58歳タイソンが18発しか的中できずユーチューバーに息切れ“塩試合”で完敗も「これで終わり?そうは思わない」と現役続行を示唆。「次は兄だ」とローガン・ポールを次戦に指名
プロボクシングの元世界ヘビー級3団体統一王者のマイク・タイソン(58、米国)とユーチューバーでプロライセンスを持つジェイク・ポール(27、米国)が15日(日本時間16日)、米テキサス州アーリントンのAT&Tスタジアムで、ヘビー級2分×8ラウンドの特別ルールで公式戦として対戦し、タイソンが0-3で判定負けした。タイソンは序盤に往年の動きでプレスをかけたが3ラウンド以降はほとんど手を出すこともなく失速。膝を故障していたそうだが、年齢の衰えは隠せなかった。それでも、試合後にタイソンは、現役続行を示唆して、ジェイクの兄のローガン・ポール(29、米国)を名指しで対戦を呼び掛けた。
「グローブを噛んだのはクセだ」
最後の第8ラウンド。残り10秒を知らせる拍子が鳴ると、ポールは攻撃を止めて、両手を後ろに回してお辞儀をし、今度はグローブを合わせて2度頭を下げた。
「彼と戦えたことは名誉でしかない」
タイソンへのリスペクトの気持ちをその態度で示した。
すでに勝敗は明白だった。
タイソンは1ラウンドはガードで顎を固める往年の「ピーカブースタイル」から高速のダッキングで上体を揺らしながらプレッシャーをかけた。下がるポールを追い、左ジャブをヒットさせ、右のストレート、ローブロー気味に右のボディショットを繰り出すと、NFLのダラス・カウボーイズの本拠地スタジアムを埋めた8万人近いファンがドッと沸いた。2ラウンドにも左フックをカウンターで合わせ、58歳と思えぬ動きを見せていたが、3ラウンドに入ると失速。大振りの右フックを打ち込んできたポールに足を使われ、ジャブ、ワンツーから左フックのコンビネーションなど、手数で圧倒され始めた。タイソンは、なんとか反応しようと心掛けるがまったく手が出なくなり、4ラウンドには逆に下がる始末。インターバルでセコンドからは「待つんじゃない!」と指示が飛ぶが、年齢には勝てず、ガードを固めて、わずかに足を動かしてディフェンスすることしかできない。
逆にポールのセコンドは「鉄人はもう年だ。スピードなんかないじゃないか?」とハッパをかけた。
ポールは7ラウンドに左右のフックを浴びせて優位に立つが、タイソンのオーラが邪魔をしたのか、それともボクシングスキルがないのか、あと一歩が踏み出せず、途中、両者にレフェリーがファイトを要求する場面も。
最終ラウンドを前にタイソンは、「チャンピオン!最後だ。アグレッシブに行こう!」と送り出されたが、最後まで見せ場を作ることはできなかった。
試合は判定にもつれこみ、80-72のフルマークが1人、79―73が2人の完敗だった。中継で示されたデータは、ポールが278発のパンチを繰り出して78発を的中したのに対してタイソンは半分にも届かない97発で的中したパンチはわずかに18発だった。タイソンの年齢を加味して、1ラウンドは、3分ではなく2分とされ、通常は10オンスのグローブもダメージを負わないように14オンスが使用された。
だが、タイソンのスタミナもパワーも持たなかった。
前日計量では足を踏まれたタイソンがビンタを張って、両陣営が入り乱れる大騒動となったが、試合後、ポールはタイソンへの敬意を示した。
「彼は伝説であり、歴史上最もグレートなボクサーだ。彼がいなければ、私は今この場にいなかっただろう。彼は(ボクシング界の)アイコンであり、彼と戦えて光栄だ。地球上で最凶の男で最もいけている男。予想通りに本当にタフな戦いだった」
そして「ノックアウトを狙っていたのか?」と聞かれ、「本当は少しばかりハードにやりたかった。ただ彼が私を痛めつけてくるのも、私が彼を痛めつけるのも怖かった。最善は尽くした」と答えた。
リング上で並んでインタビューを受けたタイソンの言葉数は少なかった。
それでも「今夜のパフォーマンスは満足か?」との質問に「間違いなくハッピーだ」と答え「大差の判定結果い驚いたか?」と聞かれ「ノー」と返した。
「私の感覚ではいい試合だった。彼はいいファイターだった」
――58歳の男が27歳の若者を相手に戦えることを世界の40代、50代の人たちに示したのではないか。
この戦いの意義について話が及ぶと、「誰に対しても証明したものはない。ただ私自身にだけだ。私は世界のためにやろうとするような人間ではない。自分がやれたことに満足だ」と決して大きな話をせず、控えめに素直な心境を明かした。
ただ試合前のトレーニング中に膝を痛めたとの情報があり、そのことを確認されると「その通りだ」と認めながらも「それを言い訳にしたくない」と潔かった。
試合中には自分のグローブを噛む異様な仕草が何度か見られた。
「それはクセだ。私は噛むことに執着がある」
かつてイベンダー・ホリフィールドの耳を嚙みちぎった“前科”のあるタイソンがそう説明すると会場は笑いに包まれた。
タイソンは2005年6月のケビン・マクブライト(アイルランド)に6回TKO負けを喫して事実上引退した。15年後の2020年11月にロスのステイブルセンターで当時52歳の元世界4階級制覇王者のロイ・ジョーンズ氏(米国)との2分×8ラウンドのエキシビションマッチで復帰し、1-1の判定ドローだった。この試合が世界タイトル戦以上の人気を博したことで、米大手映像配信会社のNetflixが目をつけ、今回初めてスポーツのライブ配信に挑んだ。ただ当初7月20日に行われる予定だったが、5月にタイソンが航空機内で持病の胃の腫瘍の再発により嘔吐やめまいを起こしたために延期となった。
話題を集めたもうひとつの理由は、ジェイク・ポールがユーチューブの登録人数が2000万人を超えるインフルエンサーであること。同じくユーチューバーで元5階級制覇王者のフロイド・メイウェザー・ジュニア(米国)と戦ったローガン・ポールの実弟で、彼の方が、アマチュア経験もありボクサーとしてのスキルや能力が高く、2021年にプロデビューして11戦10勝(7KO)1敗の戦績があり、元UFCミドル級王者のアンデウソン・シウバ(ブラジル)、同じくUFCのトップスターでコナー・マグレガーや五味隆典に勝ったこともあるネイト・ディアス(米国)らからダウンを奪い判定勝利している。
まだ、この試合のNetflixの視聴者数は明らかになっていないが、リング上でポールは、「1億2000万人以上が視聴するイベントで売り上げは2000万ドル(約30億8000万円)だ」と豪語。米CNBCによると前売りの時点でのチケットの売り上げも1780万ドル(約27億4000万円)に到達したという。
ファイトマネーは、タイソンが2000万ドル(約30億8000万円)以上、ポールは、その倍は下らないとされていて、年齢の衰えを露呈したタイソンも、美味しいいチャンスある以上、これを最後のリングにするつもりはない。
「これが最後か」の質問に「わからない。状況による」と曖昧に答えたが、さらに「これが最後になる可能性は高いか?」と突っ込まれると「そうは思わない」と現役続行を示唆した。
次の対戦相手について聞かれると「たぶん、彼の兄だ」と、隣にいたローガン・ポールを指名した。
それを聞いたローガン・ポールは笑って「いい加減にしろよ。お前を殺してしまうぞ!」と、食いついて早くも次章への火花を散らした。
タイソンの試合内容を配信したNetflixがどう評価するか。塩試合に終わったとはいえ、KO負けを喫しなかったことで、まだ賞味期限があると判断されれば、タイソンvsローガン・ポールの第二章の可能性はあるだろう。
一方のジェイク・ポールは、次戦について「誰とでも戦う。いろんな名前がリストにあるが特別に名前をあげることはしない」と上から目線で語った。
一部で噂にあがったスーパーミドル級の3団体統一王者であるサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)との世界戦の可能性について聞かれると「カネロは私が必要だ。彼の名前を呼ぶことはしないが、彼は大金を欲していて、どこに金を持っている男がいるかを分かっている」と対戦の可能性をほのめかした。
58歳のタイソンを相手に判定勝利のポールが、もしカネロと対戦すれば“秒殺”で終わるだろうが、話題性だけは抜群のカードにはなるだろう。
11/16 17:55
RONSPO