【官房機密費を知り尽くした男】平野貞夫・元参院議員が語る“授受”のリアル 「本格的に増額されたきっかけは日韓国交正常化」

小沢一郎氏の「知恵袋」と呼ばれた平野貞夫・元参議院議員(写真/共同通信社)

 毎月約1億円、年間約12億円もの税金の使途が“ブラックボックス”になっている──それが「官房機密費」だ。国会で「政治とカネ」の改革を掲げて必死にアピールする岸田文雄・首相も、そこには決して手をつけようとしない。

【図解】使途が公開されない「官房機密費」の資金の流れ

 このままでは、次の総選挙で機密費が好き放題に使われかねない。そこで本誌・週刊ポストは、官房機密費に触れたことがある人物たちに総力取材した。

予算増額のきっかけは1965年の日韓国交正常化

 衆議院事務局職員などの経験を持ち、豪腕・小沢一郎氏の「知恵袋」と呼ばれた平野貞夫・元参議院議員は、永田町の住人のなかでも官房機密費“授受”のリアルを知り尽くした数少ない人物だ。

 平野氏は「機密費予算が本格的に増額されるきっかけは1965年の日韓国交正常化を巡る国会だった」と語る。

「日韓基本条約を有利な形で結ぶため、佐藤栄作内閣は、韓国の政治家や日本のマスコミを懐柔するカネの捻出を迫られた。金銭面でも米国に頼らない独立国として機密費を準備しておく重要性が意識され、翌年度予算で措置されたのです」

 当時、与野党対決ムードの衆議院で自民党の国会対策を担ったのが、副議長の園田直氏。その秘書が平野氏だった。

「副議長の使いで月の初めに官邸に行くと、竹下登・官房副長官から国会対策費用として機密費から300万円を渡されました。そのカネを秘書として預かっていたら、議運の理事だった自民党の金丸信さんが『野党理事を石和温泉に連れていく』と言って持っていったこともありました」

 佐藤内閣退陣後は、田中角栄内閣が発足。平野氏は、衆院議長の前尾繁三郎氏の秘書として働くことになったが、その時も機密費と間近で接した。

「前尾さんの私邸に二階堂進・官房長官が会いにきた時のことです。長官が帰った後で部屋に行くと、紙袋に100万円ずつ包まれた札束が5つ。金権選挙にも批判的だった前尾さんは『こういうことだから民主主義が育たない』と怒って紙袋を投げ捨てました」

政権交代を経ても同じ議論が繰り返される現状

 1992年に参議院議員に当選した平野氏は、小沢氏らとともに自民党を離党し、細川護熙・羽田孜内閣では与党議員になった。

 議員になってからは、“餞別”として機密費を受け取る経験もあった。

「ワシントンDCで日本の政局について講演を依頼されて渡米する際、羽田内閣で官房長官を務めた熊谷弘さんの秘書官が餞別として100万円を届けにきた。間違いなく機密費からでしたね」

 長年にわたり、機密費と接してきた経験がある平野氏は、今こそ機密費について包み隠さず話し、改革を訴えなくてはならないと考えているという。

 そして、政権交代を経ても同じ議論が繰り返される現状をこう嘆く。

「政治にカネがかかるのは確かですし、現在の日本政治文化のなかで規制や廃止をしても、さらに闇に消えるカネが増えるだけです。だから具体的な使途を公開することが重要です。せめてアメリカのように20年後には使途を公開するような仕組みに変えるべき。そうでなければ、いつまで経っても機密費の改革は進まないままです」

※週刊ポスト2024年6月7・14日号

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