「どうでもいいわ。そんなこと!」9.3有明で井上尚弥に挑戦者する元IBF王者ドヘニーが筆者の質問にぶち切れる…その理由とは?

 プロボクシングのスーパーバンタム級王者の井上尚弥(31、大橋)に9月3日、有明アリーナで挑戦する元IBF世界同級王者のTJ・ドヘニー(37、アイルランド)が24日、横浜の大橋ジムで公開練習を行った。井上へのリスペクトから挑発発言は一切なかったが、体重増加の話はごまかし、筆者の質問には激怒。絶対不利予想への反骨心をちらつかせた。また視察した父の井上真吾トレーナー(53)は、強靭なフィジカルと相手が得意な打撃戦に巻き込まれないことへの警戒心を強めた。

 

ドヘニーの公開練習をチェックした大橋秀行会長(左)と真吾トレーナー(写真・山口裕朗)

 当日の増量計画も明かさず「そういう体質なんだ」

 挑戦者のドヘニーがぶち切れた。
 代表質問では、「井上はファンタスティックだ。彼を汚すような口汚いことを言うつもりはない。彼に対して対策をするのは愚か。オールラウンドでどんなことにも瞬時に対応するボクサーだ。対策を練っても崩れたときに何もできなくなると困る。それに対応すること、そしてメンタルを作ってきた。9月3日の試合を見てくれ」と、決して挑発するような発言はせず、紳士な対応を貫いていた。
 だが、筆者が、当初の井上の対戦有力候補で、昨年ドヘニーも途中ダウンを奪われるなどして判定負けをしているIBF&WBO同級1位のサム・グッドマン(25、豪州)が現地メディアに「3ラウンド以内に倒されて終わる」と予想したことを伝え、「その発言をどう思うか?」と聞いたところ顔色を一変させた。
「どうでもいいわ、そんなこと!」
 そう吐き捨てて右胸あたりをポンポンと叩いた。
 明らかに機嫌を損ねた。強烈な自負だ。
英ブックメーカー「ウィリアムヒル」のオッズは井上勝利が1.04倍で、ドヘニーが15倍。ほぼ賭けが成立しないほどの賭け率で、マッチルームのエディ・ハーン代表が「ひどいミスマッチだ」と散々こき下ろすなど、米メディアのほとんどが、ドヘニーを、井上の“噛ませ犬”として見ている。だが、ドヘニーには燃え上がるような反骨心がある。
「敵視でアンダードッグとして試合をするのはいつものことだ。自分を信じること。どんなときでも自分を出すために自分信じるだけだ」
そして、こうも続けた。
「夢の舞台だ。そこに立てるんだ。これまでモチベーションの上がらない試合でも勝ってきたが、今回はモチベーションは爆上がりしている。4団体のタイトルがかかる。これ以上のタイトルマッチはない。このために100%やれることをやってきた」
 米国ボストンで信頼を寄せるヘクター・バミューデス・トレーナーと共に家族とも離れて10週間の強化合宿を張ってきた。
 ドヘニーは日本人キラーとして知られる。2018年に来日して岩佐亮佑からIBF世界同級王座を奪いとり、昨年6月には 大橋ジム所属で現OPBF東洋太平洋同級王者の中嶋一輝を4回TKO、10月には井上のスパーリングパートナーを務めてきたジャフェスリー・ラミド(米国)を1回TKOで続けて撃破。5月6日の東京ドーム決戦では、井上の対戦相手のルイス・ネリ(メキシコ)が体重超過した場合のリザーバーとして、第1試合に登場し、ブリル・バヨゴス(フィリピン)に4回TKO勝利している。
 だが、肝心な話は煙に巻いた。
 ドヘニーは当日体重を大幅に増やすことで有名。ラミド戦ではリミットより12.6キロを増量し、当日は67.8キロでリングに上がった。6階級上のスーパーウエルター級に相当する体重だ。
 現在の体重と、当日何キロ増量するつもりかを質問したが「JBCに聞いてくれ。9月2日の午後13時(前日計量時間)に122パウンド(スーパーバンタム級の55.34キロ)で現れる」とごまかし、当日の増量目標も明かさなかった。
 10キロを超える増量の意図を聞くと「特に意味はない。そういう体質なんだ」とぶっきらぼうに吐き捨てた。

 

 公開練習ではウォーミングアップ、シャドーボクシングから、ミット打ちを2分、さらにトレーナーの持つドラム型のミットを思い切り殴りつけるトレーニングを1分ほど披露した。
 最前列で視察した真吾トレーナーは警戒心を強めた。
「全体の動きはベテランちっく。フィジカルが強そう。上半身はしっかりしているし体のパワーはありそう。ひとつひとつのパンチは強いなと改めて感じた」
 フィジカルの強さは要警戒。
 その上で近距離での打撃戦には応じない方針を明かした。
「でもシャドーを見てハンドスピードは特別感じなかった。スピードは尚弥の方がある。ハンドスピードで対応できないとなると、体をつけあって足で追い詰めていこうとするのかな。でもショートのアッパーを入れて突き放すとかやることはある。向こうの土俵で足を止めてやるのは怖いかな。尚弥が当日、いけると思えばいくかもしれないが、基本、相手の土俵にあえて乗ることはない。モチベーションもある。それも踏まえて気をつけなければいけない」
 公開練習では、トレーナーがミット打ちで打つべきパンチを数字で指示していた。マイク・タイソンが取り入れていた手法だ。
「1(ワン)」がジャブ、「2(ツー)」が右ストレート、「3」がフック、「4」がボディ。コンビネーションは数字を続けて言うが、「1、2」より「1,3」を多く発していたフックパンチャーなのだろう。そして突如「8」と指示。ドヘニーは左フックを斜め上から打ち降ろした。明らかに角度の違うフックだった。
 真吾トレーナーはそこを見逃していなかった。
「フックは上から来たり、真ん中から来たり微妙に角度を変えてきていた。そこを実際見れたことが良かった」
 ルイス・ネリ(メキシコ)戦では、1ラウンドに至近距離からカウンターのフックを浴びてまさかのダウンを喫した。ドヘニーも「井上も人間だった。でも短時間でリカバリーして勝ち切ったのは素晴らしい」と、そのシーンに注目した。おそらくドヘニー陣営はその距離からのフックに光明を見出そうとしている。
 だが、真吾トレーナーも「今回は、それを踏まえてブロッキング、ボディワークをやっている」と対策を練ってきた。
 ドヘニーには打たれ強さもある。当日に10キロ以上の体重を増やすのはパワーアップと共に耐久性への効果も考えてのものだろう。
 しかし、真吾トレーナーは「そこ(体重)がベストなら気をつけなければならないけれど、尚弥もかなりパワーアップしているからね。打たれ強くてもタイミングでもらうと効いちゃう。それは出せる。変な意識や気負いが入ると怖いが、尚弥が普通に冷静に丁寧にやってもらえればいい」と懸念を打ち消した。
 真吾トレーナーは、この日が、53歳の誕生日だった。3日前に息子の尚弥からスキンケアの3点セットをプレゼントされた。
「嬉しかったですよ。さっそく使っています。肌ツルツルでしょう。試合の日ももちろん使っていきます」
 マネージャーから尚弥がXに父親への感謝の言葉を投稿していたことを聞き、さらに感動したという。ただ最高の誕生日プレゼントは9月3日に用意されている
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

ジャンルで探す