【「年間約12億円」官房機密費の謎】平野博文・元官房長官 民主党政権でも使途が公開できなかった理由「自分なりに使い道の検証ができなかった」

民主党政権交代直後の政権で官房長官を務めた平野博文氏

 毎月約1億円、年間約12億円もの税金の使途が“ブラックボックス”になっている──それが「官房機密費」だ。国会で「政治とカネ」の改革を掲げて必死にアピールする岸田文雄・首相も、そこには決して手をつけようとしない。

【図解】使途が公開されない「官房機密費」の資金の流れ

 このままでは、次の総選挙で機密費が好き放題に使われかねない。そこで本誌・週刊ポストは、官房機密費に触れたことがある人物たちに総力取材した。

実態を何もわからずして公開や廃止を決められない

 2009年8月30日の総選挙で鳩山由紀夫代表率いる民主党が自民党に大勝した。政権交代直後の政権で官房長官を務めたのは、平野博文氏だった。

 民主党は、野党時代の2001年に「機密費流用防止法案」を国会に提出するなど、その不透明さをかねて追及してきた。だが、平野氏は内閣発足直後に会見で機密費について問われ、「そんなのあるんですか」と答えたことで批判を浴びた。

 平野氏が振り返る。

「官邸で金庫を開くと中が空だったので、僕は大阪のノリで言ったつもりでした。ですが、野党の時に鳩山さんが『政権を取ったら使途を公開する』と言ってきたこともあって、『嘘つき』と叩かれたんです」

 2009年11月20日、記者会見で平野氏は2004~2009年度の機密費の国庫からの支出記録を公表する。そこでは、政権交代が決まった総選挙2日後の9月1日、麻生太郎前政権の官房長官である河村建夫氏が毎月の機密費予算の2倍以上にあたる2億5000万円を引き出していたことも判明。河村氏は「説明する立場にない」とするのみだった。

 しかし平野氏は具体的な使途の公開にまで踏み出さなかった。これについて衆院外務委員長の鈴木宗男氏(当時・新党大地代表)から質問主意書が提出されるなど、反発を呼んだ。

 その真意について平野氏はこう話す。

「予算措置のなかに『官房報償費』という費目があるだけで、どんな目的でどう使うかという指針が一切ありませんでした。実態を何もわからずして、公開や廃止を決めるほうが無責任ではないか。自分なりに検証したうえで『これは公開できる』『これはできない』と判断すべきだと考えたんです」

 機密費の予算は、毎月1億円とされる。「官房長官が不在の時に長官室の金庫に補填された」(平野氏)という。

「ざっくりとした内訳を話すと、官邸の日々の固定的な支払いに使われた分が2000万~3000万円。政策に使えたのは残りの7000万円ぐらいだった。

 特に大きいのは情報収集にかかる費用で、たとえば拉致問題が絡む北朝鮮については多チャネルで情報を得る必要があった。記者が詰めている官邸では会えないし、ホテルなど外で会えばお金がかかります。国会対応にも使いました。ただ、法案を通してもらうための支出であって、政党には出さなかった。

 選挙への支出は党勢拡大の費用だから筋が違うでしょうが、官房長官だった時(2009年9月~2010年6月)は選挙がなかったからね。実際にあったらどうだったか」

 2010年3月の年度末、平野氏は使い切らなかった機密費3000万円を国庫に返納したものの、その3か月後にわずか9か月の短命で内閣は退陣し、検証はできずに終わった。

 具体的な使途を公開することについて現在、どう考えているのか。

「全面公開は情報収集が難しくなるから反対です。ただ、検証を重ねれば公開できる支出が見えてくる可能性はある。そういう部分の費用は、機密費でなく、担当部局の予算に組み込むという考えもあるかもしれません」

※週刊ポスト2024年6月7・14日号

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