なんじゃこりゃ! 風を全力で味方にする「異形の貨物船」も登場 2024年注目の新造船 世界初&国内初が続々

2024年も新機軸を打ち出した新造船が続々と登場します。LNG、水素、アンモニアといった新燃料を用いる世界初・国内初の船も多数。環境意識の高まりから、従来では考えられないような形の船も出てきます。

見直される風力、燃料…環境アプローチでスゴイ新造船が続々

 2023年は世界最大級となる2万4000TEU型コンテナ船や、日本初のLNG(液化天然ガス)燃料フェリー、EVハイブリッド船など、意欲的な取り組みの船が多く誕生しました。2024年も引き続き多種多様な新造船が、日本の造船所で建造され就航していきます。注目の竣工予定の船を紹介します。

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商船三井の松風丸。硬翼帆を取り付けたウインドチャレンジャー搭載の1番船だが、新造船はさらに異形の姿となる(商船三井の動画より)。

風力推進装置“全部盛り” 商船三井の新造船

 船首に屹立する最大高さ53mにもなる巨大な“帆”――硬翼帆と呼ばれる風力推進装置「ウインドチャレンジャー」に加え、さらに「ローターセイル(円筒帆)」と呼ばれる煙突のような風力推進補助装置も複数取り付けたバルカー(ばら積み)が、大島造船所(長崎県西海市)で2024年に竣工する予定です。

 ウインドチャレンジャーは、船首に搭載した伸縮可能な硬い帆によって、風力エネルギーを推進力に変換する装置で、商船三井と大島造船所が実用化しました。帆1本あたり約5~8%のGHG(温室効果ガス)排出削減効果が見込めます。ここへさらに、英アネモイ・マリン・テクノロジーズが手掛けるローターセイルを取り付けて併用した場合は、平均約20%のGHG削減効果が期待できるとされています。そのイメージは、まさに現代の風力推進装置の“全部盛り”といったところ。

 ウインドチャレンジャーの搭載は、2022年10月に竣工した「松風丸」(10万422重量トン)に続き2隻目。新造船は商船三井ドライバルクが運航し、木質バイオマスエネルギー大手の米エンビバ向け木質ペレットを輸送します。

 木質ペレットは天候要因に左右されない、出力の調整が可能な再生可能エネルギーとして注目されています。エンビバは2030年までに操業からの温暖化ガス排出ネット・ゼロを目指し、サプライチェーン全体に関わる排出量の削減に向けてパートナーと協働しさまざまなソリューションを取り入れるとしています。

70年ぶりの新造船=「捕鯨母船」とは

 旭洋造船(山口県下関市)で建造中の捕鯨母船「関鯨丸」(約9100総トン)は、2024年3月の竣工を予定しています。捕鯨母船として専用に設計された新造船が建造されるのは約70年ぶり。竣工後は捕鯨会社の「共同船舶」(東京都中央区)へ引き渡され、世界で唯一の捕鯨母船として捕鯨船団の中核を担うことになります。

「関鯨丸」は商業捕鯨の再開を踏まえ、将来的なナガスクジラの捕獲も視野に入れた70トンの揚鯨能力を備える最新鋭の船として計画されました。従来の捕鯨母船とは一線を画した船型で、自動車を運ぶRORO船のような見た目が外観上の特徴となっています。これは、獲ったクジラをさばく解剖甲板を屋内に収めることで、労働環境と衛生環境の改善を図るためです。

 保冷設備は作った分だけ冷凍設備を動かすという発想から、リーファーコンテナを使用。このリーファーコンテナは20フィートコンテナで最大40個、800トン分搭載することができ、製品のロット管理と荷揚げを効率的に行えるようにしました。甲板上には探鯨用大型高性能ドローンのデッキを設けています。なお船室は全て個室化し、居住性を向上させました。就航は2024年5月から6月頃を予定しています。

非効率な“トラック直付けLNG供給”を変える LNGバンカリング船「KEYS Azalea」

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KEYS Azalea(深水千翔撮影)。

 三菱重工業下関造船所で建造中のLNG(液化天然ガス)バンカリング船「KEYS Azalea」(積載容量約3500立方メートル)も2024年3月竣工予定です。これにより、新燃料として注目されているLNGの“非効率な供給”が変わります。

 LNGは、従来燃料である重油に比べて硫黄酸化物(SOx)で約100%、窒素酸化物(NOx)で約80%、二酸化炭素(CO2)で約30%の排出削減が見込まれている環境に優しい燃料で、日本郵船や商船三井、川崎汽船といった大手船社がLNG燃料船の導入を進めています。しかし、日本ではそのバンカリング(供給)の拠点整備が進んでいません。

 たとえば2023年にデビューした日本初のLNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない/むらさき」も、燃料補給はタンクローリー複数台を船に直接つなげるトラック・ツー・シップという方式で行っています。

 対して「KEYS Azalea」が実施するシップ・ツー・シップ方式は、貨物を積んで寄港した船が荷役中に必要な燃料を一気に補給できるというメリットがあります。これにより、日本へのLNG燃料船の寄港を促すとともに、バンカリング船を広域で運航することにより、広いエリアでの効率化が図れます。

「KEYS Azalea」は九州電力や日本郵船などが出資するKEYSバンカリング・ウエスト・ジャパンが、西は熊本県、東は岡山県にかけてのエリアを対象としたLNGバンカリング事業を日本で初めて行うために計画されました。竣工後は、戸畑LNG基地(北九州市)を拠点に、九州・瀬戸内地域へ寄港するLNG燃料船へLNGを補給します。

「水素船」にまもなく乗れる! 「新燃料船」続々

 このほか、水素やアンモニア、メタノールなどゼロエミッションの実現に向けて次世代燃料を使用する船も登場します。

 商船三井は国内初となるメタノール焚きエンジンを搭載する内航タンカー(570総トン)をカナサシ重工(静岡市)で建造し、 12月に竣工させることを明らかにしています。

 また同社グループの商船三井テクノトレードが出資するMOTENA-Seaが発注し、広島の本瓦造船で3月竣工予定のハイブリッド旅客船「HANARIA」は、ヤンマーが開発した舶用水素燃料電池システムを搭載した日本初の水素燃料“旅客船”です。航行時には水素燃料電池とリチウムイオンバッテリー、バイオディーゼル燃料を選択することができます。

 日本郵船からは、世界初となるアンモニア燃料タグボートが6月に登場する予定です。同社のLNG燃料タグボート「魁」(272総トン)をアンモニア燃料船に改造する工事を傘下の京浜ドック追浜工場(神奈川県横須賀市)で行っています。

 また2024年中には、川崎重工業で建造しているLPG(液化石油ガス)も燃料として使用可能な、2元燃料エンジンを搭載したVLGC(大型LPG・アンモニア運搬船)も竣工する予定。日本郵船は2026年度を目途にアンモニア燃料アンモニア輸送船(AFAGC)の開発も行っており、着実にアンモニア関連の船舶が増えていきます。

 常石造船ではベルギー海運大手CMBと開発を進めている「水素混焼エンジン搭載型タグボート」を建造中です。同エンジンは新開発のもので、水素専焼、水素(+重油)混焼、軽油専焼の3モードで運航可能なシステムとします。経済性や運用面を考慮して液体水素ではなく高圧水素ガスを採用しているのも特徴です。また高圧ガスを取り扱う機器類については極力市販されているものを活用します。

 また常石造船では、国内初となるLNG専焼エンジンとリチウムイオンバッテリーを組み合わせたハイブリッド推進システムを搭載する石灰石運搬船も、2024年に竣工する見通しとなっています。

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日本初の水素燃料旅客船となるHANARIA(画像:MOTENA-Sea)。

 このほか、三菱重工下関造船所で建造している日本サルヴェージの海難救助船や、海上保安庁が25年ぶりに整備する5500トン型の大型練習船「いつくしま」が登場する予定です。

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