海自艦の台湾海峡通過、岸田首相が指示 慎重から一転して中国挑発に対応、緊張激化懸念も

海上自衛隊の護衛艦が25日、初めて中国大陸と台湾を隔てる台湾海峡を通過した。日本政府はこれまで、中国との緊張激化を避けるため、海峡通過に慎重だったが、日本周辺で中国軍による挑発的な活動が相次いでいることを受け、前例のない対抗措置に踏み切った。中国のさらなる反発と軍事活動の拡大が懸念され、政府は警戒を強める。

これまでも米国を中心に欧米各国が、海洋進出や台湾への軍事的圧力を強める中国を牽制(けんせい)するため、軍艦を派遣して台湾海峡を通過させ、プレゼンスを誇示してきた。

政府内で検討も見送り

日本としても台湾海峡の安定重視を打ち出すため、政府内では海自艦艇の航行が検討されてきたが、尖閣諸島(沖縄県石垣市)などで中国の挑発活動がエスカレートする事態を懸念し、見送ってきた。令和元年11月に日米の艦艇が中国空母を追尾した際は、中国空母が台湾海峡に入ったため自衛艦のみ離脱した。

日本側の懸念をよそに中国軍は今年8月以降、日本周辺で「異常な動き」(自衛隊関係者)を見せている。Y9情報収集機1機が長崎県沖の領空を侵犯したほか、測量艦1隻が鹿児島県沖の領海に侵入。空母「遼寧」は、沖縄県の西表島と与那国島の間の接続水域を初めて航行した。

中国軍が活動を活発化させるのに合わせて、ロシア軍機が北海道沖の領空を侵犯するなど、中露連携の動きも目立つ。一層厳しさを増す安全保障環境を深刻に捉え、中国に対し毅然(きぜん)とした態度を示すため、岸田文雄首相は初の海自艦による台湾海峡通過を決断した。

中国の対抗措置に懸念

今後は中国が反発し、対抗措置に出る可能性がある。日本と米国はそれぞれ自民党総裁選、米大統領選の最中で、ともに権力の移行期にある。

中東情勢が混沌(こんとん)とする中、米軍は戦力を中東地域に移行させており、中国をにらむインド太平洋に米空母が1隻も存在しない期間も生じた。こうした政治的・軍事的空白を突いて中国が圧力を強めてきているとの見方もある。

自衛隊幹部は「隙を見せれば中国はどんどん仕掛けてくる」と警戒。自衛隊制服組トップの吉田圭秀統合幕僚長は26日の記者会見で「事態をこれ以上、エスカレーションさせないことが大事だ。警戒監視に万全を期していく」と強調した。(小沢慶太)

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