批判殺到!「まるでガラクタ」「恥じるべき」還暦目前のタイソンが計18発しかパンチを当てられない無残な“息切れ塩試合”でユーチューバーに完敗して厳しい評価を受ける

 プロボクシング元世界ヘビー級3団体統一王者のマイク・タイソン(58、米国)とユーチューバーでプロライセンスを持つジェイク・ポール(27、米国)が15日(日本時間16日)、米テキサス州アーリントンのAT&Tスタジアムで、ヘビー級2分×8ラウンドの特別ルールで公式戦として対戦し、タイソンが0-3で判定負けした。タイソンは序盤に往年の動きでプレスをかけたが、3ラウンド以降は、ほとんど手を出せず失速。ダウンシーンも見られない“息切れ塩試合”に批判の声が殺到した。

それでもタイソンは現役続行を希望次は兄ローガン・ポール?

 還暦を目前にしたタイソンの現役復帰にはやはり無理があった。
 登録人数が2000万人を超える人気ユーチューバーのジェイク・ポールを相手にした19年ぶりの公式戦。タイソンの安全を担保するため1ラウンド3分を2分に短縮し、グローブも通常の10オンスではなく、スパー用の14オンスを使用した。2020年11月にロスのステイブルズセンターで当時51歳の元世界4階級制覇王者のロイ・ジョーンズ氏(米国)と対戦して引き分けに終わっているが、この時はエキシビションマッチだった。
 スタートの1ラウンドこそ、ガードで顎を固める往年の「ピーカブースタイル」から高速のダッキングで上体を揺らしながらプレッシャーをかけた。足を使って下がるポールを追い、左ジャブをヒットさせ、右のストレート、ローブロー気味に右のボディショットを繰り出してNFLのダラス・カウボーイズの本拠地スタジアムを埋めた7万2000人を超えるファンを熱狂させた。
 2ラウンドにも左フックをカウンターで合わせたが、ボクシングをしたのは、ここまで。3ラウンドからは、足が動かなくなり失速。まったく手が出なくなった。
 セコンドからは「待っていてはダメだ」「アグレッシブにいけ!」と指示が飛ぶが58歳の肉体は言うことを聞いてくれない。試合後には、トレーニング途中で膝を痛めていたことを認めている。
 一方のプロで11戦10勝(7KO)1敗の実績のあるポールは、ステップワークを使ってジャブ、ボディショット、左右のフックなどの手数で圧倒したものの、「本当は少しばかりハードにやりたかった。ただ彼が私を痛めつけてくるのも、私が彼を痛めつけるのも怖かった」と、タイソンの秘めた一発を恐れて足を止めて戦えずクリーンヒットは打ち込めなかった。 
 本人は手加減したことをほのめかしたが、ダウンシーンは演出できず、最終ラウンドに残り10秒の拍子が鳴ると手を後ろに回してお辞儀をして自ら試合をストップ。
 試合後に「彼は伝説であり歴史上最もグレートなボクサー。ボクシング界の象徴と戦えたのは光栄だ」とリスペクトの姿勢を示したが、会場は大ブーイング。判定結果が出る前にほとんどの観客が出口へと足を早めた。
 判定は1人がフルマークの80-72、2人が79―73でタイソンが完敗。ライブ配信をしたネットフリックスが示したパンチ数は、ポールが278発を繰り出して78発を的中したのに対してタイソンは半分にも届かない97発で的中したパンチはわずかに18発だった。
「間違いなくハッピーだ。私の感覚ではいい試合だった。彼はいいファイター。誰に対しても証明したものはない。ただ私自身にだけだ。私は世界のためにやろうとするような人間ではない。自分がやれたことに満足だ」
 タイソンは満足そうに語ったが、ボクシング界やプロスポーツ界からは非難の声が殺到した。
 史上初の2階級4団体統一王者で、現WBA世界スーパーウェルター級、WBO世界同級暫定王者のテレンス・クロフォードはXに「タイソンのことが大好きだが称賛し過ぎだ。ガラクタのようだった。長く(トレーニングで)体を慣らして試合全体で97発しかパンチを放たないなんてクレイジーだ。彼が怪我をしなくてよかった」と投稿。

 

  

 元IBF世界スーパーウェルター級王者のイシュー・スミスは「レジェンドを見て育った。子供の頃からボクシングに夢中だった。これ以上このようなイベントはやってはダメだ」と、幻滅した気持ちを明かした。
 38歳までリングに立った元IBF世界スーパーミドル級王者のカレブ・トルアックスは「関係者全員が自分を恥じるべきだ」と、この興行をプロモートした関係者を批判。
 元WBC世界クルーザー級王者で映画ロッキーシリーズにも出演しているトニー・べリューは、実力がなく話題先行のポールを非難した。
「我々はこの男(ジェイク・ポール)にすべての非難を向けるべきだ。全員が話題にし、目にしている。こうした馬鹿げたことはやめなければならない。彼が老人ではなく健康で適した相手と戦うまで彼に注目するのはやめよう。ポールの手助けをするまともなボクシング関係者は自分自身を見つめる必要がある。ただ悲しい」
 ロンドン、リオ五輪の金メダリストで元WBO世界女子フライ級王者のニコラ・アダムスは、「タイソンがやれるところを見たかったが、彼は58歳。素晴らしい体つきだが、前途のあるこのような若者たちと戦うには十分ではなかった」とXに投稿した。
 批判の声はボクシング界だけに留まらなかった。
 NBAの“レジェンド”のマジック・ジョンソンもXに「ただ悲しい(頭を横に振る)。これ以上見れなかったから(配信を)切ってしまった。タイソンのすべての試合を見に行っていたから、このようなタイソンを見るのは悲しい。今夜のこの戦いはボクシングにとって素晴らしいことではなかった」と心境をポスト。
 元NFL選手でヒューストン・テキサンズなどで史上最高の守備選手として活躍したJJ・ワットはXで「この試合を見るために(寝ずに)起きていた自分に腹を立てている。私にはもっと分別がある」とあきれ、元NFL選手で3年連続MVPを獲得している伝説のQBのブレット・ファーブも、「時間は永久に止まることはない。もしそうでなければ、我々は競技を決して止めることはしない。タイソンが怪我をしなくてよかった。ジェイク・ポールはもっとやれたように見えたが自制した」と試合を振り返った。

 

 

米メディアも厳しい評価を与えた。
 米専門サイトの「ボクシング・シーン」は、Xのトレンドに「恥ずかしい」「彼は58歳だ」というワードが上位を占めたことを伝え、スポーツ専門局「ESPN」は、「タイソンはファンからの大きな支持を集めたが老いには勝てないことを証明した。前日計量でポールが割り込んだ時にタイソンは彼の顔をはたいた。それがタイソンが着弾させた最大の打撃だった」と皮肉った。USAトゥデイ紙も「タイソンはポールのエリートボクサーぶりに負けたのではない。彼は58歳だったから敗れた。結果は期待外れのものだった。しかしそうならないと見ていたのならばあなたの間違いだ。象徴的存在でもあった58歳の元アスリートはボクシングのリングには似つかわしくなかった。もう2度とこのようなことに騙されないように願おう」とまで記した。 
 それでも、試合後にタイソンは「これが最後?」と聞かれ「そうは思わない」と現役続行を示唆。希望する対戦相手に関しては「たぶん、彼の兄だ」とリング上にいた実兄のローガン・ポールを指名した。ローガン・ポールは弟より人気のあるユーチューバーで元5階級制覇王者のフロイド・メイウェザー・ジュニア(米国)と戦い、話題を集めたことがある。
それを聞いたローガン・ポールは笑って「いい加減にしろよ。お前を殺してしまうぞ!」と挑発したが、もうこれ以上の茶番は見たくないのがファンの本音だろう。

ジャンルで探す