本郷和人『光る君へ』ついに物語を執筆し始めたまひろ。いよいよ<日本最古の女流作家>誕生へ…と本当に言えるのか?

(写真提供:PhotoAC)

大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。7月28日の第29話「母として」では、まひろの娘、賢子は数えの三歳に。子ぼんのうな宣孝(佐々木蔵之介さん)に賢子もなつき、家族で幸せなひとときを過ごしていた。その後、任地に戻った宣孝だったが――といった話が放送されました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるシーンを解説するのが本連載。今回は「日本最古の女流作家」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!

12歳で入内後、出産まで実に10年を要した道長の娘「いけにえの姫」彰子。苦しんだであろう日々が『源氏物語』にも影響を。その生涯とは

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物語を書くことを思い立ったまひろ

ドラマ内で、定子を慰めるために清少納言が書いていた『枕草子』。

第29話ではその『枕草子』を使い、藤原伊周が一条天皇に近づこうとする姿が描かれました。

一方、同時期に娘・賢子へまひろが『竹取物語』を読み聞かせているシーンも。

漢詩にはさっぱり関心を持たないという賢子でしたが、『竹取物語』には興味津々の様子。その反応をみて、まひろも自ら物語を書くことを思い立った、というところで、ドラマは幕を下ろしました。

いよいよ“女流作家”たちを中心に、あらためてドラマが動き始めた感がありますが、はたして…。

日本最古の女流作家は誰?

さて、ここで問題です。

世間一般の方に「日本最古の女流作家は誰か」とたずねたら、いったいどんな名前があがってくるでしょうか?

本郷和人先生が監修を務める大人気の平安クライム・サスペンス!『応天の門』(作:灰原薬/新潮社)

そう聞かれたら、多くの方がやっぱり「紫式部」だと答えるのではないでしょうか。

「朝廷のトップに立ちながらも、政治にまったく見向きもせず、女性ばかり追いかけている人の物語がなぜこんなに高く評価されるんだ!」といった悪口はいつの時代にもあります。

でもそれも、あくまで『源氏物語』のすごさを認めた上での話。

1000年も前に叙述されたこの物語は、やっぱり私たち日本人の宝だと思います。

源氏物語は何時代のもの?

ではここで二問目です。『源氏物語』は何時代のもの?

描かれている内容も、書かれたタイミングも平安時代?

もちろんそれはそうなのですが…

この質問の答えの一例として、ぼくは「室町時代」をあげたいと思います。

というのは、このお話が貴族の必読書として広まったのは、どうも室町時代に入ってのことだからです。

逆に、平安や鎌倉時代には、「宮廷で知る人ぞ知る」ような存在だったらしい。

この史実は、一つの可能性を示唆します。

『源氏物語』ですら、はるか後年まで宮廷の貴族の共有財産になっていなかった。とすると、いつの間にか忘れ去られて後世に伝わらなかった「女性の手による物語」が他にもあったかもしれない、と。

突然、あんなに壮大な物語を書き上げる?

そもそも紫式部が突然、あんなに壮大な物語を書きあげた、と想定するのは確かに不自然かもしれない。

誰かが書いた、もっとコンパクトな物語はすでにいくつか存在していて、女性のあいだなどで読まれていた。実はそうした蓄積をもとにして、名作『源氏物語』が生まれた。

そうは考えられないでしょうか?

もしそうだとすると…私たちが知ることのない女流作家が存在していた「可能性は大」であるといえそうです。

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