサイズのドライバルカー(ばら積み船)などに移っていくのではないか」と述べ、より多くの船種でアンモニア燃料エンジンを採用していく考えを示していました。

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