フォービズム|色彩革命を起こしたアート運動。マティスなど作品紹介

「フォービズム」って聞いたことありますか? ちょっと変わった名前ですよね。フォービズムは、20世紀初頭のフランスで生まれたアート運動です。「色を解放した」と評価されていますが、なんとわずか数年で流行が去ってしまったという。 当時は、世界情勢の変化が激しく、アート界も様々な挑戦や実験が繰り返されていた時代。 短い流行だったとはいえ、フォービズムが生まれたおかげで、私たちは今、こんなにも色を自由に使うことができています。もしかしたら、「自由に色を使っている」意識もないくらい当たり前になっているかもしれません。 この記事では、フォービズムがどんなアート運動だったのか、時代背景や、色彩にこだわった印象派との関係、絵画への影響など、ご紹介していきます。

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時代背景:芸術が民衆の手に戻った時代?!

アレクセイ・ヤウレンスキー「赤い帽子をかぶったショッコ」(1909年), パブリックドメイン, ウィキメディア・コモンズ経由

19世紀末から20世紀初頭、ヨーロッパは大きな変動期でした。産業革命による社会の変化、科学技術の発展、ロシア革命や、第一次世界大戦の予兆。

そんな激動の中で、伝統や既成概念に縛られず、新しい表現方法を求めるアーティストが増えていきます。

この時代以前は、アートは主に宗教や宮廷・貴族のためのものでした。フォービズムが流行した時代は、自分たちが表現したいものを表現する媒体として、民衆がアートの主導権を掴んだ時代と見ることができるのではないでしょうか。

例えば、1857年に発表されたフランスの画家ミレーの「落穂拾い」は、その先駆的作品かなと思います。
関連記事:ミレー『落穂拾い』はどんな絵?作品の特徴と見どころをわかりやすく紹介

やっと「自分たちが表現したいものを表現するための活動」が始まったばかりなので、アーティストたちも様々な実験をしていたのかな、なんて思います。だから、アート運動もたくさん起きてはすぐに下火になるなど、変化が激しかったのかもしれません。

どうしてフォービズム(野獣派)って言われるの?

フォービズムは、そんな時代の中で生まれた、色彩革命とも呼ぶべき芸術運動です。色彩革命なのに、どうして「野獣なの?」って思いますよね(苦笑)。もっと色にちなんだ名前でもいいはずなのに。実は、この変わった名前にまつわるエピソードがちゃんとあります!

1905年、パリのサロン・ドートンヌの一室で開催された展示会で、マティス、ルオー、アンドレ・ドランといった若き画家たちの絵画が一堂に展示されました。

その鮮烈な色彩と大胆な構図を「野獣の檻のようだ」と評論家が揶揄したことから、「フォーヴィズム(野獣派)」と名付けられたのです。

皮肉を込めた言葉がそのまま名前になるなんて……。と思いますが、「印象派」も「絵画の印象しか描いていない」という評論家の酷評がそのまま名前になっているし、新しいものへの抵抗は仕方ないのかもしれませんね。

フォービズムに影響を与えた後期印象派

フォービズムが最も影響を受けたのは、後期印象派(ポスト印象派)です。後期印象派は、色彩を重視し伝統からの脱却を目指していました。フォービズムも同様の特徴がありますが、何が違うのでしょうか?

違いをざっくり表にしてみました!

特徴 後期印象派

フォービズム
色彩の目的 光の反射を捉え、自然な風景を再現する 感情や感覚を表現するために、純粋な色彩を大胆に使う
色彩の選び方 自然界の色を忠実に再現 感覚的な色を選び、感情を表現
筆づかい 比較的柔らかい筆づかいで、光を捉える 強い筆触で、色彩そのものを強調
主題 風景画、人物画など、日常的な題材が多い 風景画、静物画など、様々な題材を扱うが、色彩そのものが主役
目指すもの 目に見えるものを客観的に描く 主観的な感情や感覚を表現する

両者を例えていうならこんな感じでしょうか。

【後期印象派】風景写真のような、見たままの美しい風景を捉えようとする画家。
【フォービズム】感情を爆発させたような、抽象的な絵画を描く画家。

後期印象派について、もっと詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:西洋美術史を流れで学ぶ(第22回)~新印象派・後期印象派編~

フォービズムに特に影響を与えた画家

フォービズムを牽引したマティスたちは、後期印象派の中で、特にゴッホやゴーギャンから影響を受けています。

フィンセント・ファン・ゴッホ

フィンセント・ヴァン・ゴッホ「星月夜」(1889年), パブリックドメイン, ウィキメディア・コモンズ経由

ゴッホは、感情を色彩で表現することに長けていました。彼の作品は、色彩の持つ力強さや、感情の激しさを強烈に表現しており、フォービズムの画家たちに大きな影響を与えました。

関連記事:オランダのポスト印象派画家ゴッホの人生とは?特徴と見どころ解説

ポール・ゴーギャン

ポール・ゴーギャン「ナフェア・ファア・イポイポ(いつ結婚するの?)」(1892年), パブリックドメイン, ウィキメディア・コモンズ経由

ゴーギャンは、原始的な力や神秘的な世界観を色彩で表現しました。彼の作品は、フォービズムの画家たちに、色彩が持つ象徴的な意味や、異文化への関心を深めました。

他にも、セザンヌの立体的な構図や、新印象派の点描などが、フォービズムの画家たちの表現に影響を与えています。

関連記事:フランス・ポスト印象派画家ゴーギャンの人生は?特徴と見どころ解説

フォービズムを牽引した画家:マティス

アンリ・マティス, パブリックドメイン, ウィキメディア・コモンズ経由

色彩の魔術師と呼ばれるアンリ・マティスは、フォービズムの中心人物のひとりとして精力的に活動をしていました。彼の初期の作品は、フォービズムの特徴である鮮やかな色彩と大胆な構図が際立ち、マティスの芸術の出発点と言えるでしょう。

La famille du peintre - アンリ・マティス, パブリックドメイン, ウィキメディア・コモンズ経由

マティスのフォービズムにおける経験は、後の彼の芸術活動にも大きな影響を与えました。フォービズムで培われた色彩感覚や表現方法は、マティスの生涯にわたる芸術の根幹をなします。

マティスは、フォービズムの代表的な画家であると同時に、後の時代に引き継がれることになる抽象的な表現へと向かうなど、非常に多岐にわたる作品を残しました。

Le Bonheur de vivre - アンリ・マティス, パブリックドメイン, ウィキメディア・コモンズ経由

もっと詳しくマティスのことを知りたい方は、こちらの記事を読んでみてください!

関連記事:アンリ・マティスとは|生涯とともに、ジャズ、切り絵などの代表作、何がすごいのかを解説

とってもわかりやすい内容で、マティスのエピソードに思わず笑ってしまうことも。楽しくマティスを知ることができます!

フォービズムの代表作

それでは、フォービズムの代表作の紹介です。

フォービズムの代表作は画家によって様々ですが、こちらをご紹介します。

アンリ・マティスの作品

■「緑のすじのあるマティス夫人の肖像」 (1905年)
フォービズムを代表する作品のひとつ。緑色の背景に、鮮やかな色彩で描かれたマティス夫人の肖像は、その大胆さゆえに当時の美術界に衝撃を与えました。当時の常識を打ち破った作品なんでしょうね。

■「ダンス」 (1910年)
マティスの晩年の代表作。デフォルメされた人体と鮮烈な色彩、平面的な構図が特徴で、フォービズムの集大成と言える作品です。原始的な雰囲気があり、エネルギッシュさを感じます。

■「赤のハーモニー」 (1908年)
マティスの最高作とも言われる作品です。色彩の対比を巧みに使い、室内空間を表現した作品。赤い色が部屋全体を支配し、見る者に強い印象を与えます。

製作当初は、部屋は緑で塗られていたそうですが、気に入らなかったようで、後に、青に塗り替え、その後、赤に塗り替え、しっくりきたようです。

アンドレ・ドランの作品

■「ウォータールー橋」 (1906年)

アンドレ・ドラン「ウォータールー橋」(1906), パブリックドメイン, ウィキメディア・コモンズ経由

ロンドンの風景を、大胆な色彩と簡略化された形を用いて表現した作品。フォービズムの特徴である、感情を重視した表現がよく表れています。

本作品はフランス人であるアンドレ・ドランがロンドンを旅行した際にインスピレーションを得て作成された作品の1つです。ドランは、ロンドンの雰囲気に魅了され、テムズ川の河岸をテーマにした景色の作品を30点以上残しています。

本作を所蔵しているマドリードのティッセン・ボルネミッサ美術館の公式サイトには「ロンドンの風景を豊かな色彩の爆発として描く彼のスタイルは、ターナー(イギリス人画家)のヴェネツィアの風景を彷彿とさせる。」*と解説が記されています。

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー「ヴェネツィアの大運河」(1835年), パブリックドメイン, ウィキメディア・コモンズ経由

実は友人のマティスの助言により、ドランはロンドンの美術館でターナーの作品を鑑賞していたそうです。

*参照:Waterloo Bridge - Derain, André. Museo Nacional Thyssen-Bornemisza

モーリス・ド・ヴラマンク

■「ヴァソ・ブルー・コン・フィオーリ(花の入った青い花瓶)」(1906年)
フランス人画家モーリス・ド・ヴラマンクの作品も重要です。「ヴァソ・ブルー・コン・フィオーリ(花の入った青い花瓶)」という、同時期に制作された作品の画像を紹介します。

モーリス・ド・ヴラマンク「ヴァソ・ブルー・コン・フィオーリ(花の入った青い花瓶)」(1906年), パブリックドメイン, ウィキメディア・コモンズ経由

花瓶と花という静的で落ち着いたテーマですが、元気で躍動感がある色彩で描かれていますね。

フォービズムが後の絵画・アートに与えた影響

フォービズムが絵画に与えた影響は、色彩の豊かさだけではありません。フォービズムの画家たちは、自分たちの感情を自由に表現しようとしたことで、従来の絵画の概念を打ち破りました。

絵画は単なる「もの」を写すものではなく、私たちの心を動かすことができるものなんだ、ということを示したのです。

「人間がピンク色だって、部屋が全て青だっていいじゃないか!心がそう感じるんだ!」という感じです。今の私たちは、こうした感覚に違和感を覚えないと思いますが、その礎を築いてくれたのは、フォービズムだったと言えるでしょう。

フォービズムの影響は現代美術にも大きく残っています。例えば、現代美術の多くの作品で、色彩が重要な役割を果たしているのは、フォービズムの影響とも言えるでしょう。

また、フォービズムの画家たちが、感情をストレートに表現しようとした姿勢は、後の表現主義やポップアートにもつながっています。

キュビズムとの関係について、ちょこっと考察

フォービズムの時代は、アーティストたちがたくさんの芸術実験をし始めた時代です。

アートとはなにか?
社会に対してアートができることとは?
表現するとは?

こんなことを昼夜、議論したり考えたり、熱量の高いアーティストたちがパリに集まっていました。

だから、あるアート運動が、次のアート運動に影響を与え、同時に生まれたアート運動同士も影響を与えあっていた、ということも起きます。フォービズムも同様です。

例えば、同じ写実性や伝統を否定したものとして、フォービズムとほぼ同じ時代に生まれた「キュビズム」が挙げられます。目指したものは似ていましたが、手法や着眼点が異なりました(似ているのは名前だけではありません笑)。

キュビズムは、形を一旦バラバラに分解して、再び構築するようなスタイルを生み出したのに対し、フォービズムは心を色彩で表現するスタイルを生み出しました。

物体を幾何学的な形に分解して、その本質を捉えようとするキュビズム。
感情や感覚を、色彩で直接表現することに重きを置いたフォービズム。

キュビズムが冷静な知性に基づいているとすれば、フォービズムは情熱的な感情に基づいていると言えそうです。とはいえ、両者とも「人間とは」というテーマは、同じのような気がしています。

まとめ

フォービズムについて、いかがだったでしょうか?
どうしてフォービズムが生まれたのか、フォービズムが今の私たちにどう影響しているのか、そんなことが伝わったら嬉しいです。

アート運動や芸術様式は、その時代の政治、産業、文化、宗教などから色濃く影響を受けて生まれます。フォービズムも同じです。

だから、フォービズムだけを知るよりも、当時の世界情勢やアーティスト(人々)の感情や思想などを知ることでフォービズムへの理解が深まり、魅力をさらに感じることができるのではないか、と思っています。

この記事をきっかけに、フォービズムに興味を持っていただけると嬉しいです!

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