【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”

運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告

 2023年8月29日、埼玉県三郷市の運送会社「AKトランス」敷地内で社長の大川幸一郎さん(52=当時)が殺害された。その日の夜9時過ぎ、従業員からの通報を受け警察官が駆けつけたところ、意識のない状態で駐車場に倒れている大川さんを発見。病院に搬送されたがまもなく死亡した。駐車場には広範囲にわたり血痕が残されており、大川さんの上半身は包丁でメッタ刺しにされていたことから、大川さんは逃げながら何度も刺されたことが推認された。発生時に衝撃的な事件として報じられたが、ここにきて被害者と加害者の双方を知る人物からの新証言が得られた。

【写真】『やられる前にやった』そう出頭した内田被告はサボり癖や借金など、事件前までトラブルが続いていた

 通報から約1時間後、三郷市の現場から20キロほど離れた川口警察署に、ひとりの男が出頭。大川さん殺害を認めたことから逮捕された自称アルバイトの内田洋輔(逮捕当時29)は「やられる前にやった」などと供述し、大川さんとのトラブルを匂わせていた。

 のちに殺人罪で起訴された内田被告は、大川さんの会社で働く予定だったと報じられていた。加えて一部報道には、殺害された大川さんが生前、内田被告を追い込んでいたかのように報じるものがあった。大川さんから金を要求されていた内田被告が、母親だけには迷惑をかけたくないという思いから、事件を起こしたのではないか……といった動画も拡散された。

 そうした内容のコンテンツは2024年4月現在、一部削除されるなどしているものの、大川さんと25年以上の付き合いがある親友・A氏は改めて、「出回っていた話は、私が知っていることと全く違う」と重い口を開いた。事件発生直後の報道に憤りを覚え、遺族の意向も確認した上で、取材に応じた。彼は大川さんを通じて内田被告とも面識がある。

「内田は過去に詐欺で2回、懲役を受けています。一度目は特殊詐欺のかけ子で松本少年刑務所に入りましたが、出てからコロナ給付金詐欺で2020年に逮捕され、秋田刑務所にいました。大川も自分も、内田に手紙を書いたり、差し入れを送ったりしていたんです。秋田を出る時は大川と一緒に新幹線でで内田を迎えに行きました。写真はその時秋田駅で撮ったものです」(A氏。以下同)

 大川さんは、懇意にしていた先輩から“気にかけてやってほしい”と頼まれたことで、内田被告と接点を持つようになる。運送会社を切り盛りしながらも、その合間を縫って刑務所にいる内田被告を支援してきたという。

「大川は人との縁を大事にするやつで、面倒見がいいところがある。内田のことも、先輩から頼まれて面倒を見ていたら、内田の父親から『息子を預かって仕事で使ってやってほしい』と言われたんです」

 内田被告が2023年の元日に秋田刑務所を出所した後、大川さんは自分の会社で預かることにしたのだそうだ。ところが「内田はオートマ車限定の免許しか持ってなかった」ことから、大川さんは内田被告に中型自動車免許を取得してもらおうと、教習所に通わせた。

「なのに内田は、免許を取るための合宿に出たはずが『メガネがないと免許を取れない』と戻ってきちゃったんですよね。それでメガネを作る金も大川が出して……結局中型免許は取れず帰ってきました。

 内田は最終的には大川の会社で掃除とか、その程度の手伝いをしながら、自分で見つけた建設現場の日雇いの仕事なんかをしてました。事件の日も昼間はたしか、現場仕事に出てたはずです」

被害者は足を骨折していた

 内田被告は逮捕後に〈やられる前にやった〉と供述し、大川さんから金銭を要求されるなどのトラブルがあったことを示唆する報道も出た。A氏はこれに憤る。

「内田の金の面倒を見ていたのは大川のほうなんです。内田は運転が上手じゃないから、車を年中ぶつけてたんですよ。その修理代を何度も、大川が出していた。それだけじゃなくて、内田はお金がなくなると大川をはじめ、いろんな人のところに行って金を借りるんです。それも全部含めたら結構な額になると思う」

 事件当日も、内田被告が大川さんに「やられる」可能性はなかった。

「大川はあのとき足を骨折していました。やっとギプスが取れたばかりで、走ることも難しかったんです。それをあんなに何度も刺して……後ろから刺された傷があるんで、不意打ちだったんじゃないか」

 そして事件を起こしてから出頭するまでの内田被告の移動について、こう疑問を呈した。

「当時、内田は車を持ってなかった。川口の自宅から三郷の会社まで、自転車や電車で通ってました。なのに事件の日は、現場最寄りの吉川署ではなく、すぐに父親と川口署に出頭している。どうやって移動したのか。あれだけ刺したら返り血を浴びているはずで、公共交通機関はとても使えない。当日だけ父親の車を借りたのかどうか。出頭時に付き添っていた父親はどのタイミングで犯行を知ったのか……」

 内田被告の自宅を尋ねると、父親が玄関ドアから出てきたが、事件について問うと「そういうの一切受けてないんで」とノーコメントだった。

 A氏は事件後に拡散された動画にも心を痛めている。

「『内田は母親を守るために大川を殺した』という事実無根のYouTube動画がアップされていて、自分も腹が立っているし、大川の家族も悲しんでます。『やられる前にやった』って内田は言うけど、ほんとになぜやったのかが自分には分からない。例えば大川の言葉がきつかったとしても、そんなブスブスと何度も刺すというところまではいかないですよね。

 自分の飼っている猫が死んだ時、大川は火葬場まで花を持って駆けつけてくれて、自分と一緒に泣いてくれた。事件の1週間前も一緒に食事して、前の日もいつものようにLINEをしていた。自分にとって大川は、友達を超えて家族のような存在でした」

 内田被告の裁判員裁判の予定はまだ決まっていない。

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