殺したいと思ったことは「一度もない」と涙 死亡女性の首に粘着テープを3周巻いた女に何が? 裁判詳細

2022年3月、介護助手の女性(発見当時40)を殺害し、遺体を愛知県東浦町の畑に埋めた罪などに問われた女。

女はほかにも監禁と窃盗の罪で起訴されていた。その事件については前編へ(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1070703)。

「娘は3日連れ回され、畑に遺棄されたと聞いた。こんな殺人鬼に対して、自分の手で復讐してやりたい」。娘を殺害された父親の怒りが、裁判で読み上げられた。

裁判の内容から、殺人・死体遺棄事件を振り返る。

「殺す」とLINE…被害者の自宅の場所を複数回検索

CBC

殺人・死体遺棄・監禁・窃盗の罪に問われているのは、住居不定・無職の天池由佳理被告(39)。殺害されたのは稲沢市の介護助手・門田典子さん(発見当時40)だ。

山下克己被告(左)と天池由佳理被告(右)

2人は金銭の貸し借りや人間関係でトラブルになったことから、天池被告が門田さんに恨みを抱き、2022年2月ごろに共犯者である山下克己被告(56)にその話をして、門田さんを探すことにしたという。

実際、天池被告の携帯電話からは「門田典子 自宅」と複数回検索されていた。

(弁護側)「門田さんと会って、最初は何をしようと思っていましたか?」
(天池被告)「お金のことでお話しようと思いました」
(弁護側)「門田さんに紹介された客がお金を払わなかったことと、携帯を貸してその分のお金を払わなかったこと?いくらですか?」
(天池被告)「携帯代は2万ちょっと」
(弁護側)「合計3万5000円をもらえて、謝ってもらえたら目的は達成だった?」
(天池被告)「はい」

2022年3月6日、天池被告は山下被告とともに、門田さんの家へ向かった。

目的は、貸した金銭を返してもらうことと、過去のトラブルについて謝罪してもらうことだったという。

しかし、門田さんは天池被告に渡す現金を持ち合わせておらず、門田さんの知り合いの家に行き、知り合いに金を借りさせたことにして、「天池被告に20万円を返還する」旨の借用書を書かせた。

山下被告からLINEで「返済させるのが目的なのか、痛い目にあわせて最終的に殺すのが目的なのか」と問われた天池被告は、「殺す」「ゆかが」と返信したが、この日は門田さんを家に帰した。

消費者金融に申し込ませ、金が取れないと暴行…そして殺害へ

3月12日午後5時、天池被告と山下被告は再び門田さんの家を訪ね、それ以降、門田さんは山下被告の車に乗せられ、殺害されるまで2人と行動をともにさせられる。

(弁護側)「3月12日に会いに行った目的は6日と一緒?」
(天池被告)「その辺は覚えていない」
(弁護側)「門田さんを車に乗せた後、結束バンドで縛ったのは誰?」
(天池被告)「私がやりました」
(弁護側)「誰かに命令された?」
(天池被告)「山下さん。従うしかない」

その中で、門田さんは消費者金融に融資を申し込まされたり、父親や勤務先などに金を借りるよう指示されたが、金を集めることはできなかったという。

そんな門田さんに天池被告は因縁をつけて馬乗りになり、顔面を殴るなどした。

(弁護側)「お金をもらえたら解放するつもりだった?」
(天池被告)「できないと思っていた」
(弁護側)「門田さん殺害の話はいつ頃した?」
(天池被告)「山下さんが急に言い出して…いきなり『最初に行った日から殺すつもりで向かってた』と言っていて、びっくりしました」

この暴行が警察などに発覚することを恐れ、口封じのために門田さんは殺害された。

「最後に何が食べたい?」コンビニで聞いた後 粘着テープで…

(弁護側)「すぐに殺害したのですか?」
(天池被告)「コンビニに行って、『最後に何が食べたい?』と山下さんが言っていた」
(弁護側)「門田さんは死にたくないと話していましたか?」
(天池被告)「はい」
(弁護側)「あなたはやめようと言いましたか?」
(天池被告)「自分を責めて、『私が悪いんだから許してあげて』と言いました。(山下被告は)余計に怒って、『もう覚悟は決まっている』と」

駐車中の山下被告の車の中で、山下被告が門田さんにビニール袋を渡し、頭からかぶるように言った。

その後、天池被告が門田さんの首に袋の上から粘着テープを3周巻いた。

門田さんは粘着テープをはがそうと暴れたが、天池被告が巻き直した。

さらに、その3周目の粘着テープを山下被告が巻き直した。

そのまま被告2人は門田さんが死ぬのを待ったが、門田さんは死ななかったという。

山下被告は天池被告に車内にあった延長コードを取るように言い、天池被告から受け取った。

そして、天池被告が運転席と助手席の間に移動し、周囲を見張る中、山下被告が門田さんの首を延長コードで絞め、殺害した…。

遺体の上にセメントをかけ、畑の隅に遺棄…衣服は海に

被告2人は門田さんの遺体を遺棄する場所を探し、岐阜県内など複数の候補を回った。

その後、半田市のホームセンターなどでセメントを買い、遺体を愛知県東浦町の畑に埋めることに決めた。

辺り一帯に耕地が広がる場所だ。

遺体発見現場周辺

遺体から服を脱がせて、下着姿で車から地面に下ろした。

台車で遺体を遺棄現場の近くへと運ぶと、下着を脱がせ、山下被告が穴を掘った。

穴の深さは約0.55メートル、縦横は2.65メートル×1.7メートル。

天池被告はその間、周囲を見張り、その後、2人で遺体を裸にして穴へ運び、買ったセメントを使いながら穴を埋めた。

脱がせた衣服はその後、海に捨てたという。

遺体発見現場

畑に遺体を遺棄した後、山下被告は何度も現場を確認に行っていた。

「とりあえずあそこは異常なし」「あそこ近くのコンビニ。あそこは異常なし」…
そんなLINEが天池被告宛に何度も送られた。

天池被告も「良かった」と返信している。

そして、2022年4月3日、別の女性に対する監禁事件で逮捕された天池被告が、門田さんに対する殺人や死体遺棄について自供。

翌日、天池被告の案内で、門田さんの遺体が発見された。

遺体は仰向けで体を伸ばした状態で、腕を体の上で交差していた。

顔面には黒色のマスクがつけられていた。

解剖の結果、死因は「頸部圧迫による窒息」と判明した。

「殺したいと思ったことは一度もない」と涙 争点は心神耗弱状態にあったか

CBC

2024年2月29日、名古屋地裁で始まった裁判。

弁護側は事実関係は争わないものの、殺人・死体遺棄事件当時、天池被告は山下被告と支配従属関係にあり、「心神耗弱状態だった」と主張した。

CBC

天池被告は起訴内容を認めたうえで、被告人質問では…

(弁護側)「遺体を埋める話を山下被告とした時、あなたは?」
(天池被告)「パニックが起きそうだった。怖かったし、そういう経験もないし、逃げ出したいと思った」
(弁護側)「山下被告に従わないとどうしようもないと?」
(天池被告)「はい」

裁判の被告人質問で、弁護側から最後に「門田さんを殺したいと思ったことは?」と問われると、天池被告は涙ながらに「一度もないです」と答えた。

裁判では、門田さんの父親の意見陳述書も読み上げられた。

「稲沢警察署で娘の死を知りました。『なぜ?』『何で?』『殺人事件?』『ウソだ』、そう思いました。娘は見るのも辛い姿でした。こんなことをした人間は絶対に許せない。娘は3日連れ回され、畑に遺棄されたと聞いたが、被告は下見をして完全犯罪を狙っていた。こんな殺人鬼に対して、自分の手で復讐してやりたい。被告には深く反省してもらいたい。死ぬまで刑務所に入ってほしい。こんな残忍で冷酷なことをする人がパニック発作を起こすわけがない。この裁判でまたあの悪夢が蘇ってきました。食欲はなく、夜は酔い潰れるまで酒を飲んで寝ています。猫が玄関で物音を立てると、典子が帰ってきたと思ってしまいます。私は犯人の天池と山下を死ぬまで憎むでしょう、死ぬまで」(意見陳述書より)

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検察側は、天池被告が心神耗弱状態にあったとの弁護側の主張を否定したうえで、「各犯行の重要な一部を担うとともに、被害者はもともと被告人の知人であり、被告人が被害者への恨みや金銭トラブルを山下に話したことがきっかけで、山下がその金銭回収等に関わり、被告人もまた山下の関与を金銭回収等の機会と捉えたことから犯行のきっかけを与えた」、「被害者を数日間にわたり連れ回した挙げ句、検挙されたくないなどの自己中心的な理由から延長コードで首を絞めるという残虐な態様で殺害し、その遺体を発見困難な土中に埋めた悪質な事案」(論告要旨より)として懲役18年を求刑。

一方、弁護側は「被告人は門田さんを殺害することまでは考えていなかった。山下が用意した状況のなかで門田さんを殺害する行為に加担するように追い詰められていった。山下の命令に背けば自分が殺されるかもしれないとの恐怖心もあった」(弁論要旨より)として懲役4年が相当と主張した。

そして判決は…

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2024年3月15日、名古屋地裁は、天池被告は当時、完全責任能力があったとして、懲役16年の判決を言い渡した。

殺人・死体遺棄事件については以下の通り。

「被告人(天池被告)と山下は被害者(門田さん)に対し、数日間連れ回すなどした挙句、最終的にはビニール袋をかぶらせて延長コードで首を絞めて殺害しており、犯行態様は、長時間にわたり苦痛を与える残虐なものである。被害者の感じた肉体的苦痛、恐怖や不安といった精神的苦痛は甚大であり、落ち度のない被害者の尊い生命が失われた結果は誠に重大で、取り返しがつかない。遺族の悲しみや喪失感は想像に難くなく、拠り所を失った遺族が厳しい処罰感情を抱くのは至極当然である。被告人は被害者を殺害する直前にパニック発作を起こして精神的に動揺し、目の前で人が実際に死ぬことに対する恐怖感や、解放するか始末するしかないという二択を迫られる中での切迫感から、山下の指示に従うほかないという心境に至って被害者の殺害に及んだもので、意欲的に殺害に関与したとはいい難く、果たした役割も山下に比べると相対的に低いといえる。しかし、被告人自身、最終的に殺害を容認した上で、自己の判断でガムテープを巻き加えるなど、状況に応じて主体的に行動していた面も認められる。また、そもそも、被告人の恨みを端緒として被告人らが被害者を探していたという経緯や、山下の指示もあったとはいえ、被告人自身が暴行を加えて被害者を帰すことができない状況を招いた末に被害者殺害に至っていることなどに照らせば、殺人のきっかけを作ったのは被告人といえ、この点も相応に重視すべきである。
さらに、被告人は、山下と共に、殺人を隠蔽するため死体遺棄に及んでいる。被害者を裸にした上で、セメントをかけて土中に埋めるという犯行態様は、被害者の尊厳を無視するものであり、遺棄場所の下見を行い、セメントを購入するなど、一定の計画性も踏まえれば、死体遺棄についても厳しい非難は免れない」(判決要旨より)

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