選択的夫婦別姓は争点か 銀行、国家資格、パスポート…「不都合な状態」ほぼ解決済み

自民党総裁選に立候補した小泉進次郎元環境相が表明したことによって、一大争点のようにメディアで取り扱われ始めた選択的夫婦別姓制度導入。小泉氏は「長年議論して決着がついていない」と言うが、自民党は過去の国政選挙の公約などでは結婚前の旧姓(戸籍名)使用の幅広い導入を掲げ、実現してきた。そもそも争点化されるべきテーマなのか。

夫婦別姓をめぐる議論は、働く女性が増えたことで、婚姻後の職場での旧姓呼称や国家資格、免許証などの旧姓使用を認めるべきという考え方からスタートした。

内閣府男女共同参画局が令和6年6月27日付で出した「各種国家資格、免許等における旧姓使用の現状等について」によると、5月31日現在、320の国家資格、免許などのうち317で資格取得時から旧姓使用ができる。残る3資格は「資格取得後に改姓した場合は旧姓使用ができる」となっており、旧姓使用ができないものはゼロだ。

マイナンバーカード、運転免許証、パスポートもすでに旧姓併記ができるようになっている。パスポートは「旧姓/Former surname」の説明が付記される。

一方、夫婦別姓の導入を呼びかけている経団連が6月に出した資料には「ビジネスの現場における通称利用の弊害例」がある。一部の弊害例に対する現状は次のとおりだ。

【例:多くの金融機関では、ビジネスネームで口座をつくることや、クレジットカードを作ることができない】

多くの金融機関ではできる。令和4年3月に内閣府と金融庁が金融機関に行った「旧姓による預金口座開設等に係るアンケート」によると、銀行の約7割、信用金庫の約6割が、旧姓名義による口座開設と、婚姻などで改姓した場合、既存口座の旧姓名義による取引を認めていると回答した。信用組合は1割超にとどまっているが、これは「共同センターのシステムが未対応となっていることなどから」という。

【例:通称では不動産登記ができない】

昨年の法務省令改正により、旧姓併記でできるようになった。

【例:研究者は論文や特許取得時に戸籍上の氏名が必須であり、キャリアの分断や不利益が生じる】

旧姓での論文執筆はほとんどの研究機関で認められている。特許出願については旧姓併記が可能になったが、旧姓のみでの出願はできない。

まずは周知徹底を

一方、8月24日配信の共同通信によると、主要企業111社に実施したアンケートで、選択的夫婦別姓を「早期に実現すべきだ」との回答は17%、「将来的には実現するべきだ」は4%で計21%にとどまった。「結論を急がず慎重に議論を進めるべきだ」(9%)、「夫婦同姓を維持した上、通称使用の法制度を設けるべきだ」(3%)といった回答は計12%で、67%は「その他・無回答」だった。

経団連が制度導入に前向きであるにもかかわらず、アンケートは傾向が違った。共同通信も「個別企業では慎重な姿勢が根強く、無回答も目立つ」と伝えている。

もっとも、こうした旧姓使用や旧姓併記が完全に周知されているとはいえない。政府は引き続き周知を行う必要がある。また、経団連は金融機関をはじめとする会員企業にまずは旧姓併記の対応を促すべきではないのか。

親子間で姓が異なってしまうことも、さらに議論が必要だ。「選択的」とは、あくまで夫婦の選択であり、生まれてくる子供に選択の余地はないまま「親子別姓」「家族別姓」となる。婚姻は「両性の合意に基づく」と憲法に書かれているとはいえ、別姓をめぐって双方の両親などを巻き込むトラブルに発展するケースもないとは言えないだろう。(田北真樹子)



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